2章
第14話 幼馴染みと水着選び
『先輩、プール行きましょ! 私とか白井先輩の水着見たいですよね?』
『誘い方……いいけど、3人で?』
『いえ、私と白井先輩、八雲先輩、そして未玖先輩と高宮先輩もお誘いしました。皆さん、オッケーだそうで、後は先輩の返事待ちです』
『そうか、なら行こうかな』
『ふふふ、見たくなったんですね』
『違うから!』
このようなメッセージを瑠奈としたのは明日から夏休みが始まる1日前。
夏なのでプールに行こうと亮とは話していたが、まさか雪や未玖、瑠奈とも一緒に行くことになるとは。
瑠奈とのメッセージが途切れると今度は未玖から電話がかかってきた。寝不足で眠たいが、通話ボタンを押した。
『あっ、晴? 明日、暇してる?』
「明日? まぁ、予定はないけど……」
『ならなら一緒にショッピングモール行こうよ。水着買いたいからさ』
なぜ水着を買うのに俺が必要なんだろう。彼氏でもないんだし友達と一緒に買いに行けばいい話なのでは?
「友達と行く方がいいんじゃないか?」
『そうしたいんだけど、雪ちゃんと瑠奈ちゃんは明日予定があるみたいでさ。私は予定詰まってて明日しか買いに行ける日がないんだ。1人でも行けるけど、やっぱ寂しいというか……ね、ダメかな?』
「……わかった。何時に集合する?」
ショッピングモールに付き合うことを決めると電話の向こうからガタッと物凄い音がした。
「大丈夫か?」
『だっ、大丈夫! ちょっと物落としちゃってさ』
「大丈夫ではない気がするが……」
『ほんと大丈夫だから。集合時間だったよね? 10時集合でもいいかな?』
「いいよ。家行くわ」
『うん』
昔から待ち合わせとなるといつも俺が彼女の家に行ってそこから一緒に行っている。たまに逆になるときもあるが。
それにしても高校生になってから未玖とこうしてどこかに2人で行く約束をするのは初めてだ。
「未玖と遊ぶの久しぶりだな」
『だね。晴が私と遊んでくれないから』
「カラオケは苦手だし、大人数は苦手だからな」
『ふふっ、知ってる。じゃ、また明日』
「うん、また明日」
電話を切ると未玖からお休みと可愛いスタンプが送られてきた。それに俺もお休みと返したのだった。
***
「はーむっ! んん~幸せすぎる」
ショッピングモールのとあるカフェ。今日は水着を買いに行くために来たはずだが、なぜかパンケーキを食べている未玖。俺も誘惑に負けて食べているが。
マンゴーパンケーキを1口食べると彼女から名前を呼ばれ、顔を上げた。
「晴、美味しいね」
「……うん、美味しいな」
満面の笑みでこちらを見てきて、そう言えば未玖はこんな風にいつも笑っていたなと懐かしくなった。
「ところで未玖さん、目的は?」
「目的? パンケーキ食べることでしょ?」
「違うだろ」
「たは~」
「たは~って何だよ。食べたら行くぞ」
そう言うと未玖がニヤニヤしながらこちらを見てきた。
「え~晴ったら私の水着そんなに見たいんだぁ」
「なっ、違うから」
「あははっ、晴、顔真っ赤! 可愛い」
男に可愛いと言われてもあまり嬉しくはないのだが……。
「ね、晴って雪ちゃんのこと好きだったりする?」
「急な恋愛トークすぎるだろ」
「恋愛トークは急だからね。で、どうなの?」
「どうって……ゆ、白井さんとは友達だよ。最近仲良くなったばかりだし。未玖はどうなんだ?」
未玖は俺以外の男子とも仲が良く、好きな人がいてもおかしくない。そう言えば彼女と恋愛に関して話すのは初めてな気がする。
「私はいないよ」
「そうなのか? 最近、よく中村といるの見かけるけど」
「中村くんは趣味が合うってだけでそういう感じはないかなぁ」
中村というのは男子の中で1番モテているクラスメイト、そして未玖と同じグループだ。関わりがなさすぎて俺はまだ彼と一度も話したことがない。
パンケーキを食べて店から出ると水着売場へと未玖と一緒に向かった。
女子の服が多い店でもそうだったが、水着売場も居づらい。男子の水着も売っている店なら良かったが、この店は女子のみだ。
「わっ、これ可愛い!」
(ほぼ布ない……てかほんとに俺はこの場に必要だろうか)
「ね、これどう思う?」
未玖は黒のフリフリの水着を手に取り、俺に似合うかどうか聞いてきた。
「どうって……似合うと思うよ。変な奴にナンパされそうで怖いけど」
「ナンパかぁ……そんときは晴に守ってもらうし大丈夫だね」
「大丈夫なのかな……」
その後、未玖の水着選びは続き決まったのは1時間後だ。
「買えた~目標たっせ~!」
「良かったな」
水着を買えたが、せっかくショッピングモールに来たということで未玖と目的地を決めず館内をふらつく。
2人で話ながら歩いていると前から赤リボンをつけた少女が歩いてきた。俺が気付くと未玖も気付いたようで、その少女の元へと彼女は走っていった。
「瑠奈ちゃん!」
「未玖先輩、苦しいです」
「わっ、ごめんごめん!」
未玖は瑠奈にぎゅーと抱きついていたが苦しいと言われてパッと離れる。彼女達の元へ行くと瑠奈は俺のことに気付き、軽く一礼した。
「デートですか?」
「デートじゃないよ。私の水着を買うのに付き合ってもらったの。瑠奈ちゃんは、バイト帰り?」
「えぇ、バイト帰りです」
「お疲れ様。お姉さん達とおやつタイムする? 冷たーいもの食べよっ」
「わっ、いいですね。食べましょ」
未玖と瑠奈はどの店に行くか話だし、俺は帰った方がいいのかなと思い、一歩後ろに下がると未玖にぎゅっと片手を握られた。
「晴はどうしたい? 私らはパンケーキ食べてお腹一杯だし、ドリンクっていうのもありだよね」
「……未玖と瑠奈にお任せするよ」
「ん~じゃあ、私のバイト先でも行こっか。夏はクリームソーダが美味しいよ」
未玖のバイト先か……バイトをしているのは知っていたが、どこでしているのかは知らない。
自分のバイト先なので未玖を先頭にして俺達はショッピングモールを出た。さっきまで未玖と楽しそうに話していたが瑠奈は後ろに下がり俺の隣に来た。
「先輩、白井先輩の水着楽しみですね」
「ノーコメントで」
「ノーコメですか。ではでは私の水着は楽しみですか?」
「んー楽しみー」
「棒読みですね。まぁ、恥ずかしくて楽しみなんて素直に言えませんよね」
手を口元に当てて小悪魔のように笑う瑠奈。彼女と話していると何だかいつも負かされているような気がする。
「先輩、プール楽しみですね」
「……そうだな、楽しみ」
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