第42話 G 侵 入


 学校から徒歩五分ほどの場所にある、二階建ての一軒家に着いた。

 玄関に備え付けられたインターホンの横には、鞘師さやしと書かれた表札が貼られている。


「まず、城ヶ崎じょうがさきさんが入れるように準備してくるね」


 なるみちゃんは玄関の扉を開けて、家の中に入っていった。


「なあトアリ、準備って何だ?」


「汚染された使徒が侵入してもこの世の全てが爆ぜないように、なるみが準備してくれてるんです」


 …………まるで意味が分からないのですが。


「城ヶ崎くんにはまず、あのセントラルドグマを突破してもらいます」


 ただの玄関の扉なんですが。


「決して、あの内側を触らぬようお願いします。もし触ると……地球が爆ぜます」


 絶対に爆ぜないと思うのですが。


「まず、靴を脱いで下さい」


「は? ここで?」


「ええ、お願いします」


 俺は渋々、靴を脱いだ。


「脱いだ靴も、鞄もスマホや財布等の貴重品も――」


 いいつつ、トアリは大きなビニール袋を取り出した。


「この中に入れて下さい」


「……まさかゴミに出すんじゃねーだろうな」


「安心して下さい。価値はゴミ同然ですが、捨てるようなことはしません」


 サラッと失礼なことを言うな。


「お姉ちゃん準備できたよー」


 と、なるみちゃんが玄関の扉から顔を覗かせた。


「オッケー。じゃあ城ヶ崎くんを入れるから」


「うん、分かった」


 なるみちゃんは引っ込んだ。


「では、今から私がセントラルドグマを開けるので」


 玄関の扉ね、はいはい。


「内側は絶対に触らないで下さいね! 絶対ですよ!」


 分かっとるわしつけえな。こういうことだけには必死だなホント。


「入ったらまず、靴下を脱いで下さい。そこで注意するポイントは、靴下を脱いで素足になった後のことです」


「……何だよ?」


「素足になったその足を、地面に着ける前に、廊下に敷かれたタオルの上に着けるようにして下さい。勿論、両足ともです」


 めんどくせえな。


「まあいいや……。やりゃあいいんだろ? 仰せの通りに」


「私は家の裏口から入るので、どうぞ」トアリは扉を開けた。


 俺は内側に触れぬよう入る。


「ではまた……」トアリは扉をしめた。


 俺は玄関で独りになった。


「あー、なるほど……」


 玄関は普通だった。しかし廊下には色とりどりのバスタオルが敷かれており、それがどこかの部屋に繋がる道を作っている。


「これを辿ればいいの? なるみちゃん!」


 俺は家の奥に向かって声を張った。


「うん! くれぐれも指示通りにね!」


 なるみちゃんの声が遠くの部屋から聞こえてきた。


「脱いだ靴下は、玄関にあるゴミ箱の中に捨て――入れてね!」


 今なんか凄いこと言おうとしてなかった? 気のせいだよねなるみちゃん信じてるよ。


「わ、分かった!」


 俺は靴下を右足から脱いで、裸足になった右足をタオルに着地。そして右足だけを軸に立って、左足の靴下を脱いで両足タオルの上に着地。次いで近くのゴミ箱に靴下を捨て――入れた。


「なるみちゃん、脱いだよ!」


「じゃあそのままタオルの上を歩いてね! 絶対に床に足を触れたら駄目だからね!」


「あ、ああ!」


 俺はタオルの道を辿って奥に進んだ。辿り着いた部屋の前には、なるみちゃんが立っていた。

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