第16話 小悪魔な後輩と俺は「限定」に弱い
この室内プールにはスライダーが何種類かあるがまずはみんなで水中バレーをすることになった。
「高宮先輩」
「うぉっ、直球こえーよ」
瑠奈はパスを繋げるというよりボールで亮を当てにいっていた。
「瑠奈、バレー知ってる?」
「知ってますよ。元バレー部ですから」
「ならパスって意味わかるよな」
「もちろん」
パスを繋げるだけなのになぜか瑠奈と亮はバチバチにやりやっていた。
その流れでパスから試合のような形になりチーム分けして水中バレーをした。
その後は各自やりたいことを、となり未玖と亮は長いスライダーへ。そして雪と瑠奈は浮き輪をレンタルして流れるプールへ。
「先輩は浮き輪必要ないんですか?」
「必要ない」
「そうですか。では先輩の仕事は白井先輩の浮き輪を支えることですね」
「どんな仕事だよ」
大して面白くもない会話だが、隣にいた雪はクスッと笑っていた。
「そう言えば、八雲くん。レモンケーキですが、別のお店を見つけましたので今度そこに行きませんか?」
「おぉ、あの時食べれなかったからな。いいよ、食べに行こっか」
「はいっ、楽しみにしてます。野々宮さんも行きますか?」
浮き輪に横を向いて突っ伏していた瑠奈に尋ねると彼女は顔を上げた。
「レモンケーキはとても気になりますが、デートの邪魔をするわけにはいきませんし」
「デートじゃないし。気になるなら瑠奈も行かないか?」
「白井先輩だけじゃ満足しないから私を誘うんですね」
「違うから!」
このようなやり取りを食堂でもやったことがある気がするがまぁ、思い出す必要はないだろう。
「野々宮さんも食べに行きませんか? レモンケーキは夏だけなんです」
「夏だけ……」
瑠奈も一緒だ。彼女も限定という言葉に弱いからここでさすがに行きませんとは言わないだろう。
「先輩、さっきの言葉は取り消してください。私も行きます」
「ふふっ、では決まりですね。女子2人男子1人になってしまいますし、高宮くんも誘ってみません?」
「いいな。亮は俺から誘っとくよ」
「お願いします」
レモンケーキの話をしていると流れるプールを1周していた。雪はぽわ~とした表情をして浮き輪と一緒に流されていた。
(このまま寝ないよな……?)
心配で彼女のことを見ていると雪と目が合った。そして雪は俺の腕をツンツンとつつき、名前を呼んだ。
「八雲くん八雲くん」
「どうかした?」
「あの乗り方してみたいです」
雪の視線の先には大学生カップルがいて、彼女の方は浮き輪の上に乗っていて、彼氏が浮き輪を後ろから押していた。
「あの乗り方でしたら先輩が一度プールサイドに出て上から乗るのがいいと思いますよ。取り敢えず端に寄りましょうか」
流れるプールに流れながら端へ寄ると雪は一度プールサイドに上がり、浮き輪は俺が流れないよう持っていた。
「そのままゆっくりここに座ってください。大丈夫です、八雲先輩がしっかり持っていてくれますから浮き輪は逃げません」
瑠奈の言葉に雪はコクりと頷き、浮き輪へと座った。
「す、座れました……バランス取らないと怖いですね」
雪は乗れて嬉しい……というよりバランスが取れずいつか浮き輪から落ちるのではないかと心配していた。
「支えておくから大丈夫だよ雪」
そう言うと雪は口をパクパクさせて俺の耳元で囁いた。
「野々宮さんいますけど名前……」
「あっ、実は……」
2人の時だけ下の名前で呼ぶと決めたがこの前、瑠奈の前で雪と呼んでしまったことを伝えると雪は「そうでしたか」と一言。
「では晴斗くん。怖いので手を握っててもらえませんか? 私の手の甲に手を添えてくれるだけでもいいので」
「……いいよ」
言われた通り、彼女の手の甲に手を優しくそっと添える。ぎゅっと握ろうかとも思ったが、添えるのが限界だった。
「見ていて微笑ましいですね。私、未玖先輩のところに行ってきます」
瑠奈はプールサイドに上がり、そのままスタスタと未玖のところへ行ってしまった。
俺らにどうなってほしいかわからないが、瑠奈は俺と雪を二人っきりにするために未玖のところへ行ったのだろう。
(雪とはそういう関係じゃないんだけどな……)
瑠奈の背中を見送ると雪に名前を呼ばれた。
「晴斗くん、今日の夕食、生姜焼きを作る予定なんですけど、良ければ食べに来ませんか?」
「生姜焼き……」
「はい、生姜焼きです」
また雪の料理が食べることができて、また雪と一緒に食べることができるのなら……。
「俺にできることがあれば手伝う。だから……雪の作った料理が食べたい」
「はい、一緒に作りましょう」
雪は天使のような笑顔で俺にニコッと微笑みかけてきた。
「そう言えば、野々宮さん、中学の頃はバレー部だそうですね。晴斗くんは何か部活はやっていたのですか?」
「俺はバスケ部だよ、小4からやっててさ。雪は何かやってた?」
「私も実はバレー部なんです。そこまで上手くありませんが……」
「そうなんだ」
雪といる時間が増えたがまだ彼女のことはほとんど知らない。だからこそこれから少しずつ知っていきたいと思う。
***
お昼になると亮達と合流し、昼食を売店で買って食べることになった。
丸いテーブルに5人座れるところがあったので、そこで食べることに決まり、俺は亮の隣に座った。すると、隣に瑠奈が来てツンツンと腕をつついてきた。
「先輩、どうでした?」
「どうでしたって瑠奈が思うようなことにはなってないぞ」
「へぇ、そうですか。ところでそちらのポテト美味しそうですね。私のたこ焼きとシェアしませんか? 白井先輩もどうです?」
瑠奈は隣からの視線に気付き、雪にもどうかと聞くと彼女は「シェア、いいですね」と一言。
「私のポテトどうぞ」
「ありがとうございます。白井先輩もたこ焼き1つ食べてくださいね」
雪と瑠奈でシェアし始めたので瑠奈はもう俺のポテトはいらないのだろう。
「ちょっと高宮くんと追加でジュース買ってくるね」
「おう」
未玖の言葉に返答し、ポテトを1つ摘まむと隣から話しかけられた。
「先輩、あ~んしてあげます。いえ、私より白井先輩に食べさせてもらいたいですよね。白井先輩、八雲先輩に食べさせてあげてください」
「わかりました」
「では私も飲み物を……」
(雪さん!? 普通にわかりましたって言ってますけど、断っても良かったんですよ!?)
瑠奈は未玖のところへ行ってしまい、雪は今の場所だと遠いので瑠奈が座っていたところへ座った。そしてたこ焼き1つを食べやすいサイズにし箸で掴み、それを俺の口元へと持っていく。
「八雲くん、どうぞ」
「あ、ありがと……」
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