第2話 俺が、勇者の召喚獣(人)?! ――不安しかない




「あ、やっぱり俺、異世界に召喚されたんだ……」


 別室に移動して、俺たちはソファーに座ってみぃ~みゃちゃん激似の女性から話を聞いていた。声も顔もかなり似ているので同一人物にも見えるが、口調が全く違うので確信が持てない。

 俺はこれでも空気は読む方なので『もしかしてみぃ~みゃちゃんって名前で週2回午後9時から配信してますか?』とか……聞けない。仲のいい友達でも本人から聞いてないのに現実で『これっておまえ?』って聞くのは不可能に近い。聞ける人は聞けるっぽいけど、俺は聞けない。意外と奥ゆかしい俺は、黙って彼女の話を聞いていた。

 話を聞くと彼女は神子と呼ばれる神の使いで、勇者が誕生したことで、俺を召喚したらしい。住んでる世界が違うなら、やっぱり彼女はみぃ~みゃちゃんではないのだろう。

 内心がっかりしている俺の隣で、勇者は真剣な顔で彼女の話を聞いている。この部屋には俺たち三人ではなく、神官呼ばれる男性が数人ドア付近に立っていた。白いローブの男性がドアの前に立っているのは異様だ。すでにこの状況の意味がわからない。

 ただ、例え彼女がみぃ~みゃちゃんではなくとも、あわよくば好印象を持ってもらって、お付き合いとかに発展したら……という希望を持ってしまったので、俺は一切取り乱すことはなかった。

 そんな下心満載の俺の問いかけに彼女は真剣に答えてくれた。


「はい。勇者様と相性の良い魔導士様を召喚するために、勇者アルフェルナントエルケルテラ様の体液を魔法陣に混ぜ召喚の儀を行いました。この世界とは異なる世界から召喚された例もあるとは聞いていましたが……ここ数百年はこの世界から選ばれていました」


 なるほど、普通は異世界からは選ばれない……それなのに俺は、遠路はるばる異世界から魔導士に選ばれちゃっと……どれだけ稀有な確率だよ!! 

 召喚の仕組みさっぱりよくわからないが、俺は明日がテストだ。勉強もしたいので家に戻れるのなら戻りたい。


「あの……召喚されたのは理解しました。そして、魔導士に選ばれたのも理解しました。でも、明日テストなので、一度家に帰りって夏休みとか俺の休みの日にこっちの世界に来て、魔導士としてのお仕事を手伝うというのは可能ですか?」

「それは……出来ません」


 俺の提案を神子はあっさりと却下した。


 うん。まぁ、たぶん無理だろうな~とは思ったよ? 

 

 俺は無理だろうな、と思いながら聞いたので、帰れないと聞いてもあまり落ち込むことはなかった。


「召喚は……勇者様の役目を終えなければ……解除されないのです。ですが……役目を終えても元の世界に戻れるのかは……お調べしてまた報告いたします……」

「じゃあ、お願いします」


 どうやら勇者というのは生涯勇者というわけではなく、何かのきっかけで勇者の任を解かれる仕組みのようだ。そして、俺の今後は勇者次第と……。


 俺は隣に座っている超絶美形のお兄さんを見た。恐らく俺よりも歳はだいぶ上だろう。俺はこれから、勇者と呼ばれるこの美形男子の勇者認定が解除されるまでは彼に付き合うようだ。目が合うと、勇者は俺を見ながら優しく微笑みながら言った。


「随分と可愛い顔をしていると思っていたら、君は異世界から来たのか。よろしく頼む。私の魔導士殿。私は、アルフェルナントエルケルテラ・ライトバン・デグレードフラインだ」


 は? 可愛らしい顔? 俺、学校でも近所でも平凡だと評判ですが?

 それに男にさらりと可愛いっていうのって、こっちでは普通なの?


 俺は文化の違いに驚愕しつつ、さらにこの勇者と呼ばれているこの美形男子の名前が長すぎることに頭を抱えてしまった。俺は隣に座る美形男子を見た。


「え~と……名前はアル……ごめん、もう一回いい?」

 

 俺が勇者にもう一度名前を尋ねると、勇者は「ああ。私の名前は、アルフェルナントエルケルテラ・ライトバン・デグレードフラインだ。よろしく頼む」と言った。

 

 名前……全くわかんない。

 どうしよう、覚えられる気がしない。


 俺は仕方なく名前を覚えることをあきらめて「……勇者様、よろしく」と言った。すると勇者は怪訝な顔をして「覚える気がないだろう?」と鋭い指摘をしてきた。

 

 まさかこいつ……俺の心の中が読めるとか? 


 そんな風に思っていると、勇者は短く「アルでかまわない」と言った。俺は勇者様の好意に甘えることにした。正直、人前で『勇者様』と呼ぶのは恥ずかしいので、ニックネームで呼べるのは有難かった。


「アル、だな。わかった!! 俺は市村涼介」


 相手の名前を聞いたので、俺も名前を名乗ることにした。するとアルが困った顔をした。


「悪い。もう一回頼む」

「市村涼介」

「イーリャ?」


 どうやらこの異世界で俺の名前の発音は難しいらしい。


「俺もリョウでいいよ」


 するとアルは満面の笑みで「リョウだな!!」と誇らし気に言った。そんな俺たちを見ていた神子が微笑んだあとに、ドアの近く立っていた神官に向かって言った。


「例の物をこちらにお持ちして」

「はい」


 神官は部屋を出て行くと、しばらくして古びた木箱を持って来た。

 そして、俺の前に差し出しながら言った。


「リョウ様、こちらを開けてみて下さい」

「え?」


 謎の木箱を開ける……?


 木箱と言えば、開けた途端に中からけむりが出てきて歳を取ったり、木箱を開けると毒蛇が出てきたりと、かなりブラックボックスの割合の高いアイテムだ。

 正直いきなり開けるのは怖い。


「あの……。この箱って安全ですか?」


 思わず尋ねると、神子は感激したように言った。


「素晴らしいですわ!! さすが、勇者様の選ばれた魔導士様!! この箱からすでに魔力を感じられるのですね……。私も神子として魔力感知が高い方ですが……。一切魔力を感じることが出来ずにいましたのに……魔導士様、本当に素晴らしいです!!」


 神子だけではなく、置物と化していた周りに立って神官たちも声を上げた。


「素晴らしい」

「さすがだ!」

「私も何も感じなかった!」

「勇者様の選ばれた魔導士様はやはり別格だ」


 どうしよう!!

 俺としては昔話を思い出して警戒しただけなのに、なぜか俺が凄い魔導士様ってことになっちゃった!!


 皆が俺を見て曇りなき羨望の眼差しを向けてくれるが……勘違いだ。

 ああ、気が重い。

 そんなことを考えていると神子が真剣な顔で言った。


「魔力を感じるのでしたら、警戒されても仕方ありませんが、どうかご安心下さい。この中にはそれぞれの魔導士様に合った魔法を使うための道具が入っています」


 え? 

 もしかして、魔法の杖みたいな?


「前の魔導士様は、杖は入っており、その前の魔導士様は魔法の呪文の書かれた本が入っていたようです」


 なるほど、魔法媒体の話か。

 杖は定番だけど、本っていうのも面白いな……。


 俺は怖さをすっかり忘れて、期待しながら木箱を手にしたのだった。


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