第38話 同じクラス委員長だからね
「よう、今日は早いな」
俺が言うと、
「相変わらずの防護服だな」
「ふん。放っておいて下さい」
顔を横に逸らした鞘師の右脇には、大量のプリントが挟まれている。
「何だそれ? 今日って配るプリントあったっけ?」
「こ、これは、その……あっ!」
ハラッ……とプリントが一枚落ちた。それは、昨日から廊下に貼られていた俺の指名手配写真(のようなもの)だった。
「おまえ、それ……」
「べ、別に!」
鞘師は慌てて写真を拾った。
「視界が汚染されると思って剥がしたまでですから! 昨日、
それを聞いて、俺は笑みを溢してしまった。
「な、何ですか!」
「ホント、素直じゃないなと思ってさ」
「う、うるさい! 城ヶ崎くんだって、何してるんですか!」
「ああ、これ?」俺は教室を見渡しながら、「おいおい、クラスのスローガン忘れたのか?」
「スローガン?」
「除菌率、九十九・九パーセントを目指すんだろ?」
「それはまあ……そうですけど……」
「だろ? 俺はただ、男子のクラス委員長として、女子のクラス委員長が作ったスローガンを守ろうと思ってやったまでだよ」
鞘師は黙り、教室はしばらく静寂に包まれた。
「あのさ」
沈黙を破ったのは俺。
「俺、聞いたんだ」
「え?」
「なるみちゃんには口止めされたけど、言うよ。潔癖症になった理由、聞いた」
「……」
「だからって、俺は今までのことを謝るつもりはない。何だろうな……上手く言葉にできないけど、そうするともう、俺たちの関係はギクシャクして、変な感じになると思うし、鞘師だって安い同情されて謝られたくないだろ?」
「……」
「でも一つだけ……一つだけ変わらせてくれ」
「……一つ?」
「ああ。俺、話を聞いて、昔の鞘師に戻ってほしいと思ったんだ。昔の明るい鞘師に。毒づいたりしない、皆に好かれる鞘師に。そう思うようになったってとこだけだな、俺が変わるのは」
簡単に言えば、と俺は続ける。
「鞘師の潔癖症が治るように協力するってことだ。お婆ちゃんもそれを望んでると思う。明るい鞘師が好きだったお婆ちゃんも、昔の鞘師に戻ることを望んでいると思うんだ。俺が何を知ってるんだって思ったんなら謝るけど……」
「……別に……」
鞘師は小さく言った。
「別に、嫌な気持ちにはなっていません……。私だって、そう思ってます……。私だって、潔癖症を治したいと思ってます……」
「そうか……」
再び訪れる沈黙。だがその静けさは、先ほどとは違った。
互いの気持ちを分かり合ってこその沈黙だった。
「よし、決まりだな。もちろん無償で協力する。鞘師の話をなるみちゃんに聞いてから、高校デビューとか言ってた自分がバカバカしくなってさ。んなもん後回しだ。ああでも……さっき言ったと思うけど、潔癖症が治るように協力はするけど、俺は今まで通りの態度で行くからな?」
「ふ、ふん! そんなの承知の上です! 受けて立ちますよ! 私だって今までと態度を変えるつもりはありませんからね!」
「おう。じゃあヨロシクな『トアリ』」
「ええ、まさかあなた如きに下の名で呼ばれるようになるとは思いませんでしたが」
「言ってろ」
俺と『トアリ』は小さく笑い合った。
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