第13話 白の天使の手作り料理
7月に入ったある日。放課後、委員会の集まりがあり、図書委員は図書室に集まっていた。
その集まりは先生が数分話してすぐに解散となった。他の人が図書室を出る中、雪はこの場から動かず図書室に残っていた。
雪とはクラスが違い、今日は一言も話していない。彼女と1日1回話すこと、と決まりはないが、声をかけよう。
図書室なので、彼女の後ろから小さな声で声をかけた。
「雪」
トントンと肩を叩くと彼女は体をビクッとさせてゆっくりと後ろを振り返った。
「晴斗くん、こんにちは」
「こんにちは……本借りるの?」
彼女の手元には本が1冊あったので、借りるのだろうと思った。
「いえ、返却に。晴斗くんは、この後帰るだけですか?」
「うん、カバンは持ってきたし教室には寄らずこのまま帰るだけだよ」
「そうですか。では、一緒に帰りませんか? 私もこの本を返却した後、帰るつもりなので」
「うん、いいよ。一緒に帰ろう」
雪と帰るのはあの日、図書室で出会って一緒にスイーツを食べた日以来だ。いつも俺は亮と帰っているが、彼女はどうしているのだろうか。
彼女が返却して帰ってくるまで面白い本がないかと見て回ることにした。
数分後、雪は未玖と一緒にいて楽しそうに話しながら戻ってきた。未玖が片手を小さく挙げたので俺も小さく手を挙げた。
図書室で話すと怒られそうなので廊下に出て、話すことに。
「やっほ、晴。委員会だったらしいね」
「うん、さっき終わったところ」
「お疲れ様。これ、さっき自販機で買ったチョコ」
「ありがと」
疲れた後には甘いもの、ということで未玖からチョコをもらいこの場で食べた。
「雪ちゃんもどうぞ」
「ありがとうございます、未玖さん」
雪も未玖からチョコをもらうとすぐに食べる。多分、俺と一緒でお腹が空いていたのだろう。
「そだ、雪ちゃん。連絡先の交換したいんだけど、いいかな?」
「いいですよ」
未玖は雪と連絡先の交換をすると友達と待ち合わせがあるようでこの後、教室に戻るらしい。
「む~、もっと雪ちゃんと晴とも話したいのに。2人ともまたね」
「はい、また会えましたら話しましょう」
「うん、また」
背を向けて未玖は歩き出すと何かあるのか立ち止まりクルッと背を向けてその場で言った。
「晴、今日の夜、できたらやろうね」
「おー、わかった」
未玖は言いたいことを言い終えると再び歩き出した。
2人になると雪は俺の服の裾をクイクイと摘まんできた。
「やるって何かやるのですか?」
「えっ、あぁ、テレビゲームだよ。未玖とよくやるんだ」
「テレビ……ゲーム……それはどういったものなのですか?」
どうやら雪はテレビゲームをしたことがないらしい。もしかしたら親が厳しいからしたことがないのかもしれない。
「んー、テレビでやるゲームって言ったらそのまんまの説明だよな……今から俺の家でやってみる?」
「家……ですか?」
(ヤバい!)
また俺は何を言ってるんだ。友達でも異性を家に誘うとか……。
「や、やっぱり家は……」
「や、やってみたいです! テレビゲーム」
俺の言葉を遮るように雪は、両手を胸の位置でぎゅっと握り、いつもより大きな声で言った。
「お、おぉ……や、やろっか」
***
「お、お邪魔します……」
「どうぞ。両親は夜遅くて今は誰もいないから緊張しなくていいよ」
雪は緊張でガチガチな状態で家の中へ入っていった。両親もいないからそこまで緊張しなくてもいいと思うが、まぁ、誰だって友達の家に入るのは緊張する。
リビングへ案内し、雪をソファへと座らせる。俺はすぐにテレビゲームの用意をしてコントローラーを持って1つを彼女に手渡した。
「これ使って」
「あ、ありがとうございます……これは?」
そうだった、やったことがない人にコントローラー渡しても何だよこれってなるよな。
「コントローラー。これを使ってやるんだよ。最初はわからないだろうし一緒にやろっか」
「はっ、はい! ご指導お願いします」
ペコリと頭を下げ、顔を上げた彼女は教えてもらおうとこちらへ寄ってきた。
教えるから距離が遠いとやりにくいのはわかるが近すぎる……。
ドキドキしながら俺は彼女へボタンの操作方法を教えた。雪は覚えるのが早く、数分後にはどこを押せばどうなるか全て覚えていた。さすが、学年1位。
「じゃあ、1回やってみるか」
「はいっ」
相手は初心者、俺が本気でやってしまうと面白くないので彼女に合わせるようにやった1戦目。雪はゲームが上手かった。手加減なんて必要なかったようだ。
「勝ちました! 勝ちましたよ、晴斗くん!」
「お、おう……良かったな……」
勝った喜びで雪は、俺の両手を取り、ぎゅっと握ってきた。嬉しいのはわかるがさっきよりも近い。そして手……。
「ゲーム、楽しいです」
「そうだな」
そこから何戦かやり、気が付けば夕方になっていた。この時間だといつもは夕飯を作り始めている頃だ。
「お腹空いてきたな……」
「ですね。良ければ私が何か作りましょうか?」
「雪が?」
「はい、食料は、今から買いに行かなければなりませんけど作りますよ」
白の天使の夕飯が食べられる、今逃したら二度とない気がする。この前、お弁当のおかずをもらったとき、とても美味しかったし雪の作るものを食べてみたい。
「いいのか?」
「台所を貸してもらえるのなら作りますよ」
「……じゃあ、お願いしようかな。雪の料理、食べてみたいし」
「わかりました。では、買い出しに行きます」
「うん、俺も行く」
ゲームはやめてスーパーに2人で行くことに。
家に帰ってくると雪が夕食を作ってくれた。何も手伝わないわけにはいかないので俺はご飯を炊いた。
数分後、テーブルに並べられた料理はどれも美味しそうだった。ご飯、味噌汁、ハンバーグ、野菜とどこかのレストランで出てきそうな感じだ。
食べる準備ができると俺と雪は向かい合わせに座る。
(久しぶりに誰かと食べる夕食だ……)
「冷めないうちに食べましょうか」
「あぁ、そうだな」
「「いただきます」」
手を合わせて、お箸を手に取る。最初はやはりハンバーグと思い、一口サイズに切り、食べた。
(んっ、うまっ! 何これ、美味しすぎるだろ)
雪に美味しいことを伝えようとすると目の前にいる彼女がとても幸せそうな顔をして食べているのを見てドキッとした。
雪は食べているときにも笑顔だな。ふとした天使の笑顔にドキッとしない奴はいないだろう。
「雪、ハンバーグ美味しいよ」
「ですね、私もそう思います。リクエストがあればまた作りに来ます」
(ま、また雪の手料理が食べれるのか!?)
「晴斗くんとまたこうして一緒に食べたいのが本音なんですけどね……えへへ」
何その可愛らしいえへへは……。天使かよ。いや、白の天使か。呼ばれてるだけだけど。
「俺も雪とまた一緒に食べたい。次、また機会があれば俺が作るよ」
「はいっ、楽しみにしてます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます