第9話 小悪魔な後輩と夜の電話
『へぇ~海ですか。頑張ってくださいね、告白』
「なぜ告白。普通に見に行くだけだから」
白井さんと今週の土曜日に海へ行く約束をした日の夜。ゲームをしていると瑠奈から電話がかかってきたのでゲームを中断し、電話に出た。
『普通って、男女で出かけるんですからデートですよ、それ。ところで声だけだと寂しいんで顔見せてくださいよ』
「なぜ?」
『先輩の顔がみたいです。私、今、とっーても寂しい気持ちなんで』
「怖いものでも見たのか?」
『まぁ、そうです……ホラー番組が気になって見てたら最後、怖い展開になりまして……』
瑠奈が怖がりなのは知っている。偏見だが、怖いもの得意そうに見えるが、怖がりだ。
わかったと言って、ビデオ通話にすると遅れて瑠奈もビデオ通話にして、スマホに彼女が写った。
『先輩、こんばんは』
「こ、こんばんは……」
いや、何緊張してんだよって話だが、瑠奈のいつもと違う雰囲気にドキッとしてしまった。
オシャレな格好をしているわけでもないのにこうドキッとするのは多分、彼女がお風呂上がりだから。髪の毛が少し濡れていて、着ている服はおそらく部屋着だろう。
『ジロジロ見てどうかしましたか? まぁ、可愛い私に見とれてしまうのはわかりますが』
「自分で言うのかよ……まぁ、瑠奈は小動物っぽくて可愛いけど」
『!』
ストレートに可愛いと言うと瑠奈は固まり、動かない。可愛いということは言わない方が良かったのだろうか。
すぐに取り消そうと思い、口を開こうとするとそれより先に瑠奈が話し出した。
『よ、よくわかってるじゃないですか。今度、手作りクッキーあげます』
そう言った瑠奈の顔は赤いように見えた。お風呂上がりだからかもしれないが。
「それは楽しみ。この前、瑠奈からもらったクッキー美味しかったし」
『ありがとうございます。クッキー作りは得意なんで。と、こ、ろ、で、デートが失敗しないよう先輩にはいいことを教えてあげます』
「いや、いい」
『なぜです?』
彼女はなぜ俺がいいと断ったのかわかっている。けど、俺になぜかと聞いてきた。
「嫌な助言が来そうだから」
『そんな変なことは言いませんよ。とにかく楽しむことに集中する、これが私からのアドバイスです』
「うん、そのアドバイスなら受け取っておくよ」
画面越しにぷく~とリスのように膨らませていた瑠奈を見て、やっぱり小動物だなぁと思った。
「で、そろそろ寝たいんだけど、寝れそうか?」
画面に映る瑠奈はピンクのうさぎのぬいぐるみを抱きしめているので、まだ怖いのかなと思った。
『こ、怖くありませんよ……先輩と話してちょっと大丈夫になりましたし』
「ちょっとかよ。まぁ、寝れないなら怖くなくなるまで電話繋げておくから」
『……あ、ありがとうございます』
そこから日が変わる時間まで電話を続けたまま瑠奈と話し、そして次第に会話が少なくなっていった。
画面越しに映る瑠奈はうとうとし始めている。それを見ていると俺も眠くなってきた。
「眠そうなのが見てわかるんだが……。バイトで疲れてるだろうしそろそろ寝ないか?」
『そう、ですね……お電話ありがとうございます』
「いや、こちらこそ……アドバイスありがと。じゃあ、おやすみ」
『はい、おやすみなさい……』
もう半分寝てるじゃんと心の中で突っ込み、電話を切るボタンを押そうとしたその時、瑠奈が口を開いた。
『先輩……』
「ん?」
まだ何かあるのだろうかと思い、どうかしたのか聞くと彼女はいつもより柔らかい笑みで微笑んだ。
『私、先輩のこと……好きですよ』
「えっ、瑠奈……瑠奈さん?」
名前を呼んでも返事をしていないので彼女が寝ていることに気付いた。もしかしてさっきのは寝言だろうか。
このまま通話状態でいても彼女が起きそうな感じはしないので、電話を切ることにした。
き、聞き間違いかもしれないし、さっきのは聞かなかったことにしよう……気にしたら明日から瑠奈と普通に話せそうにないし
もし、本当だとしても彼女は先輩として好きだと言ってくれただけ。異性としての好きではないだろう。
***
翌日、電車から降り、駅前で亮のことを待っていると改札を抜けてきた白井さんが声をかけてきた。
「あっ、八雲くん、おはようございます」
「おはよ、白井さん」
朝に彼女と会うのは始めてだ。気付かなかっただけでもしかして毎日同じ電車に乗っていたりしたのだろうか。
「もしかして、さっきの電車乗ってた?」
「はい、3分ほど前の電車に」
「やっぱり。一緒の電車だったんだな」
「一緒……八雲くんも先ほどの電車に乗っていたのですか?」
「うん」
「知りませんでした。違う車両に乗っていたから気付かなかったのかもしれませんね」
そう言った彼女の表情はとても嬉しそうで、眠たかったが、天使の笑みを見て、目が覚めた。
「八雲くんは誰かと待ち合わせですか?」
「うん、亮……って言ってもわかんないか。高宮っていう友達と待ち合わせ」
亮のことを話しているとタイミングよく、本人が手を振りながらこちらへ来た。
「よっ、おは……あっ、俺、先に行くわ」
「ちょっと待て。誤解しているようだから言うけど、付き合ってないから2人にしなくていい」
「いやいや、隠すなよ」
「隠してないから。こちら、同じ委員会の白井雪さん」
知っていると思うが、一応紹介すると亮は白井さんに向かって軽く頭を下げた。
「晴斗の中学からの友達の高宮亮です。晴斗のことどうぞよろしくお願いします」
「おい。誤解解けてないのかこれ……」
俺と亮のやり取りはそこまで面白くはないが、聞いていた白井さんは笑っていた。
「八雲くんと高宮くんは仲がよろしいのですね」
「まぁ、中学からの仲だしな。白井さんは、いつも誰かと一緒に学校まで行ってるの?」
「いえ、いつも1人です」
「そうなんだ。良ければだけど一緒に行こうよ。なっ、晴斗」
「えっ、いや、普通に男子2人で女子1人は嫌だろ」
女子がもう1人いればいいが、男子2人と登校とか普通なら嫌だろう。逆の立場であれば俺なら嫌だ。気まずいし。
「まぁ、そうだけど……」
どうしようかと悩んでいたその時、後ろから「お~い」と聞こえてきた。そして次の瞬間、誰かに肩を掴まれた。
「晴、おっはよ~!」
今朝から明るい挨拶ありがとうございます。元気なのはいいが、背中に飛び付くのはやめてほしい。
後ろを振り返るとそこには未玖がいた。なんていうタイミングなんだ。
「雪ちゃん、おはよ。私もみんなと一緒に学校行ってもいい?」
「えっと、私は……」
まだ白井さんは俺たちと行くとは言っていないが、一緒に行く流れになっていてどうしていいかわからなくなっていた。
「俺たちはいいが、白井さんはどうする?」
俺がそう問いかけると彼女は、全員の顔を見てから口を開いた。
「皆さんが良いのであれば私も一緒に行きたいです」
「じゃ、決まりだね。雪ちゃん、一緒に行こっ」
「はいっ」
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