第8話 疑念(2)



 村長から聞いた話をまとめる言いたいことはたった一つだった。

 この村では今、原因不明の病が流行っている。その病を抑えるために生贄の儀式を執り行うことを決めた。つまり、生贄は病を鎮めるためらしい。

 医療技術の発達した世界で生きてきた俺には到底理解できないが、この世界では本気でそう信仰されているのでどうしようもない。


「そうだったのですか……」


 アルは真剣に村長の話を聞いていたが、俺は生贄ではなく、病の原因を解明した方がいいに決まっていると、内心焦っていたので村長の話をアルのように親身になって聞くことが難しい状況だった。一刻も早く早く原因を探した方がいい。そう思っていた時、突然ドスンという音がして地面が揺れた。

 俺は思わず揺れで身体を傾けと、アルが俺を支えてくれた。こういうところが、女の子モテるのだろう、わかる。わかるけど……少し男として落ち込む。


「なんだ?」


 アルは俺を何事もなかったかのように支えると声を上げた。


「ああ。これは聖獣様の怒りです」


 村長は揺れを感じながら慌てることなく平然と言い放った。


「聖獣様?」

 

 アルの問いかけに、村長はゆっくりと答えた。


「ええ。この村から少し離れた洞穴に聖獣様が住んでおられます。以前は落ち着いておられた聖獣様は最近頻繁に怒りを伝えてこのように大地を揺るがすのです」


 これがずっと村長が言っていた聖獣の怒り。どうやらこれは地震ではなく、聖獣とやらの怒りらしい。にわかには信じ難い話だ。


「ちなみに聖獣様の姿を見た人っているのですか?」


 俺はどうしても聖獣様の存在を信じられなくて村長に尋ねた。すると村長は「はい。聖獣様はとても大きく、とても恐ろしい存在だと前村長から聞いております。村には他にも聖獣様のお姿を見た人はたくさんいます」と答えた。


 前村長から聞いているか~。

 会ったことのある人はいるけど自分では会っていない。

 ん~~限りなくグレーな存在だな~~。


 俺は首を傾けると、アルが俺を見て何かを考えたような顔をすると村長に言った。


「しばらくこの村に滞在し、色々見て回りたいのですが、よろしいですか?」


 ナイス!!

 まさに俺、それを望んでたんだよ!!

 こんなの調査するしかないじゃん。生贄って人の命がかかってるんだよ?!


 アルのナイスなアシストに俺が目を輝かせていると、村長が答えた。


「はい。もちろんです。私がこの風車村をご案内いたしましょうか?」


 村長の提案をアルが断った。


「いえ、私たち二人で自由に見て回りたいのですが」


 アルの提案に村長もどこかほっとしたように頷きながら答えた。


「わかりました。では、宿泊は私の家にお泊り下さい。離れは自由に使って貰って構いせん。夕食もご用意いたします。夕食後までに離れに宿泊準備を整えておきます」

「ありがとうございます」


 俺はそれからアルと二人で村長の家を出たのだった。

 村長の家を出るとすぐにアルが声をかけてきた。


「リョウ、これでよかったか?」


 俺は背の高いアルを見上げながら尋ねた。


「ああ。ありがとう!! アル。3回分消費して出したいカード出すから、今日はもうカード使えなくなるけどいい?」

「ああ」


 俺は、人の気配のない場所で魔法カードを使うことにした。

 実は俺は、レア薬草を見つけた時に、魔法カード三回分とどれでも自分の出したいカードを選べるということを知ったのだ。


「クレッシェレ!」


 呪文を唱えると魔法カードがくるくると回り出した。


「セレクト!!『正義』」


 俺が叫ぶとおもちゃのような明らかに作り物の剣を持ったみぃ~みゃちゃんが、大胆に胸の開いた服の上に剣を置いて、舌を出しているこれまた大胆なカードが出た。

 俺はそのカードを見ながら大きな声を上げた。


「対象:風車村 逆位置 異変箇所の特定」


 そう叫ぶと、数カ所の水車が光を放った。


「水車が光っている? つまり水車に異変があるのか?!」


 アルの言葉に俺は「そうかも」と答えたのだった。そして俺は足もとから崩れ落ちてしまった。今日はすでに二回も魔法カードを発動している。つまり5回分全て使ったということだ。それでも、いつもは立っているので、もしかしたら特定して魔法カードを選ぶのは魔法カード3回分以上の魔力を消費しているのかもしれない。


「あぶない」


 アルは崩れ落ちそうな俺を支えて、いつものように俺をリュックのように軽々と背負った。


「それじゃ、リョウ。水車を見に行こう!」


 始めの頃はアルの背中に乗るのが恥ずかしかった俺だが、慣れとは怖い物だ。


「よろしく!!」


 俺はアルの背中に乗ったままアルに声をかけ風車に向かったのだった。


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