第31話 白の天使と小悪魔な後輩と夏祭り

 花火大会当日。現地集合で待ち合わせの場所へ行くと先に雪が来ていた。


 どの服装で来るかは聞いていなかったが、雪は白で花柄が入った浴衣を着ていた。


 お祭りだからか綺麗な長い髪には編み込みがされており、いつもと違うことにすぐに気づいた。


「お待たせ、雪」


 彼女の元へ行くと気付いた雪は顔を上げて俺を見るなりふんわりとした笑みで微笑んだ。


「こんばんは、晴斗くん」

「こんばんは。浴衣、雪に似合ってる」

「ふふっ、ありがとうございます」


 雪は嬉しそうに笑うと何かを思い出したのかハッとしていた。


「そう言えば、先ほど瑠奈さんから少し遅れるとのメッセージが来ていました。花火が始まるまでには来るそうです」

「そうなんだ。教えてくれてありがと」


 花火大会が始まるまでまだ30分ほどある。屋台が出ているので何か食べられるものでも買って、花火が見れる場所を見つけておこう。


「雪、お腹は空いてる?」

「そうですね、少し食べてきましたが、先ほどからいい匂いがしてちょっぴりお腹が空いてきました」


 ちょっぴり……雪が言うと可愛く聞こえる。お腹が空いているのは俺もなので、やはり何か買うとしよう。


 買うとしたら瑠奈も後から来るので分けられるものがいいよな。


「何が食べたいとかある?」

「ベビーカステラとポテトが食べたいなと……も、もちろん、みんなでシェアしますよ。1人では食べきれませんし」


 顔を真っ赤にして雪は自分1人で食べないこと俺に伝えようとしていた。


(凄い食べる人だと思われたくないのかな……)


「じゃあ、ベビーカステラとポテト買おっか」

「は、はい……」


 時間もあるので2人でベビーカステラとポテトを買いに行くことにした。


 歩く時は雪が下駄を履いているのでいつもよりゆっくりと歩き、そしてはぐれないようずっとではないが、彼女が隣にいることを確認した。


「こういうの久しぶりです。夜なのに周りの景色がキラキラしています」


 少しいつもよりテンションが高い雪は出ている屋台を見てそう呟いた。

 

 彼女の言うことはよくわかる。よく通る場所だが、今日だけは別の場所の見える。


 ベビーカステラとポテトを買うと、屋台がある方は人が多いので俺と雪は屋台から少し離れたところへ移動することにした。


 2人並んで歩くことができず、先頭を俺が歩いていると雪が服の裾を掴んできた。


「あの、晴斗くん」

「どうした?」

「手……繋ぎませんか?」

 

 また瑠奈が変なことをと思ったが、雪がそうしたいと思って俺に提案したことが彼女の表情からしてわかった。


「そうだな……はぐれそうだし……」

「はい……」


 ポテトとベビーカステラは手提げ袋に入れてもらっているので片手で2つ持ち、空いた手で雪と手を繋いだ。


 彼女の手は小さくてぎゅっと強く握りすぎたら折れてしまいそうだった。


 人混みから抜けると雪が自販機を見つけて、俺に話しかけた。


「飲み物、欲しいですね」

「あぁ、確かに」


 人が多いからもう手を離してもいいが、俺と雪は手を繋いだまま自販機へ行く。俺は手を塞がっているので雪が2人分飲み物を買う。


「晴斗くんは何にしますか?」

「俺は、コーヒーで」

「では私も……」

「飲めるようになったの?」

「いえ」


 ボタンを押すとガコンと音がし、雪は缶コーヒーを取り出す。


「飲めないのに?」

「一緒に同じものを飲みたかったので……」

「……そっか。ところで今、2人とも手塞がってもう1人分買えない気がするんだけど」

「ですね。こちらの缶コーヒーはカバンに入れておきます」


 雪は肩掛けカバンに缶コーヒーを入れて、俺の分を買ってくれた。もちろん代金は後で払う。


「じゃあ、場所探しに─────」

「先輩方、嘘つきですね」

「「!!」」


 後ろから聞き覚えのある声がして俺も雪も肩をビクッとさせて、慌てて手を離した。後ろを振り返るとそこには浴衣姿の瑠奈がいた。


「今さら何もない感出しても私は先輩方が手を繋いで仲良くしていたところ見てましたから」


「……あの、本当に付き合ってないです。さっきまで屋台の方にいて、人がたくさんいたのではぐれないよう手を繋いでいただけです」


 雪の言葉に俺はコクコクと頷く。俺が言っても信じてくれなさそうだが、雪が言うなら瑠奈は信じてくれるだろう。


「……白井先輩がそう言うならそうなんですね。すみません、嘘つきなんて言ってしまって」


「いえ、誤解されてもおかしくないことをしていたので。瑠奈さんが謝ることはないです。あっ、ベビーカステラとポテトを買ったので一緒に食べませんか?」


 雪は瑠奈に俺が持っているベビーカステラとポテトが入った袋を指差す。


「食べたいです」

「では、花火が見られる場所へ移動してそこで食べましょうか」


 そう言って雪は瑠奈の手を握り、そして瑠奈がいるがまた俺の手を握った。


「白井先輩、これは……」

「はぐれないためにです」

「……3人で手を繋ぐなんて恥ずかしいですけど、いいと思います」


 3人手を繋いでいたら周りの人から注目されそうだが、人が多く、誰も俺達のことなんて見ていなかった。


 いい場所が見つかると手を離し、そして花火が始まるまで買ったものを食べることにした。


「美味しいですね、このベビーカステラ」

「そうですね。この前、抹茶を食べましたがやはりプレーンが1番です」


 雪と瑠奈はベビーカステラが気に入ったのか美味しそうに食べる。食べるスピードからして花火が始まる前に食べ終わりそうだ。


 ポテトをつまみ、口の中へ入れると空に大きな花火が上がった。


「わっ、ビックリしました……」

「急でしたね」


 花火大会が始まると会話は減っていき、全員、花火を見ることに集中していた。


 いろんな色の花火が上がり、次はどれくらいの大きさでどんな色が空に上がるのだろうかと楽しんでいると雪が俺の服の裾をクイクイとしてきた。


 どうかしたのだろうかと少し下に視線を向けると雪と目が合った。


 すると、彼女が何か言っていたが、花火の音で聞こえない。


「ごめん、何て?」


 自分の声も多分、彼女に届かないだろうと思いながらもそう聞くと雪は小さく笑っていた。




***




 結局、花火が上がっている時、雪が俺に言った言葉はわからなかった。花火大会が終わると瑠奈は友達と遭遇し、その子達と一緒にいるということで別れた。


 俺と雪は花火が終わったので駅に向かって歩くことに。


「そう言えば、雪、花火が上がってた時、俺に何か言ってた?」


 やはり気になるので彼女に聞いてみると雪は人差し指を唇に当てた。


「ふふっ、内緒です」







    

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