第10話 白の天使とスイーツノート
白井さんと海に行くことになった土曜日。彼女とは一度休みの日に遊びに行ったが、今日は2人だ。これがデートなのかはわからないが、瑠奈に言われたことを気を付けつつ楽しもう。
朝食を食べて、出かける準備を終えると帰ってきてからの準備もしておく。
夕食はもしかしたら白井さんと一緒に食べるかもしれないので、夕食の準備はせず、お風呂をすぐに溜められるようにだけした。
一人暮らしというわけではないが、両親はいつも帰りが遅く、俺が寝る頃に帰ってくることが多い。なので基本、家事は自分がしている。
高校生から始めたことではなく中学生からよく料理や洗濯はしてきたのであまり面倒とは思わない。
料理に関しては作れるものが多いほどお金をあまり使わないことに気付いてからは作られたものを買うより自分で作ったものを食べたいと思うようになった。
俺の生活の話はいいとして余裕を持って朝早くから準備をしていたが、気付けば時間ギリギリになってしまった。遅刻だけはダメだ。
急いで玄関へ向かい、鍵をかける。そして集合場所である駅へ向かって歩いた。
駅に到着すると先に白井さんが来ており、本を読んでいた。
まだ集合時間にはなっていないが、もしかしたらかなり待たせてしまったのかもしれない。
後ろからだと驚かせてしまうと思い、彼女の前に立って声をかけることにした。
「白井さん、おはよ」
そう言うと彼女は、読んでいた本を閉じ顔を上げて立ち上がった。
「おはようございます、八雲くん」
ニコッと微笑みかけられ、俺は「天使だ」と心の中で呟いた。今日も私服似合いすぎてドキッとしてしまった。
(俺、今日、心臓もつかな……)
海へは電車に1時間ほど乗って移動し、そこからバスに乗る。少し遠いので、夕方頃に戻ってくる予定だ。
休日だったが、電車は空いており、俺と白井さんは並んで空いている場所へ座った。
彼女は座るなり、持ってきているカバンからノートを取り出した。気になったので、チラリと横を向いてノートの表紙を見る。そこには『甘いスイーツノート』と書かれていた。
(えっ、何それ、凄い気になる……)
「それ、手書き?」
「はい、そうですよ。甘いスイーツの店で行ったところ、行きたいところを書いているんです。一緒に見ますか?」
広げたノートを両手に持った彼女はキラキラした目でこちらに体を向けた。
ち、近い……ここ最近の白井さん、俺との距離感間違ってる気がするんだけど……。
「見てもいいの?」
「もちろんです。八雲くんは、お……お友達ですし……?」
なぜか後ろにはてなマークがついており、俺は小さく笑い口を開いた。
「俺は友達だと思ってるよ、白井さんのこと」
「友達……。ふふっ、友達ですから見てもいいのです」
彼女は嬉しそうな表情をして、ノートを持って俺に密着するような距離まで近寄ってきた。
「こちらの店は今から行く海の近くにあります。ここでお昼にしたいのですが、どうですか?」
「えっ、あっ、いいんじゃない……?」
ノートも気になるが、それよりももっと気になることがある。それは横から見て驚く大きさと、隣から匂ういい香り、そして距離が近いことだ。そのため全く話に集中できない。
「甘いもの以外もありますよ。確かオムライス、ハンバーグがありました。私は、お昼ですけどスイーツを食べようかと思います」
そう言った後、彼女は小声でこういう時だけ特別ですと付け足した。
ノートを見せてもらったが、ノート1ページにぎっしりとその店で人気のスイーツのことが書かれている。
お昼にスイーツを食べることはあまりないが、ノートに書かれていることを読んでいると白井さんがいうように今日は特別だと思ってお昼にスイーツを食べてもいいかもしれないと思った。
「この店でのオススメはレモンケーキ。この季節になると販売され、夏の終わり頃までしか食べれないケーキです」
「へぇ~、俺も食べようかな……」
俺は限定という言葉に弱い。その時期にしか食べれないものがあると食べたいと思ってしまう。
「ぜひぜひ、八雲くんにもオススメします」
「うん。他のページも見ていいかな?」
「いいですよ。八雲くんは私の秘密知ってますからね」
秘密というのは多分、スイーツが好きで、スイーツには少しうるさいということだろう。スイーツが好きな人が書いたノートとなれば、ちと気になる。
ノートを彼女からもらい、ページをめくってみる。
⑩【カフェhitode】
・学校からは少し遠いが、電車で行ける
・店内は綺麗でオシャレ
・店の雰囲気がいい
~ショートケーキ~
・ふんわりとした生地
・苺が甘い
この後にもいろいろ書いていたが、読んでいるとお腹が空いてきて、そして甘いものが食べたくなってきた。
このカフェ『hitode』は⑩と書かれてあったが、ページをめくっていくと現時点では⑳まであった。
(凄い、甘いスイーツ愛が……)
「そう言えば、私達、まだ連絡先交換してませんでしたよね」
「あぁ、うん、してないね」
いつの間にか瑠奈が白井さんと連絡先を交換していたことを聞いたときにそう言えばと思ったが、まだ彼女とは連絡先を交換していない。
「連絡先、交換しません?」
「うん、いいよ」
「ふふっ、ありがとうございます!」
連絡先を交換すると一覧に「雪」と出てきた。いつも白井さんと呼んでいるため、そう言えば下の名前が雪だったなと思い、俺は無意識に彼女の名前をボソッと呟いた。
「雪……」
「はい、どうされました?」
「えっ?」
「? えっ、あっ、呼ばれたと思ったので返事をしたのですが」
「えっ、もしかして俺、声に出してた?」
そう尋ねると彼女はコクりと小さく頷いた。恥ずい……物凄く恥ずかしいことをしてしまった。
「お友達ですし、これからは雪でいいですよ」
「わ、わかった……俺のことも晴斗でいいよ」
「はい。では、晴斗くん、改めてよろしくお願いします」
彼女はこちらを向いて軽く頭を下げたのでつられて俺も頭を下げて「よろしくお願いします」と言った。
後になって思うが、なぜお見合いみたいな挨拶をしてるんだろう。
前を向いて目を閉じようとすると隣からじっーと見られている気がした。
「どうかした?」
「むっす~、別に何もないですよ。私だけ呼んで晴斗くんは、私のこと名前で呼んでくれないことを気にしてるとかそんなことはありません……」
「むっす~」と言っていて、何もないわけがないだろう。リスみたいに可愛い。頬をぷく~としていて。
ゆっくりと片手を伸ばし、彼女の頭を優しく撫でながら俺は名前を呼んだ。
「ゆ、雪……」
名前を呼ぶと彼女は、こちらを向いて小さく微笑んだ。
「! ほ、他の人がいる時は名字でもいい?」
「いいですよ。下の名前で呼ぶのは2人だけの時に……ですね」
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