第6話 白の天使と密室空間

 映画が終わった後は、レストランでお昼を食べることになった。


 それぞれ食べたいものを注文し、テーブルに届くまでは映画の話となった。


「とても良かったですね、映画。犯人は予想通りでしたが、まさかあのようなことをするとは」

「野々宮さん、犯人わかったんですね。私は、友人かとばかり……八雲くんは、誰が犯人だと思っていましたか?」


 瑠奈と話していた白井さんが、急にパッと横を向いたので、驚いた。顔が近く、キスするんじゃないかという距離だ。


「す、すみません……」


 白井さんは、ゆっくりと俺から離れ、そして改めて先ほどと同じことを聞いてきたので俺は答えた。


「俺も友人だと思ってたよ。瑠奈はなんでわかったんだ?」

「犯人がわかりやすい行動をしていたからですよ。振り返ってみてもう一度考えてみましょうか」


 瑠奈にそう言われて俺と白井さんは、映画の話を思い出し、犯人の行動を挙げていったりしていると頼んでいたものが届いた。


 俺は、カルボナーラを頼み、白井さんと瑠奈はオムライスだ。


 女子2人は、記念にと言って写真を撮ってから食べ始めていた。


「そう言えば、瑠奈、昨夜に電話とか言ってたけど、白井さんと連絡先の交換してたのか?」


 電話は、相手の連絡先を知っていなければかけることはできない。いつ交換したのだろうか。


「初めて会った時にしましたよ。先輩は、白井先輩としてないんですか?」

「してないけど……」

「そうですか」

「なんだその顔は……」

「へ~おかしな顔してます? 可愛いお顔をしてると思うんですけど」

「はいはい、可愛い可愛い」


 適当に言うとテーブルの下で瑠奈に足を軽く蹴られるのだった。




***




 昼食を食べ終えると、瑠奈が雑貨屋へ行きたいとのことで、みんなで行くことに。


 映画を観終えたことだし、俺はいらない気がするんだが……。女子だけでいいのでは?


 1人、文具コーナーを見ていると瑠奈が、白井さんを連れてきた。


「先輩、見てください。このリボン、白井さんに似合っていると思いません?」


 彼女のいうリボンは白のリボンで「白の天使」と呼ばれている、いや、名前は関係がないが、白井さんにとても似合っていた。


「うん、似合ってる」

「ですって、先輩」

「白ですか……もう少し考えますね」


 どうやら白井さんは、リボンがほしいようでどの色を買おうか悩んでいるらしい。


 彼女がリボンコーナーに戻り、瑠奈も一緒に行くかと思ったが、彼女は、この場に残っていた。


「先輩、私は少しお手洗いに行ってきますので、白井先輩とイチャイチャしちゃって大丈夫ですよ」

「しないから。いってらっしゃい」

「ふふっ、いってきます」


 ニコニコ笑顔で立ち去っていく瑠奈の後ろ姿を見送ってから俺は1人で悩む白井さんのところへ向かった。


「白井さん」

「あっ、八雲くん。野々宮さんは?」

「お手洗いだってさ」

「そうですか」

「リボン、どれにするか決まった?」


 彼女の手には白と黒のリボンがあり、その2つで悩んでいるようだ。


「野々宮さんも八雲くんも白が似合っていると言ってくださいましたし、白にしようかと」


 黒のリボンは、元の場所に戻し、白のリボンを持って彼女はレジへ行くので、俺も近くまで行き、彼女のことを待った。


 すると、お手洗いから戻ってきた瑠奈が後ろからひょこっと現れた。


「先輩、ただいまです」

「おかえり」

「次、服を見に行ってもいいですか?」

「俺、必要か?」

「必要です。似合ってるか見てもらわないと」


 白井さんが買い終えてこちらへ来るとそれからは瑠奈がよく行くという服屋に行くことに。


 わかっていたが、女子が多い服屋さんに男子がいるのは何というか……居づらい。


 服を何着か選び、試着室へ入った白井さんと瑠奈。試着中の間、俺は試着室の外で待っていた。


(…………この時間、地獄すぎん?)


 周りが気になり、スマホを見ることを決めたその時、シャッと右の試着室のカーテンが開いた。


(右は確か白井さん……!)


 スマホから顔を上げるとそこにはショートスリーブシャツに吊りスカートを履いた白井さんがいた。


「ど、どうですか……?」

「…………」


 可愛らしい服装で恥ずかしがっているところを見て俺は言葉を失ってしまった。


(可愛すぎる……)


「や、やっぱり私にこういうのは……」

「いやいや、すっごい似合ってる。可愛いよ」

「! あっ、ありがとう……ございます……」


 白井さんは、最後になるにつれて声が小さくなっていた。

 

 可愛いの他に何か感想を述べようかなと思ったが、その瞬間、聞き覚えのある声が近くからした。


「わっ、可愛い。これどうかな?」

「可愛い可愛い」


 後ろをゆっくり振り向くとそこには未玖がいた。あちらはまだ気付いていないようだ。


 白井さんのことを再び見ると彼女は、背伸びをして俺の耳元で囁いてきた。


「お知り合いですか?」

「えっ、あっ、うん……気付かれたらどう説明しようかと……」


 まぁ、普通に白井さんと瑠奈の3人で遊びに……いやいや、2人だったらデートかな?とかなるけど、今のこの状況は、説明しにくい。


 気付かれてもいい、気付かれたくないといったり来たりしていると白井さんに腕を優しく掴まれ、試着室へ連れ込まれた。


「白井さん?」

「……すみません、困っていたようでしたので。お友達が店を出るまでここにいたらどうですか?」

「どうって……えっ……」


 取り敢えず、靴を履いたままなので、すぐに脱いで靴裏を合わせて端に置く。


「野々宮さんにはメールで言っておきます」


 白井さんは、スマホで瑠奈にどう伝えたのかわからないが、どうやらこの状況を伝えたようだ。


「少し狭いですね」

「まぁ、試着室だからね……」

「……暑くなってきました……八雲くん、この状況で自分の服を着替えるのはダメですよね?」

「ダメですね」

「では、後ろ向いていてください。商品を着たままというのはあれなので……」

「……わかった」


 彼女に背を向けて着替えられるよう俺は端に寄って、壁と向き合う。


「絶対絶対見ないでください」

「心配しなくても見ません」

「なぜ急に敬語ですか?」


 彼女の言葉を最後にシーンと静まり返り、後ろから音がした。


(これ、音を聞いていたらダメなやつじゃないか)


 耳を塞いでおこうと手を動かそうとすると後ろから「きゃっ」と声がし、背中に柔らかいものがふにっと当たった。


「ごっ、ごめんなさい……」

「だっ、大丈夫か?」

「大丈夫です。バランスを崩してしまっただけなので」

「そうか……」


 何とか耐え、そして見なかった。頑張ったぞ、自分。


 背中に柔らかい感触がなくなったので、白井さんが離れたことがわかった。だが、次の瞬間、後ろから急にぎゅっと抱きしめられた。


「白井さん、どうされました?」

「…………」


 この状況、前にもあったような……うん、あれだ。ドキドキシチュエーションでも何でもなかった。危うく変な妄想をするところだった。


「白井さん、あれなんだね?」

「……はい」


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