第28話 噂のアイツ(sideM)
『考える人』の銅像の前で立つ、黒スーツ姿の男が目に入った。
長く伸びた
(誰だろう……。学校の関係者かな?)
立ち止まったボクの気配に気づいたのか、白髪の男はこちらを向いた。
「やあ」
と、男は微笑みながら言った。
精悍な顔立ちだった。
年季が入ったシワが顔の至るところに刻まれている。
見た感じ、五十代……いや、六十代かもしれない。
髭を綺麗に処理していて、とても品があった。
驚いたのは、年配にしては長身だったこと。
一八〇はあると思う。腰も曲がっておらず、しっかりとした姿勢を保っている。
「これからお昼かね?」
老人はよく通る低い声で、優しく言った。
「あ、はい……」
「ふむ、ではご一緒しませんかね?」
「え、ボクとですか?」
「ええ、ぜひご一緒したいと思いましてね。無理にとは言いませんが」
……どうしよう……。
でも断るのも悪いし……。
「じゃあ、はい……」
「ありがとう。ではあちらで食べようか」
ボクは得体の知れない謎の老人と一緒に、中庭のベンチに腰を下ろした。
「あの~。大変失礼なのですが……」
ボクが恐る恐る言うと、
「何かね?」
老人は優しく微笑みながら言った。
「どちら様でしょうか?」
「おっと、こちらこそ大変失礼した。まだ自己紹介していませんでしたね」
老人はコホンと咳ばらいをした。
「ワタシはこの学校の教頭であります」
「へえー。教頭先生だったんですね――」
って、ええええええええええええええええ?
教頭おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?
この老人が、あの?
トラブルを何でも解決してくれるっていう噂の?
「おっと、このことはご内密に」
教頭はシッと人差し指を立てた。
「こちらの都合上、素性がバレるわけにはいかなくてね。全校集会にも参加しないようにしていまして。生徒ではまだキミだけですぞ、ワタシの正体を知っているのは」
言うと、教頭はニコッと笑ったのだった。
「あ、あのー。何でボクにそのことを?」
「メガネくんなら他言はしまいと思いましてね。何せメガネを掛けている人物より目立つメガネを掛けている。つまり誰かに物言わぬメガネという物質であるということが証明されている」
なにか物凄く失礼なこと言われてる? 気のせいですよね?
「あ、あのー。一応、ボクは
「おっと、これは失礼した。では早乙女……あっ間違えた、メガネくん」
なんで言い直したの?
今喉元まで正解来てましたよね?
確実に狙って不正解に持っていきましたよね?
え、気のせいですか?
「ところでメガネくん」
早乙女です。まあ良いけどね、メガネで良いけどね別に。それで通ってるし。
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