第32話 白の天使は好きでやりたい

 待ちに待った文化祭1日目。この学校は2日目あり、1日目は平日で来る人は親が多い。2日目は休日でもあるので他校の生徒や中学生が来たりする。


 1日目。俺は当番に当たっていたので早めに登校すると駅で雪に偶然会った。


 お互い今日は当番だったので会えないかと思っていたが、まさか朝に会えるとは……。


 一緒にいたら噂が立ちそうだが、いつもより早い時間なので知り合いには会わないだろうと思い、お互い1人だったため一緒に学校へ行くことになった。


「晴斗くん、今日は一緒にお昼食べませんか?」


「一緒にっていうのは……」


「2人でです。人の多いところだと噂されるかもしれないので校舎裏とかどうですか? とてもいい場所があるんです」


 噂というのは付き合っているんじゃないかという噂だろう。この前のように誰かに誤解を与えたくはないらしい。


「いいよ、一緒に食べようか」

「ふふっ、ではお昼休憩になりましたら図書室前に集合です」

「うん、わかった」


 一緒に昼食を食べる約束をすると、雪は嬉しそうな表情をしていた。


「私も晴斗くんと同じクラスが良かったです。そしたら一緒に当番……あっ、今のは聞かなかったことにしてください」


 ほんのり顔を赤らめて俺に忘れて欲しそうに訴えてきていたが、可愛かったので聞かなかったことにできるわけがない。


「雪のクラスはメイド喫茶って言ってたけど、服はもしかしてメイド衣装とか?」

「はい、私も着ますよ」

「そう……か」


 メイド衣装と聞いて俺は雪のメイド姿を想像してしまった。これは見たいということだろうか。


 見たくないと言えば嘘になる。絶対に似合うし、メイド姿で……いや、妄想はよそう。


「晴斗くんのところはお化け屋敷でしたよね。晴斗くんはどんなことをするのですか?」


 この時間帯に人が少ないのでいいが、雪が少しずつ俺の方へ寄ってくる。もう少ししたら肩が触れあうぐらいだ。


「俺は受付係だよ。驚かすのは向いてないから」

「そうなんですね。私も驚かすのは向いてません」


 学校へ着くまでお互い出し物について話し、気が付けば学校へ着いていた。


「ではお昼休憩に」

「うん、また」


 雪が教室へ入っていくのを見た後、俺も自分の教室へ入った。




***




 お化け屋敷の受付は意外と暇ではなかった。受付係の仕事は来た人に注意事項を言うという仕事がある。簡単だが、次々に人が来るので話し続けている状態だった。


「せ~んぱいっ。来ちゃいました」

「こんにちは!」


 スマホで時間を確認し、声がしたので顔を上げるとそこには小悪魔のように笑う瑠奈と元気のいい挨拶をした早見さんがいた。


「瑠奈と早見さん。早見さんは大丈夫そうだけど……瑠奈、お化け屋敷行けるのか?」


 心配でそう尋ねると瑠奈は腕を組んで大丈夫ですよと笑った。


「行けますよ。学生が作ったお化け屋敷なんて怖いものが嫌いな私でも────」

「「きゃー!!」」

「!」


 教室から悲鳴が聞こえてきて、驚いた瑠奈は早見さんの腕をぎゅっと抱きしめていた。


(やはり怖いのでは……)


「やっぱりやめとく?」

「……や、やめない。怖くないもん」


 怖がってまでお化け屋敷に入る理由は何だろうか。怖いものを克服したいとか……。


「次入れるけどどうする?」


 入るのであれば俺はお化け屋敷での注意事項を話す。入らないのであれば次の人たちにする。


「入ります」

「わかった」


 瑠奈と早見さんに注意事項を言うと中へと案内した。


 大丈夫だろうかと心配でいること数分。出口から瑠奈と早見さんは出てきた。


「先輩、余裕でした」

「るーちゃん、泣きそうになってましたよ」


 どちらの言うことを信じればいいのだろうか。けど、瑠奈が早見さんに言わないでと視線を送っているので早見さんの言うことを信じよう。


「凪、行くよ」

「はーい。先輩、またです」


 早見さんは瑠奈に手を引かれ、連れていかれた。




***




 昼休憩に入ると俺は亮に雪と食べることを伝えてから図書室へ向かった。


 文化祭の期間中、図書室は涼む場所として解放されている。こういう行事が苦手な人のために開けているという理由もあるらしいが。


 図書室へ着くと本を読んでいる人もいるかもしれないのでゆっくりと扉を開ける。するとひんやりと涼しい風が来た。


 どうやら冷房がついているみたいで、快適な場所だった。


 中に入ると図書室で本を読む生徒は何人かいたが、雪の姿はここからでは見えない。もしかしたらまだ来ていない可能性もある。


 奥に静かに進んでいくと見覚えのある後ろ姿を見つけた。雪だ。


 出会った時のようにシュークリームは……さすがに食べてないよな。


 気付いてもらうために後ろから彼女の肩をポンポンと優しく叩くと雪は驚くことなくゆっくりと後ろを振り返った。


 そして彼女は立ち上がり、読んでた本を本棚に戻し、戻ってきた。


「では行きましょうか」

「うん」


 静かに話し、そして図書室を出た。裏校舎のいい場所というのを俺は知らないので雪についていくことにした。


「お化け屋敷は、どんな感じですか?」

「お客さんが多くて大変だよ。雪は?」

「私も大変です。接客をしていたら知らない人に声をかけられたりして」

「それは俺とは違う意味で大変だね」

「はい」


 メイド衣装を着るとなると『白の天使』目当てで来る人とかいそうだよな。危ない人もいるから守ってくれるような人がいたらいいんだけど。


 図書館がある2階から1階へ降り、外に出て校舎裏へ着くとそこには座れるベンチがあった。


「あまり知られていない穴場スポットです。未玖さんに教えてもらいました」

「へぇ、知らなかったよ。ここだと木陰だし、暑くないね」


 ここだと確かに誰かに見られて変な噂が立つなんて気にしなくて良さそうだな。


 2人並んで座るとさっそく持ってきたお弁当箱を開ける。


「晴斗くん、今日は私、サンドイッチを作ってきたんです。もしよろしければ食べませんか?」


 雪が見せてくれた緑のお弁当箱の中にはぎっしりとサンドイッチが詰まっていた。よく見るといくつかあるがどれも具が違う。


「いいのか?」


 自分のお弁当もあるが、1つ食べたい気持ちがある。


「どうぞ。実を言うと晴斗くんに食べて欲しくて作ってきました」

「……じゃあ、1つだけ」


 端にあったツナと卵が入ったサンドイッチを手に取り、食べた。


(美味し……)


「どう、ですか?」

「美味しいよ……とっても」

「……あの、もし良かったらなんですけど、これからは晴斗くんの分もお弁当作ってきてもいいですか?」 

「えっ?」


 サンドイッチを食べる手を止め、彼女の方を見ると雪は真っ直ぐとこちらを見ていた。


「2人分って負担大きいと思うけど……」

「私が好きでやりたいんです。誰かに作るの好きなので……」

「……お願いしてもいい?」

「はいっ」

 





      

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