第7話 疑念(1)
疲れた顔の門番をしていた人物は、明らかに一般人だと思われる。そもそもこれまで訪れた村に門番などいなかった。
不思議に思いながら男に連れられ村に入った。村はそれなりに大きいのに、ほとんど人がいない。人がいても皆、青い顔でフラフラとしている。村の至るところに水車があり、水音が辺りに響いていた。
俺はアルの耳元に口を寄せながら言った。
「なぁ、アル……この村の様子おかしくない?」
アルも頷きながら小声で言った。
「ああ。私もそう思っていた」
これまで村や町に行ったが、こんなに閑散とはしていなかった。ここはどちらかというと家の数も多く大きな村だ。それなのにこんなに人通りがないのは不思議だった。
「この村はなぜこんなに人がいないのだ?」
すごい、さすがは空気読めない系イケメン勇者アルだ。俺が聞きたくても聞けなかったことを躊躇なく門番の男に聞いてくれた。
「村に聖獣様の怒りが降り注ぎました。そのため……人が……。すぐでも生贄を捧げる必要があります」
聖獣の怒り?
聖獣の怒りとはなんだろうか? 聖獣が村で暴れたのだろうか?それにしては、村は特に破壊されている様子は見えない。
怒りが降り注ぐとは一体何がどうなったのだろうか?
もっと具体的なことが知りたい。
俺は、アルをじっと見るとアルは男を見たまま呟くように言った。
「聖獣様の怒りか……それは、困ったな」
わかるんだ?!
え?
聖獣の怒りってこの世界での共通認識だったりするの?
俺はある意味部外者なので『聖獣の怒り』という言葉だけでは全く何があったのかわからない。
「これから村長の元にご案内いたしますので、どうぞお話を」
「ああ」
それから俺たちはこの村の村長の元に案内された。村長の家は石造りの普通の民家だった。
「村長、勇者様です」
俺の存在はまたしてもごくごく自然に割愛された。
うん、いいんだ。俺ってお付きの人感半端ないしね。どうせアルはイケメンだしね。別にいいんだ。別にさ。
「勇者様?!」
中から俺の母親と同世代と思われる女性が飛び出して来た。女性は小柄でショートカットの似合うとても元気な人だった。
「やっと来てくれたぁぁぁ~~~~!!」
女性はまるで雄叫びのような声を上げると、アルと俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「さぁ、入って下さい。逃がさないから」
「は、はい……」
この世界の女性はとても強引な人が多いと思う。まぁ、俺は人見知りなのでそう思うのかもしれないが……。
女性の家は、薬草がたくさん吊るしてあった。そして本もたくさんあった。
「座って待ってもらえますか、今、お茶を入れるます」
俺たちは女性に言われた通りソファーに座った。
「あなたがこの村の村長さんですか?」
アルはソファーに座るとすぐに女性に話かけた。本当にアルのコミュ力の高さには助けられてばかりだ。まぁ、そのせいで女性に誤解されて困ることもあるのだが。
女性はアルの言葉に、はっとしたように答えた。
「ああ、私ったらまだ自己紹介をしていませんでしたね」
女性はお茶を入れる手を止めると俺たちの近くまで歩いてくるとにっこりと笑った。
「はじめまして。この水車村の村長のマリエッタです」
アルと俺はソファーから立ち上がってあいさつをした。
「勇者として神託を受けたアルです」
「俺は魔導士のリョウです」
この旅で俺たちは、名前を短縮して紹介する技を覚えた。だって、どこに行っても長すぎて覚えられない、発音できないと言われるのだ。
それから俺たちはマリエッタのお茶を飲みながら話を聞いたのだった。
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