第34話 sister


「あのな……。てか俺、思ったんだけどさ、鞘師さやしの潔癖症を治せば話は早いんじゃね?」


「ああそれは無理ですね」


 清々しいほどに即答だな。


「つーか何で潔癖症になったんだ鞘師は?」


「……」


 ちょっとその黙るの止めてくんない。


「あっ、お姉ちゃん、今日は遅かったね」


 校門に差し掛かった時だった。誰かに似た可愛らしい声が、俺たちを呼び止めた。声の主は、近くの中学校のセーラー服を着た少女だった。


「お姉ちゃん今日はどうだった? ちゃんと授業、受けられた?」


 と、セーラー服姿の少女は、鞘師に歩み寄った。声が本当に誰かに似ている。


「……へ? お姉ちゃんって?」


 俺は、横並ぶフルアーマー女子とセーラー服姿の少女を交互に見た。


「え? え? お姉ちゃんって、どういうこと?」


 異次元に迷い込んだ羊のように混乱する俺。

 鞘師はため息を吐き、セーラー服姿の少女は両手で学生鞄を持って不思議そうな顔をしている。


「あの、どちらさまですか? お姉ちゃんの知り合い?」


 少女は小首を傾げた。


「あ、えっと、そこのフルアーマーとは知り合いだけど……」


「ええ? そうなんですか?」


 と、少女は分かり易く驚いた。そしてセーラー服の乱れを整えた後に、肩まで伸びた黒髪をサラリと後ろへ払った。


「申し遅れました。私、鞘師トアリの妹、鞘師なるみ。中学二年生です」


 ぺこりと少女……鞘師なるみは一礼した。次いで俺に天使のような微笑みを当てた。


「うおっ!」


 眩しかった。鞘師なるみの微笑みは、太陽光以上に眩しかった。

 そして後光が見えるほど可愛らしかった。

 こんな天使のような少女が、鞘師トアリの妹?


「マジ? マジでキミ……妹なの?」


「はい」


 鞘師なるみはニコッと答えた。


「え? え? ええええええええええええええ?」


 驚くしかなかった。こんな天使と鞘師トアリが姉妹だなんて、信じられなかった。


「ええええ? マジで? マジで? マジで? えええええええええええええ?」


 大声を出す俺に、トアリは舌打ちし、妹なるみはクスクスと笑って何だか楽しそう。


「いや~、マジで? ええええええええ? 信じられないんだけどぉ~」


 天変地異、次元じげん湾曲わんきょく常識じょうしき破綻はたんクラスだよマジで。


「ふふっ。面白い人だね、お姉ちゃんのお友達」


 微笑む妹に、鞘師は「別に」と無愛想に答えた。


「そういえばお兄さん。お名前は何ですか?」


「あぁ。自己紹介がまだだったね」


 俺は咄嗟にイケメンボイスに変えて、キリッと表情を引き締める。


「ふふっ。俺は城ヶ崎じょうがさき俊介しゅんすけ――」


『そう! あの極悪ごくあく非道ひどう六神獣ろくしんじゅう、城ヶ崎俊介!』


 絶妙すぎるタイミングの校内放送止めてえ!


「ええ? お兄さん、極悪非道六神獣なんですか?」


「ち、違う違う! あれは誤解みたいなやつで! ちょっと学校から離れよう! あそこ勉強できるバカしかいないから! ね!」


 俺たちは校内放送が聞こえてこない所まで離れるため、帰り道を進んだ。それまでの間、鞘師なるみから疑いの眼差しを当てられていた。

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