第2話 千年に一度の出会い

「ちょ、ちょっと止めてください!」


 前方から、女子の声が聞こえてきた。マスクか何かでこもっていたが、その声には清純派アイドルのような可愛らしさがあった。

 明らかに拒絶する様子の声を聞いて、女子が不良にからまれているシチュエーションを、俺は刹那の間に思い浮かべていた。


(なるほど、運命が俺にフラグを立たせようとしているのか……)


 しょうがない、助けてやるか。ほっとけないし。

 相手が千年に一人の美少女ならな……と思いつつ、声がした方を向いた。その先には、二人の警察官に囲まれた『白い物体』があった。


 いや違う。警察官に囲まれた『人』が居た。俺が、ぱっと見で白い物体と判断してしまったのも、フリーズしてしまったのも無理も無かった。


 何せ〝そいつ〟は白い防護服に身を包んでいたからだ。しかもただの防護服じゃない。


 白い防護服は、これから汚染区域にでも行くかのような完全防備型。手先から足先と、全身のあらゆる部位を覆うタイプだ。

 どんなに微細な塵も通さぬほど厳重な防塵マスクと、目をバッチリ守ってくれる黒塗りのゴーグル完備。防護服の生地はかなり分厚く、動く度にギシュギシュと音が鳴っている。


「止めて下さい! 私は一般市民です!」


 警官二人に囲まれながら、防護服に身を包んだ人は言った。声からすると、絶対に女子。先ほど聞こえてきた可愛らしい声の主だ。防塵マスクごしだから、声はいささかこもっているけど……。

 防護服をギシュギシュ鳴らしながら身振り手振りで説得するフルアーマーの女子に、警官二人はかなり警戒した様子だ。


(え、えええええええええええええ?)


 いや確かにフルアーマー系女子とか千年に一人どころじゃない女子だけども。


「こ、こら! いいから動くんじゃない!」


 眼鏡を掛けた警官が腰の警棒に手をかけながら、フルアーマー系女子に言った。その傍らにて、もう片方の警官がパトカーの無線を使って応援を呼んでいる。


「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!」防塵マスクでこもっているが、女子の声は可愛らしい。「全然怪しい者じゃないですって!」


 いやどこからどう見ても怪しいですって。


(え、ええええええ? てか、なにしてんのアイツ?)


 俺が遠巻きに見ていると、ふと女子は体をこちらに向けた。そして防護服をギュシュギュシュ鳴らしながら、俺に手を振った。


「あ、あの! そこの人! 助けて下さい! 絡まれてるんです!」


 いや絡まれてんのはむしろ警察の方。つーかこっちに振るなよ突然。


「助けて~!」


 女子は力の限り声を上げて俺に助けを求める。


 眼鏡を掛けた警官はこちらを向いて「そこのキミ! 知り合いなのかね!」


「ち、違います違います!」


 俺は両手を大きく振ることで、強く否定した。


「それに俺、ほら、制服のワッペン見て下さい! 分かるでしょ? あのきよキラ高校の生徒です。そんな怪しげな人と知り合いなワケないじゃないですか!」


 それを受けた眼鏡の警官は深く頷いた。後、酷く怒った様子で女子に詰め寄る。


「貴様あぁ! 何の罪の無い、しかも清キラ高校の生徒を巻き込もうとしやがって!」


 激怒する眼鏡の警官の傍らで、もう片方の警官が応援要請を終え、パトカーから出てきた。


「わ、私だってその清キラ高生こうせいです!」


 女子は必死に叫ぶ。


「嘘をつけ嘘を! そんな怪しい身なりで――」


 平和な町の一角で、フルアーマー系女子と警官二人はまだまだ攻防を続けるのだった。


「じゃ、じゃあ、俺は学校行くんでー……」


 と彼らに会釈しておいてから、俺はそそくさとその場を去った。


「助けろぉ~~~~~~~~~~~~~~!」


 学校へ向かう途中、背後から女子の叫び声が木霊してきた。俺に向かって言っているようだが無視無視。


「仲間だろ、この裏切り者~~~~~~~~~~~~!」


 ちょっと止めてくんない、誤解を招くような発言。


「はあ……。何だったんだよ……あいつ……」

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