第17話 白の天使のお誘い

 昼食を食べた後、午後からもプールで遊び、帰る頃には全員遊び疲れていた。


 駅まで歩き、電車に乗ると俺と未玖以外はみんな寝てしまった。


「晴、眠い」

「俺に言われても困る」

「……ね、高宮くん、話しやすいね。話したことあったけど、今日たくさん話して思ったよ」

「そうだな、亮は話しやすい」

「高宮くんって彼女のいるの? 瑠奈ちゃんが他校の彼女はどうなのかって聞いてたけど」


 眠たいと言いつつ未玖は話すのをやめない。多分、楽しいからだろう。


「彼女はいないと思うぞ。他校に幼馴染みがいて仲いいのは聞いてるけど」

「そかそか。晴はどうなの? 気になってる人とかいない?」


 未玖にそう聞かれて以前の俺なら気になっている人はいないと答えていただろう。けど、頭に雪が浮かんだ。


(俺は雪が気になっているのか……?)


「おやおや、その様子はいるな?」

「どうだろう……」

「……まっ、幼馴染みとして好きな人できたら教えてよ。私、全力で応援するし」

「うん、わかった」

「うんうん」


 未玖はそう言って俺に何か言って欲しそうな表情をしていた。


(あぁ、なるほど……)


「俺も気になるし、好きな人できたら教えてほしい。応援するし」

「ありがとっ!」


 恋人を作るとしたら未玖の方が早い気がする。男子友達多いし。


 恋愛トークが終わると未玖は窓から外の景色を眺め、そしてこちらを向いた。


「そう言えば、成績のことお父さんに何か言われた?」

「うん、凄い怒られた。このままじゃバイトやめろとか言われそうな感じかな」


 そう言うと未玖は予想通りだった返答に苦笑いした。


「あはは、やっぱ厳しいね。今の晴、十分頑張ってると思うんだけどな」

「ありがと。1学期の成績は今までの中で1番良かったし、まぁ、怒られたことは気にしないでいようかなって」

「うんうん、お父さんの言うことなんて無視! 晴の頑張りは私がよく知ってる。お父さんには怒られたけど、私は晴を褒めるよ」


 未玖はそう言って手を伸ばし、俺の頭を優しく撫でた。


 頑張りを褒められることなんて家ではほとんどない。だからこそ未玖に「頑張ったね」と言われて頭を撫でてもらうと不思議な気持ちになった。


「何か未玖お母さんみたいだな」

「えへへ、そう? けど、友達からたまにママって呼ばれるよ」

「それはどうなんだ……」

「ママっぽい?」

「んーまぁ、そう言われてみればそうかも」

「そかそか、なら怒られて落ち込む晴にハグしてあげよっか?」

「落ち込んでないよ」

「……そっか」


 未玖と話していると隣で寝ていた雪がポスッと俺の肩に寄りかかってきた。


 すうすうと寝息を立てて寝ている彼女はとても幸せそうだ。


 結局、俺は未玖と話しいたので一睡もしなかった。皆、降りる駅が違い、未玖と亮とは電車の中で別れた。本当なら俺もここで降りるはずだが、今日は雪と一緒に夕食を食べる約束をしているので一緒には降りなかった。


 別れる際に未玖と亮になぜ降りないのかと聞かれると思ったが、何も聞かれなかった。ニヤニヤされたが。


 1駅先へ行くと俺と雪、瑠奈は電車から降り、瑠奈とは駅で別れた。


 俺と雪は夕食のため家に行く前にスーパーへ寄ることになった。思ったよりたくさん買ったので荷物は俺が持つことに。


「今日はとても楽しかったですね」

「だな」

「今年は何だかワクワクするようなことが待っている気がします。晴斗くんとこうして話すようになってから私、毎日が楽しいんです」


 両手を合わせて小さく笑う彼女は言葉の通りとても楽しそうだ。


 俺も雪と話すようになってから前よりも毎日が楽しい。


「夏休みはまだ始まったばかりだし、雪さえ良ければ遊んだり話したりしようよ」

「……もちろんです。私、晴斗くんのこともっと知りたいですし、一緒にたくさんいろんなところに行きたいです」

「うん、俺も」


 雪といると不思議な気持ちになる。未玖や瑠奈と一緒にいる時にはならないような……。




***




 家に着くと2人で夕食を作った。生姜焼きは雪が作ってくれてその他のおかずは俺が作った。


「晴斗くん、生姜焼きできましたよ」

「おぉ、匂いからして美味しそう」


 雪の料理のできには負けてしまう。俺よりも作れるレパートリーが多い。


「味噌汁も作りましたよ」

「おぉ、味噌汁。雪、実は俺、味噌汁にはうるさいんだ」

「そうですか。ふふっ、では、チャレンジです! 私の味噌汁はお婆様に認められたものです。晴斗くん、絶対に好きですよ」

「それは楽しみ」

「ふふっ、では食べましょうか」


 夕食を並べたテーブルに向かい合わせで座り、手を合わせて「いただきます」と言ってから食べ始める。


 最初は味噌汁。温かいうちにと思い、まずは具を食べた。


 味噌汁にはワカメ、豆腐が入っている。具を食べると味噌汁を飲んだ。


「…………」

「どうですか? 気に入ってくれましたか?」

「うん、美味しい……好き」


 顔を上げて彼女のことを見ると雪はなぜか顔を真っ赤にしていた。


(気の……せいか?)   


 心配で彼女に「大丈夫か?」と声をかけようとしたその時、雪はゆっくりと口を開いた。


「……私も好きです。私もこの味噌汁好きですよ。実はこの味噌汁、お婆様から教えてもらった通りに作ったものなんです」

「そうなんだ。俺はおじいちゃんが作ってくれた味噌汁が1番好きで作り方教えてもらったんだ」

「それは是非食べてみたいです」


 味噌汁を飲んだ後は、雪が作った生姜焼きを食べた。


(うまっ! 何これ、美味しすぎるだろ)


「生姜焼き、美味しいよ」

「ふふっ、お口に合ったようで良かったです」


 誰かと食べるってやっぱりいいな。1人で食べるよりも食べ物が美味しく感じる。




***



 食べ終えると食器は俺が洗った。作ってもらったのに洗ってもらうなんて俺にはできない。


 食器洗いをしているとソファに座っていた雪は立ち上がり、窓の方へ歩いていっていた。そしてしばらくすると彼女はスマホを持って俺のところへ来た。


「雨降ってきましたが、晴斗くんは傘は持っていますか?」

「えっ、雨?」

 

 カーテンを閉めていて気付かなかったが、洗い物を終えて外を見てみると雨が降っていた。


 傘を持っていないので、何時に雨が止むのかスマホで調べたところ止むのは夜の10時頃らしい。


「ん~、少しマシになったら帰ろうかな。雪、もう少し────」


 彼女に話しかけようとしたその時、雪もこちらに来て、俺の服の裾をぎゅっと握ってきた。


「雪?」

「……も、もし良ければ泊まりませんか?」






      

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る