第37話  鞘師トアリ


 鞘師さやしトアリ。

 全身を白い防護服で覆ったフルアーマー系女子。

 ただの潔癖症でウザい奴だと最初は思っていた。

 でも彼女には、悲しい過去があった。


 大好きなお婆ちゃんを流行の病で亡くし、重度の潔癖症になったのだ。


 ゆえに、望まぬ鎧を纏うことになった。

 望まぬ棘を飛ばすようになった。

 望まぬ毒を飛ばすようになった。

 望まぬ環境を作るようになった。


 そう、今の彼女は彼女が望まぬ姿。

 本当の彼女は、元気で明るく、誰にも好かれる人気者で……。

 太陽のような女の子なのだ。

 本当はみんなと一緒に、普通にすごしていきたいけど、できない。

 そんな苦しみを背負っている。


 ……悲しみを背負っている。


 だから彼女は悪くないし、彼女のことを知らずに離れる者も悪くない。

 彼女のことを知らない者を、責めてはいけない。


 でも、知っている者は……。


 知った者は、どうすべきか……。


 その『答え』を持って、俺は朝早く学校に来ていた。


「……あれ?」


 昨日まで廊下に貼られていた俺の指名手配写真(のようなもの)がない。流石にやりすぎだと、教師が剥がすように注意してくれたのだろうか……。


「ふーん……ちょっとはマトモな教師も居るってことか?」


 眠気の残る頭を抱え、俺は教室に入った。当然だが、中にはまだ誰も居ない。


「いっちょやるか」


 まず、俺は教室の高い所(校内放送用のスピーカーや掃除用具の入ったロッカーの上など)に空間除菌ジェルを設置。広告通りなら、これで教室内の空気は九十九・九パーセント除菌される。


「お次は……」


 ウェットシートを使って教室の床、机、椅子を拭いた。こちらも九十九・九パーセントの除菌力を持つ。


「こんなもんか。あー疲れた……」


 細部まで手は届かなかったが、だいたいの場所を拭き終えた。

 体を後ろに仰け反らせて腰を伸ばした時……。

 ギシュリという音と共に、教室に誰かが入ってきた。

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