第23話 白の天使との朝

 日が変わる少し前。俺と雪はお互い寝室へ行き、寝る準備を始めていた。


 今日1日は移動とこの家の周りの探索だったが、明日はどこかで遊ぶ話が出ている。明日のためにも今日は早く寝ておこう。


 布団をしき、電気を消しに行こうとするとこの部屋のドアが開いた。誰だろうかとドアの方を見ると雪がひょこっと顔を出していた。


「晴斗くん、起きてますか……?」

「今から寝ようとしてたところだよ。何かあった?」


 さっきお休みと言って別れたが、俺に何か言い残したことでもあったのだろうか。


「部屋がいつもより広くて目を閉じても寝れないんです。一緒に寝てもいいですか?」

「…………一緒に?」

「はい……」


 よーく見ると(いや、部屋に来た時にすぐに気付いていたが)雪は枕をぎゅっと抱きしめている。


 こうして同じ場所だが、別の部屋で寝るのは大丈夫だと思うが、さすがに一緒にはどうなんだ……。


(けど、密着して寝るわけでもないし、少し離れたところに布団を敷けば大丈夫か……?)


「それなら布団もう1つ持ってこないとな」

「……ありがとうございます」


 雪がいた部屋から布団を1つ俺が運び、ど真ん中にしいていたが、それでは雪の分が入らないので端に寄せた。


「これでいいかな?」

「はい、運んでくださりありがとうございます」

「じゃ、電気消すけどいい?」

「はい、お願いします」


 雪が布団に寝転んだのを確認してから電気を消し、俺は真っ暗の中、布団があると思われる方へ歩く。


(俺の布団は確かこっち……ん?)


 かがんで下にあるものを触ってみたが、人の手の感触がした。


「は、晴斗くん……寂しいのですか?」

「! ごっ、ごめん!!」


 雪の手を触っていたことに気付き慌ててパッと手を離す。


 布団のある方向と少しずれていたようだ。決して暗い中なら事故で済むから触っても大丈夫だからと思って雪の方へ行ったわけじゃない。


「ま、待ってください……少しだけ手を繋いでいてほしいです」

「えっ?」


 雪から離れようとすると腕を優しく掴まれ、俺は動けなくなる。


「少しだけでいいんです……」

「……す、少しだけなら」

「ありがとうございます」


 だんだんこの暗さに慣れてきて、雪がどこにいるのかわかってきた。


 手を彼女の方に出すと雪はその手を取り、優しく握る。


「晴斗くんの手は温かいですね……」

「そうかな、雪が温かいんだと思うけど」


 眠たかったが、手を握られてドキドキしているせいか眠気が覚めた。これがいいことなのか、悪いことなのかわからないが。

 

 しばらく手を繋いだままお喋りしていたが、眠たくなってきたのか雪の口数が減ってきた。


「そろそろ寝るか……」


 手をゆっくり離そうとすると雪がぎゅっと握っているため離れない。


「雪、俺寝れないから」

「ん……はるとくん……」

「寝てる……」


 俺も眠気が襲ってきた。寝たいのに寝れない状況。どうしたらいいんだ。


 取り敢えず、朝になる前に戻るとして俺も横になろう。


 手を繋いだままそこまで遠くないので俺は布団を手を繋いでいない方の手で取り、自分にかける。布団はなくても寝れるので雪の布団の横に寝転んだ。


(一緒に寝るみたいなことになってるが、もうあれこれ考えるより寝たい……)


 眠気に負け、俺は目を閉じた。そして朝になるまでに自分の布団へ戻るはずが目が覚めたのは朝だった。


「ん……ん?」


 いつも仰向けに寝ていたが、手を繋いでいたので昨夜は横を向いて寝た。


「朝か……戻るの忘れてた……」


 戻ることを忘れていたことはいいのだが、昨日より雪との距離が近い気がする。


 だんだん視界がハッキリとしてきてやっと今の状況を理解する。


 繋いでいた手はいつの間にか離れているが、雪が俺の腕に抱きついている。


 俺の腕は枕でも人形でもないんですけど……てか、柔らかいもの当たってて朝から心臓に悪い。


「雪」


 この状況に耐えられないので彼女を起こすため名前を呼ぶと雪はゆっくりと目を開けた。


「ふにゅ……はると……くん?」

「おはよ、雪」

「……おはようございます」


 寝起きでいつもよりゆっくりな口調で彼女は話し、そして目線を下に向けた瞬間ハッとしていた。そしてゆっくり俺の腕から手を離した。


「す、すみません……いつもイルカさんを抱きしめて寝ているので……」


 何それ、想像するだけで可愛いと思える情報。動物をさんづけするのも可愛い。


「7時……朝食の準備をしなくては……」

「ちょ、雪!?」

「?」


 起き上がった雪の服が少しずれて下着が見えていたので咄嗟に後ろを向いたが、本人は気付いていなかった。


「ふ、服がズレて下着が見えてます……」

「……!!」


 気付いたのか後ろで音がした。物凄い音がしたが大丈夫だろうか。


「も、もう大丈夫です……すみません、変なものを見せてしまい」

「いや……大丈夫だ」


 謝るのはこちらだ。すみません、下着を見てしまって。


「朝食、俺も作るの手伝うよ」

「ありがとうございます」


 起きると布団を畳み、部屋着から出掛けるようの服に着替えるため雪とは一旦別れた。


 着替え終えると洗面所を借りて顔を洗い、キッチンへ向かう。だが、広すぎてまた迷った。


 こっちかなと悩んでいると後ろから声がしたので後ろを振り向くとそこには部屋着から白のワンピースに着替えた雪がいた。


(やっぱ白、似合うな……)


「また迷われたのですね。キッチンはこちらですよ」

「雪様、案内よろしくお願いします」

「ふふっ、わかりました」


 先頭を歩いてくれた雪についていくとキッチンに辿り着いた。


 今日の朝食はフレンチトーストを作るらしい。俺も雪も朝はご飯派だから朝にパンというのは久しぶりだ。


 フレンチトーストは作ったことがないので雪に教えてもらいながら自分の分を作った。その後は交代し、雪が自分の分を作った。

 

 智絵さんはゆっくりと起きてきて自分で作って食べるそうなので俺と雪は先に朝食を食べることにした。


「美味しいな、フレンチトースト」

「ですね。久しぶり食べましたがとても美味しいです」


 フレンチトーストの他にもヨーグルトも朝食にある。この組み合わせがいいとは知らなかった。


「何だか不思議です。朝から晴斗くんとこうして食事していることが……」


 確かに不思議だ。夕食を一緒に食べることは何回かしたことがあるが、朝食はない。まぁ、ある方が不思議だが。


「俺は朝食を誰かと食べることが久しぶりだな。いつも基本1人だし」

「私もです」


 いつも1人の朝食の時間に今日は雪がいる。それだけで朝から幸せな気分になった。






  

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