第22話 白の天使は甘えたい

 8月中旬。夏休みも残りわずかとなった今日から数日、雪のお婆様の家に泊まりに行くことになった。


 メンバーはこの前プールに遊びに行った人と瑠奈の友達である早見さん、そして早見さんの弟だ。


 最初はみんなで一緒の日から雪のお婆様の家に行く予定だったが、皆予定がバラバラで先に俺と雪が行くことになった。他の人は明日から来る予定だ。


 雪のお婆様の家は電車に1時間乗り、そこからバスに数分乗ることで着く。電車もバスの移動も雪と話していたら短く感じ、あっという間だった。


 家に到着すると雪は鍵でドアを開けて俺に「どうぞ」と言った。


「お邪魔します……」


 緊張しながらそう言うと部屋から人が出てきてこちらへ歩いて来た。


「雪、よく来たね。お友達も」

「お婆様、お久しぶりです。紹介します、こちら友達の八雲晴斗くんです」


 雪に紹介され、俺はペコリとお辞儀すると雪のお婆様は嬉しそうな表情をした。

  

「よろしくね、晴斗くん。私は白井智絵しらいちえ。白井だとややこしいから智絵でいいよ」

「は、はい」


 落ち着いた雰囲気で誰かに似ているなと思ったが、雪と似てるんだ。


 玄関で靴を脱ぎ、智絵さんに案内された部屋はとても広かった。2人寝れる部屋で俺は亮と使わせてもらうことに。今日は亮がいないので1人で使うことになる。


「私は隣の部屋にいますので何かありましたら声をかけてください」

「うん、ありがとう」


 雪と智絵さんは別の部屋に行ってしまい、部屋には俺1人となった。  

 

 それにしても1人だと寂しいぐらいに広い部屋だ。雪によるとこのような部屋が後いくつかあるらしい。


 家に入る前から大きい家だなぁとは思っていたが、入ってからその凄さが増した。


 取り敢えず、荷物を置き、ベランダに出てみるとそこからは綺麗な海が広がっていた。


「綺麗……」

「そうですね」

「…………?」

 

 海の綺麗さに感動していると誰かが俺の言葉に対して返してくれた。後ろを見ても誰もいないので横を見るとそこには雪がいた。


 どうやらこの部屋と隣の部屋のベランダは仕切りはあるが壁はないのでお互い顔を見合わせることができる。


「うぉっ、ビックリした……」

「ふふっ、驚かせてしまいました。ここから見える海はとても綺麗ですね」

「だな。いい場所だと思う」


 事前に雪にとても綺麗な景色が見れると聞いていたが、海だったのか。


「晴斗くん、今からお昼の買い出しに歩いて行こうと思っているのですが、一緒に行きますか?」

「うん、一緒に行きたい」


 ここら辺を探索したい気分だったので頷くと雪は嬉しそうな表情をした。


「では出かける準備ができましたら玄関に集合です」

「わかった」


 ベランダから部屋に戻ると財布とスマホだけを小さめのカバンへ入れて部屋を出た。


 今いた部屋は2階にあるので1階へ階段で降り、玄関へ向かおうとしたが、俺は迷子になっていた。

 

 これはヤバイぞ……行きと同じ場所を通ればいいはずなのだが、今俺がいる場所は通った覚えのない場所だ。


(どうしよう……取り敢えず、あっちに……)


 進んでいた方向にさらに進むとそこにはソファに座り、テレビを見ている智絵さんがいた。


 取り敢えず、智絵さんに助けてもらおう。迷子になりましたというのは少し恥ずかしいが。


「智絵さん」


 驚かせないよう後ろから前に行き、名前を呼ぶ。


「あぁ、晴斗くん。今、雪の小さい頃の写真を見ていたんだけど、一緒に見る?」

「雪の……」


 凄く見たい。けど、雪と待ち合わせがあるので玄関に行かなければならない。いや、待て、少しぐらいはいいんじゃないか。


 1人で少し悩んだ末、俺は智絵さんの横に座り、アルバムを見せてもらうことになった。


「可愛いですね」

「そうだねぇ。これも可愛いよ」

「ほんとですね」


 少しだけ見るつもりが、気付けば夢中で見ていた。次のページをめくると急に視界が暗くなった。そして耳元で誰かが囁いた。


「恥ずかしいので見ないでください」

「!」


 視界が明るくなると俺は後ろを振り返る。するとそこには雪がいて、どうやら目隠しをしたのは彼女らしい。


「あぁ、雪も見る?」

「見ません。晴斗くん、玄関はこちらではないですよ。こっちです」


 そう言って雪は俺の手を取り、玄関へと向かっていく。


(手……)


 ぎゅっと握られて、汗をかいていないか気になるし、さっきから凄いドキドキしている。


 玄関に着くと雪は自分から手を握ったことに気付きハッとして顔を真っ赤にした。


「す、すみません!」

「いや、別に……」


 自分で言って後からいや、別にって何だよと突っ込みたくなる。


「い、行きましょうか……買い出し……」

「そ、そうだな……」


 どうしていいかわからない空気だったので、俺と雪は家を出てスーパーへ向かうことにした。




***




 夕食は雪が作ってくれた。もちろん俺も少し手伝った。


 食べ終えた後はお風呂に入り、寝るまで俺と雪はソファに座ってテレビを見ながらゆったりと過ごしていた。


「私は皆さんといる時間も好きですが、こうして晴斗くんと二人っきりでいる時間も好きです。何だかとても落ち着きます」


 彼女の言うことに俺も同感だ。俺も雪といるのは落ち着く。そして他の人といる時とは違う何かがある。


「晴斗くん、少しだけ甘えてもいいですか?」

「甘えるって?」

「そうですね……こうしていてもいいですか?」


 そう言って雪は俺の肩にゆっくりと寄りかかってきた。


 お風呂上がりで寝間着や匂いにドキドキしていたのにさらに心臓の音が速くなっているような気がする。


「そのまま寝ないならいいけど……」

「ふふっ、ありがとうございます」


 どうしよう。俺、耐えられるかな……。いい匂いするし、近いし、ドキドキするし、倒れてもおかしくない。


「雪って髪さらさらだよな……」

「よく言われます。触ってみますか?」

「えっ……俺が?」

「ふふっ、晴斗くん以外に誰もいませんよ。触ってみてください」


 触ってみてくださいって……そこだけの言葉を聞いていたらかなり危ない人の発言だ。だが、話の流れからして触るのは髪だ。


 そっと手を伸ばし、彼女の髪を少しだけ触った。見ていてもわかるが彼女の髪はさらさらだ。

 

「頭撫でてほしいです……」

「ん……」


 頭を撫でてほしいとの要望があったので優しく彼女の頭を撫でた。


「ありがとうございます」

「お礼なんて……ん?」


 雪が甘えてくるのでつい従姉妹を可愛がるように撫でてしまったが、俺、何やってるんだ!?


 やってることが恋人みたいだし、何、普通に頭を撫でてるんだよ。


 ハッと我に返り、手を離すと雪が手を握ってきてうるっとした目でこちらを見てきた。


(これはもう一度ってことかな……?)


 もう一度彼女の頭を撫でると雪は嬉しそうに小さく笑った。






        

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