うっかり魔法世界に転移したが、思ったほど自由ではない

藤芽りあ

第1話 試験前って、ちょっと思考おかしくなる……よね?



「今回の範囲、広すぎる……」


 明日は試験。

 そして俺、市村涼介いちむらりょうすけ高校一年は……今、試験範囲を知りました……。

 絶望度数100、つまりマックス値。


「あ~~ダメだ。自分で勉強しても間に合わない!! これはもう、試験範囲予想してる動画探すしかないよね? そんなのあるかわからないけど?!」


 あるのか、ないのかもわからないが俺は探し始めた。

 なんだか逆走感が半端ないが、とにかく明日のテストのためにする必要があることは確かだ。そのが動画探しというわけだが……。


 そして始めた動画チェック。

 いつしか、試験に関係ない動画ばかりを閲覧。

 明日が試験!! そんな俺がたどり着いた動画……。


「今日は、『節制』でした~~。次回はなんと!! 『悪魔』だよぉ? みぃ~みゃ、悪魔になっちゃいま~す。また遊びに来て」


 俺は画面から目を離して伸びをしながら叫んでいた。


「あ~~!! みぃ~みゃちゃんマジで可愛い~~最高!! もう一回見ちゃう……?」


 みぃ~みゃちゃんの最新動画を閲覧し、ご満悦な俺……。

 そして画面の左上に見える時計。


 ――23:58?!


 あれ? おかしい。

 おかしいよね?!

 俺が机に座ったのって、確か……20時くらいだったはず。

 ちなみに勉強は一切していない。


 切実に……俺の時間どこ行った?!


「やべっ!! 試験予想動画!!」


 ようやく目的を思い出した俺が検索を始めると、広告が出て来た。

 

『魔法使ってみたくない?』


 今思えば、俺は――正常な思考回路ではなかった。

 そう、試験前のおかしな精神状態だった。

 だからだ……うっかり、押してしまったんだ。

 その怪しげな広告を……。


 その瞬間、空間がぐにゃりと曲がったかと思えば、俺は冷たい床の上にいた。


「魔導士様が降臨されたぞ!!」


 は?

 魔導士……って何?


 そして、俺の目の前には、すっげぇキレイな金色の髪をなびかせた超絶美形な……お兄さんが立っている。

 あれ?

 俺、寝た?

 テスト前日に一切勉強せずに、寝た?! 寝ちゃった?!


「……起きなきゃ」


 そう呟くと、美しすぎるお兄さんが手を差し出した。


「あなたが、私の魔導士か?! 生贄を助けるために共に戦いましょう!!」


 私の魔導士?!

 やばい、俺、変なイケメンにおかしなこと言われてる?!


「おお~~魔導士様」


 そして、目の前のお兄さんが美し過ぎて回りを見れなかったが、少し離れた所に、白いお揃いのローブを着た人々が遠巻きに俺を見ている。

 

 この状況は……何?!


 俺を物珍しそうに見つめる人々……そして目の前には、信じられないほど顔の整った男。

 俺の頭が考えることを止め、『これは夢だ、起きよう』と思った時だった。


「魔導士様、お会い出来まして光栄です。お待ちしておりました」


 俺のすぐ後ろからよく知っている声が聞こえて、ゆっくりと振り向いた。


「え……みぃ~みゃちゃん?」


 さっきまで動画の中の人だったみぃ~みゃちゃんが俺の前にいる。しかも……布面積のかなり少ない服を着て……。


 え……エロっ……じゃない。

 みぃ~みゃちゃん降臨?! 写真? サイン? 


 混乱した俺は気づけば彼女に両手を差し出していた。


「握手して下さい!!」


 すると彼女は優しく微笑んで俺の手を包んでくれた。

 

 あ~~~もう、俺、なんでもします!!


 俺はこの瞬間、この世界の全てを受け入れたのだった。

 その後、超絶イケメンに「私の方が先に手を差し出したのに……」と言われたがそんな言葉は無視したのだった。

 

 


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