第43話 意外と口うるさい妹


「ここって……」


「うん、バスルーム」なるみちゃんは笑顔で言った。


「えっと、風呂にでも入ればいいのか?」


「お風呂じゃなくて、シャワーを浴びてほしいんだ。でもその前に、手を洗ってね」


「あ、ああ……」


 俺はバスルームの前の洗面所で手を洗った。


「指先、手首までちゃんと、ね?」


「あ、分かった……」


 なるみちゃんに細かく指示されながら、俺は手を洗い直した。


「うん、お疲れ様。次はシャワーなんだけど、注意することがいくつかあるんだ」


「な、なにかな?」


 俺は恐る恐る訊いた。


「まず、制服とか下着を脱いで裸になるでしょ?」


「あ、ああ……」


「その時、制服や下着に手を触れるでしょ? その時、また手が汚染されるじゃん?」


「……あー、何となく分かったわ……」


「ふふっ。だから順序は、まず制服と下着を脱ぐ。その脱いだ制服と下着を、そこの洗濯機の中に入れる」


「ふんふん……」


 俺は頭に入れながら何度も頷く。


「そしてまた手を洗ってから、バスルームに入って。くれぐれも手を洗う前に入らないようにお願いね」


「よし、分かった」


「あと……」


 まだあんの?


「体はちゃんと耳の裏とか足の間や裏とか細部まで洗って。勿論、顔も髪の毛もきちんと。着替えはこっちで用意したものを使ってね、城ヶ崎じょうがさきさん」 


「あ、ああ……分かった」


「まあ城ヶ崎さんは初めてだから、いつものシャワーを三回浴びる感じでお願い」


「つまり三回、体とか顔とか髪の毛を洗う、と」


「うん。バスルームから出てタオルで体を拭いた後は、また手を洗ってから下着とか着てね。そして服を着た後も手を洗ってからドライヤーで髪の毛を乾かして、その後また手を洗ってから、地球上に存在するいかなる物質には一切手を触れずに、大声で私を呼んで」


 一苦労ひとくろうだな。


「分かった……やってみる……」


「うん、お願いね。じゃあ私は失礼するから」


 なるみちゃんは扉を閉めて出ていった。


「いっちょやるか……」


 俺は指示通り、服を脱いで洗濯機に放ってから手を洗い、バスルームに入った。そして体の細部、顔、髪の毛を洗っては流しを計三回。終えた時はふやけそうになっていた。


「はぁ……流石に三回は疲れたな……」


 続いてバスルームから出て、タオルで全身を拭いてから手を洗い、用意された下着と灰色の寝間着を着てから手を洗い、ドライヤーで髪の毛を乾かしてからまた更に手を洗った。


「な、なるみちゃーん!」


「はーい、入るよー!」


 なるみちゃんが入ってきた。俺の姿を見るや否や、なるみちゃんはクスッと笑った。


「城ヶ崎さん、すっごく疲れたって顔してる。それに湯気が出てて面白ーい」


 そこ笑うとこなんだ。もしかして見かけによらずS?


「あとお父さんと同じ寝間着姿がツボかも」


「へ? これお父さんのなの?」


「うん。下着もそうだよ」


「へ、へえ……。なんかリアクションに困るな……」


 ふふふっとなるみちゃんは笑う。


「じゃあ城ヶ崎さん、このスリッパを履いてほしいんだけど、その前に……」


 なるみちゃんは除菌ウェットシートを取り出した。


「これで足の裏を拭いてから履いて。その後――」


「手を洗う、だな?」


「うん、お願いね」


 何となく分かってきた。俺は指示通りに実行。


「オッケー。次は?」


「もう大丈夫。今から作戦会議する部屋に案内するから、ついてきて。途中、くれぐれも壁を触ったりしちゃ駄目だよ? そしたらまた手を洗わなきゃいけないから」


 頷き、俺はなるみちゃんの後をついて二階に上がった。そこの一室に俺は案内された。


「じゃあスリッパ脱いで中に入って待っててね。この部屋の物は触ったりしても大丈夫だから。でも咳とか、くしゃみしたら駄目だからね」


「ああ、分かった」


 またねー、と、なるみちゃんは部屋の扉を閉めた。

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