第4話 計画性大事!!
「ん……んっ?」
目を覚ました俺の視界に飛び込んで来たのは、金色の髪に青い瞳の超絶美形お兄さん、勇者アルの心配そうな顔だった。
は? はぁ~~~?!
いきなり美形の顔が見えて、飛び上がりそうなくらい驚いた。そして、異世界に来たことを思い出した。そうだった。俺、In異世界nowだった。それにしても心臓に悪い、寝起きのアルの顔。
そんな俺の驚きなど気づきもせずに、アルが口を開いた。
「ああ、気が付いたか? 先程大神官殿がお見えになり、魔法カードとの感覚同化の反動だろうから、身体に問題はないとおっしゃっていた。気分はどうだ? 水飲めるか?」
俺は「ありがとう」と言ってアルの手からコップを受け取ると、水を一気に飲み干した。水を飲んで初めて、かなり喉が乾いていたことに気付いた。
アルは、俺が水を飲むのを確認するとベルを鳴らした。しばらくすると、扉がノックされてみぃ~みゃちゃんにやっぱり似ている神子が部屋に入って来た。改めて見るとやっぱり布面積が少なくて心臓が早くなり体温が上がる。
「リョウ様、ご気分はいかがですか?」
そして、心配そうな少し憂いを含んだ顔のアップ。
ああ……やっぱり可愛い、神子。
「ご気分はいいです」
なんか敬語おかしいけど、仕方ない。寝起きで可愛い子に至近距離(ここ重要)で『ご気分はいかがですか?』なんて言われて冷静でいられるほど、俺は老成してない。男子校に通い人見知りな俺は普段、母親と生意気な妹以外と近くで話す機会などないのだ。
「早速ですが、これからのことをご説明しますね。次の満月に出発の儀式を行い、その翌日に出発することなりますので、異世界からいらしたリョウ様には、あまり時間がありません」
どうやら旅立ちの日は指定されているようだった。
「ちなみに満月まであと何日ですか?」
神子は申し訳無さそうに言った。
「あと十日しかありません」
なんだ、あと十日。かなり時間あるじゃん。なぜそんなに申し訳無さそうなの?
俺は、申し訳無さそうな神子を見ながら言った。
「あと、十日もあるんでしょ? 余裕じゃん!! 気にしなくていいよ!!」
俺の言葉を聞いた神子は顔を上げると可愛く笑いながら言った。
「そんな風に気を遣って頂けるなんて、リョウ様はお優しいですね。では、魔法のこと、この世界のこと、魔物のことなど時間の許す限りお教えしますね」
あれ?
魔法のこと――全く知らないね? 『魔法って何? 美味しいの?』ってレベルだよね。
この世界のこと――無知の極みだね? そもそも『ここはどこ?』っていう迷子級。
魔物のこと――魔物って何?! そんなのいるわけ?! 存在も知らなかったよ~~~!!
これを全部学ぶって……俺、十日で大丈夫?
――もっと計画性を持ちましょう。
そう言えば俺……小学校から中学まで成績表にそんな風に書かれてたなぁ……先生ってよく俺のこと見てくれてたんだな……ありがとう、先生。
俺が遠くを見ていると、神子が「それでは早速始めましょう」と言って俺の手を取った。そして、神子はアルの方を見て「勇者様もご一緒に」と言った。
神子と二人きりじゃないんだと思ってがっかりしたのは仕方ないことだ。
◆
そして俺はかなり濃密な十日間を過ごすことになった。
必修取得単位その一、魔法。
俺たちは訓練場と呼ばれる場所にいた。
高い塀に周りを囲まれている。ここが魔法の訓練場で、普通の塀よりも魔法耐性のある頑丈な壁らしい。
そんな場所で神子が魔法の説明をしてくれた。
「まず魔法を使うためには魔力が必要です。魔力は訓練などである程度増やすことが可能です。さらに魔力は枯渇すると寝ている間に回復します。魔力を回復する飲み物も存在しますが大変貴重なため、あまり手に入りませんので睡眠で回復することをおススメいたします」
魔力の回復は体力と同じような回復方法だったのですんなりと理解した。
「次に魔法ですが、魔法には黒魔法があり火、雷、水、風の4属性魔法と、白魔法と呼ばれる回復魔法、そして召喚魔法が存在します。召喚魔法は特殊で神子にならなけれければ使えません」
俺は頷きながら声を上げた。そして、神子とアルを見ながら尋ねた。
「二人はどんな魔法を使えるんだ?」
俺の問いかけに神子が「私は召喚魔法と白魔法が使えます」と答えた。そしてアルは「俺は魔法は使えない」と答えた。それを聞いて俺は慌ててアルを見た。
「え? アルって勇者なのに、魔法使えないの? 神子は二つも使えるのに?」
困惑しながら尋ねると、アルもまた困った顔をしながら答えた。
「ああ。魔法を使えるものは滅多にいない。ましてや、神子のように二種類も使える者などほとんど存在しない」
魔法というのはどうやら特殊なスキルのようだった。てっきり異世界で魔物もいるなら、ほとんどの人が魔法を使えると思っていたのでその辺りは少し想像とは違っていた。
「へぇ~じゃあ、俺は何魔法が使えるの?」
俺の問いかけに、神子はかなり困った顔をしながら答えた。
「リョウ様の魔法は少々特殊な魔法で……あまり例が……一般的な魔法のように呪文を唱えるわけではないということはわかるのですが……」
一般的には魔法は呪文を使うらしい。そして、俺の魔法は特殊。
「どういう事でしょうか? リョウの魔法は一体どうやって発動するのですか?」
隣でアルが俺の代わりに尋ねてくれた。神子は眉を寄せ、俺を見ながら言った。
「リョウ様、大変言いにくいのですが、なんとかご自身で魔法を使って頂けませんか?」
は?
なんとかして自分で使え?!
典型的な丸投げの例文みたいな言葉~~~!!
俺が神子に無茶ぶりをされて混乱していると、異世界に転移する前に見たみぃ~みゃちゃんの配信が突然頭に浮かんで来た。
――みぃ~みゃだよ~~。今日もよろしくね。さぁ、それじゃ始めるよ~~『クレッシェレ~~』
俺は毎回みぃ~みゃが口にしていた始まりの言葉を口にした。
「クレッシェレ?」
その瞬間、俺の周りに22枚のカードが輪のようになって回り始めた。
「な、なんだ? これは?」
アルが目を大きく開けて驚いているということはどうやら、俺が幻を見ているわけでは無さそうだ。
「凄い……さすが、勇者様の魔導士様」
神子が両手を口に当てて俺を見ていた。
――さぁ、選んで。どのカードにする?
頭の中に再びみぃ~みゃちゃんの姿が蘇る。そして俺はみぃ~みゃちゃんが配信でしていたように回転するカードに片手を向けて声を上げた。
「ガラッシア!!」
その瞬間、俺の目の前にみぃ~みゃちゃんが大きな狼に胸元を舐められている、かな官能的なカードが出現した。これは確か……。
――今日は『力』のカードだよ。君の想い人の力を高めちゃうよ? 想い人の名前を呼んで『正位置』って叫んでね。力を奪っちゃい時は『逆位置』だよ!
想い人の力を高める?
俺はアルを見ながら叫んだ。
「対象者アル、正位置」
その途端、アルの周りを風が包んだ。そして風が落ち着きアルが自分の両手のひらを広げて戸惑ったような仕草をした。そんなアルを見た神子が叫んだ。
「アル様。あの石塀に向かって剣を振ってみてください」
「ああ!!」
アルは俺たちから少し離れると、石塀に向かって剣を振り下ろした。その瞬間、強い風が吹いた瞬間に、石塀が崩壊した。
「信じられない……これが魔法の力か……」
アルが自分の手を見ながら呟いた。
「嘘だろ……」
俺はそう呟いた瞬間、全身の力が抜け思わず地面に座り込んでしまったのだった。
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