第12話 小悪魔な後輩とおうちデート

 先輩方が、楽しそうにしている中、私は、先輩方を盗撮していた男の人の後ろに立ち、その人の肩を叩いた。


「噂通り『白の天使』には彼氏がいたんだな。よし、今からこの写真を──────」

「その写真をどうするんです?」

「! だ、誰だよ!」


 それはこちらの台詞でもあります。私もあなたに言いたいです。誰だよと。


 先輩なのは見てわかる。白井先輩が大好きな人か、それか噂好きな人といったところだろう。


「私は白井先輩の友達です。あなたは白井先輩と同級生ですね。先輩、スマホで先ほど撮った写真を消してください」

「なっ、何も撮ってねぇーし」


 無理がある答えだ。私は後ろからあなたが写真を撮ったところを見てしまっているのだから。


「嘘つかないでください。私はちゃーんと見てましたから」

「! けっ、消します! 消しますから!」


 突然、嘘をつくのをやめてしまったが、私にビビってしまったのだろうか。怖い顔なんてしていないのに。


「消したら私に確認させてください。消した、なんて言葉だけじゃ信じられませんから」

「わ、わかった! わかりました!」


 年下は私のはず。それなのになぜ先輩は、私に敬語なのだろうか。


 写真を完全に消したのを確認すると私は先輩に「もう行ってもいいですよ」と言った。


 1人この場に残ると私は、ふぅ~とため息をつき、壁にもたれ掛かった。


 3人で映画に行った時からつけている人がいるような気がしていたが、まさかここまでつけてくるとは……。先輩達の後をコッソリつけていて正解。


 コッソリ……よく考えてみれば私もストーカーみたいなことをしている。先輩に知られたら怒られるかな……。


「私、何やってるんだろう……」




***




 雪と海へ行った日の2日後。あの日は晴れていたが今日は今朝からずっと雨だ。


 傘があってもこの雨だと靴は絶対に濡れるだろう。靴下がビショビショになる未来が見える。


 憂鬱な気分で校舎から出て、傘を差そうとすると後ろから呼ばれた。


「八雲先輩」

「ん、あぁ、瑠奈か……」

「はい、可愛い後輩の瑠奈です。元気ないですね? 白井先輩に振られたんですか?」

「告白もしてないし、振られてない。雨でテンションが低いだけだ」

「なるほど。確かに雨の日って憂鬱で嫌ですよね」


 校舎の出入り口で立っていては邪魔になるので、端に寄ると瑠奈も一緒についてきた。


「先輩、一緒に帰りません?」

「駅までな」

「やったっ。そうだ、憂鬱な気分な先輩に私がいいものをあげます。このまま私の家に来ませんか? この前言っていたクッキーと美味しい紅茶を用意します」


 怪しい、怪しすぎる。ケーキと紅茶で俺に何かするつもりだ。そう思っていると瑠奈は心の中を読んできた。


「先輩、私、何も企んでないですよ」

「心の中読めるのか?」

「先輩がわかりやすいんです。先輩、私の手作りクッキー、食べたくないんですか?」

「…………食べ────」



───────数分後



「いや~、やっぱり瑠奈のクッキー好きだわ」

「ふふん、これを嫌いという人はいませんよ。お茶のお代わり淹れておきます」

「ありがと」


 悩んだ結果、俺は瑠奈の家に寄って、クッキーと紅茶を頂いた。


 彼女は一人暮らしだ。家には何度か来たことがある。


「そう言えば、レモンケーキは売り切れだったそうですね」


 紅茶を淹れながら瑠奈は俺にそう言うが、レモンケーキの話を彼女にした覚えはない。なぜ彼女が知っているのだろう。


「白井先輩に聞いたんです。お楽しみにしていたレモンケーキを八雲先輩と食べれなかったと話してくれました」

「あぁ、雪から聞いたのか……」


 言った後に気付いた。下の名前は2人の時にだけ呼ぶと決めていたことをすっかり忘れていた。


「雪……へぇ~、仲が深まったんですね。ですが、私は負けてません。私の方が先輩のこと知ってますから」

「負けてないってなんだよ。瑠奈と勝負事をした覚えはないが」


 いつどうやって仲良くなっているのかわからないが、雪と瑠奈は先輩と後輩の関係だが、仲が良く、たまに2人で遊びに行っているらしい。


 追加で淹れてもらった紅茶を飲み、手を伸ばしクッキーを食べる。


(ヤバい……ヤバいぞこのクッキー)


 瑠奈が作ってくれたクッキーが美味しすぎてつい手を伸ばして取ってしまう。


「先輩、苺クッキーもあります。はい、あ~ん」

「いや、自分で食べれるんだけど……」

「まぁまぁいいですから」


 苺クッキーは口元まで来ていたので俺は彼女に食べさせてもらうことにした。


「どうです? 美味しいですか?」

「うん、美味しい」

「やったっ」


 無邪気に喜ぶ彼女は、とても可愛らしくそして今さらだが、瑠奈の着ている服が肌が良く見えるものであることに気付き、ドキッとした。


(何か今日、未玖がよく着るような服だな)


「先輩、ゲームやりません? この前やったやつです」


 そう言って四つん這いでテレビの方へ行くので、俺は慌てて下を向く。


(瑠奈さん、俺がいるのわかっててやってません!?)


「先輩、下向いてどうされましたか?」

「な、何でもない……げ、ゲームやろう」

「はい……」


 この前やったというのはテレビゲームでやるカーレースだ。瑠奈はゲームが得意で、いつも勝っている。


 コントローラーを持ち、指を動かし、ゲームをしているとだんだん瑠奈が俺に近寄り、肩にもたれ掛かって来ている。


 重くはないがゲームの妨害されている気がする。これも戦略なのか……。


 真似するように俺も彼女の方へもたれ掛かると瑠奈が押し返してきた。


「先輩、くっつきすぎです」

「いや、瑠奈が寄ってきてるんだろ」

「いえいえ、先輩が寄ってきてるんです。もう私のことが好きだからって」

「はいはい、好きですよ。おっ、勝てるかも」

「わっ、先輩に負けるとか絶対に嫌です」


 結果、1戦目は瑠奈の勝利で終わり2戦目へと入る。


「この状況、おうちデートみたいですね」

「そうかな……あっ、またストップに……」

「ふふっ、先輩、止まりすぎです。これは私の勝ちですね」

「強すぎだろ……」


 結果の画面が表示されると、瑠奈がまた俺の肩へ寄ってきた。


「先輩、ゲームで疲れたので甘えてもいいですか?」

「甘えるってなんだよ」

「こうすることです」

「さっきからしてるじゃん……」


 聞く前からしてるだろと心の中で呟き、彼女の頭をポンポンとすると、瑠奈の表情はふにゃりと緩んだ。







      

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