第5話 小悪魔な後輩からのお誘い

 白井さんと放課後、ケーキを食べに行った次の日の放課後。今日はバイトがあり、学校を終えてからは忙しかった。


 帰る頃には外は真っ暗。同じ時間に終わった瑠奈と一緒に駅まで帰ることになった。


 店を出ると瑠奈は、ニヤニヤしながら俺の方へ肩が触れ合うぐらいの距離まで近寄ってきた。


「先輩、白井さんとのデートはどうでしたか?」

「どうって……てか、デートじゃないし」


 彼女から白井さんとのことを聞かれて俺は思い出した。瑠奈に注意しておかなければならないことを。


「そう言えば、瑠奈、白井さんに変なこと教えたよな? 男女と出かける時は手を繋ぐとか」


 瑠奈はそんなこと言ってませんと言うかと思っていたが、満面の笑みで素直に答えた。


「教えましたね。白井先輩に手を繋いだら八雲先輩は喜ぶと言ったんです。手は繋げましたか?」

「繋いでない。というか、俺と白井さんは恋人同士じゃないからそういうサポートはしなくていい。後、白井さんに変なこと吹き込むな」

「そうですか、変なことは吹き込んだつもりはありませんが、すみません」


 彼女は反省しているのかペコリと軽く頭を下げて謝った。


 そしてジリジリと俺の方へ寄ってきて今度は肩に触れ合う程度ではなくピトッとくっついてきた。


「白井さんとは何かありました?」

「何かって何だよ……」

「そうですね、例えば、あ~んとか。言っておきますけど、私はそういうの吹き込んでないんで」

「…………」


 一瞬、あのあ~んも瑠奈が白井さんに吹き込んだことだと思ったがどうやら違うらしい。


 白井さんにケーキを食べさせてもらったと言うのは恥ずかしすぎる。ここは黙っておこう。


「お互いのこと話していただけだよ。特別なことは何もない」

「ふーん、そうですか。何か起きたのかと少し期待してましたが……」


 俺に早く何か言ってほしいのか、反応見たさにこれをやっているのかわからないが、瑠奈は離れることなくずっとくっついたままだ。


「瑠奈さん、近すぎません?」

「そうですか? 普通ですよ?」

「いや、普通じゃない」

「そうですか。そう言えば、先輩、明日、ご予定は?」

「予定? 特にないけど……」


 距離に関しての話は軽くスルーされ、予定があるかどうか聞かれた。俺の予定なんて知ってどうするのだろう。


「では、明日、私とショッピングモールに行きましょう。私、観たい映画があるんです」

「なぜ俺なんだ。友達いっぱいいるだろ」

「もう、私は、八雲先輩と観に行きたいと言っているんです。ダメ……ですか?」


 上目遣いはズルすぎるぞ。けど、これはチョロい俺が悪い。


 断れなかった俺は明日の休日、彼女とショッピングモールへ行くことにした。




***



 

 翌日。駅で待ち合わせとなり、先に着いた俺は瑠奈が来るのを待っていた。


 瑠奈とこうして休日に会うのはこれが初めてだ。学校では会ったら話す程度で、バイトではたまに一緒に帰るぐらいだ。彼女とはどこかに一緒に行くという話はしたことがない。


(にしても暑い……本当に5月だよなと思うほどに)


 うちわでもあればと思っていると赤リボンをつけた少女がこちらへ走ってきた。


「先輩、お待たせしました」

「お、おう……」


 制服以外見たことがなかったので、彼女の私服姿は新鮮だ。


 白のTシャツに黒のスカート。そしてオシャレな黒の帽子を被っていた。とても瑠奈に似合ったコーデだと思う。


 服装をじっーと見ていると瑠奈は、小さくクスッと笑い、小悪魔のような笑みを浮かべた。


「先輩、じろじろ見すぎです。見るなら白井先輩をじっーと見てあげてください」

「み、見て……ん? 白井先輩?」


 聞き間違いかもしれないと思い始めたその時、瑠奈の後ろから白井さんが歩いてきていることに気付いた。


 なぜ白井さんが?と瑠奈の方を向くと彼女は、口を開いた。


「昨夜、電話をしていて映画のことを話していたら白井先輩が映画に行ったことがないと言っていたので、誘ってみました。先輩、ダメでしたか?」

「……いや、ダメではないよ。白井さんが無理やり誘われたんじゃないかの方が心配なんだけど」


 俺がそう言うと白井さんは、首を横にブンブンと振っていた。


「無理やりではないので大丈夫です。あの、すみません、お二人の邪魔するような感じで」

「全然お邪魔じゃないですよ。ね、先輩?」

「うん、人数多い方が楽しいと思うし」

「ありがとうございます」


 白井さんがいるなら俺はいらないのではと瑠奈に言いたいが、言っても多分、帰らせてはくれないだろう。


「で、どうです? 白井先輩の私服。可愛くないですか?」


 瑠奈にそう聞かれて俺は白井さんの服装を見た。


 白のワンピースを着た白井さんは、瑠奈とはまた違う服装だ。


(いいんですかね、他の男子達よ。白の天使の私服を見てしまって)


「可愛いよ」

「かっ、可愛いですか……あっ、ありがとうございます……」


 ストレートに言ったせいか、白井さんは顔を真っ赤にしていた。


「八雲くんはカッコいいですね。よく見るのは制服ですので私服、新鮮です」

「あ、ありがとう……」


 服装に関して誰かに何かを言われたことはなかったので素直に嬉しい。


 彼女と目が合い、しばらくなぜか見つめ合っていると瑠奈が口を開いた。


「あの、先輩方、私のこと忘れてませんか?」


「「!!」」


 俺も白井さんも瑠奈に見られていることに気付き、慌てて目をそらす。


「さっ、早く電車に乗らないと映画が始まっちゃいますよ」

「そ、そうだな……」


 ずっと駅前にいるわけにはいかないので、電車に乗り、大型ショッピングモールへ移動する。


 見る映画は移動中、話し合いで決まった。瑠奈と白井さんが観たいという映画は同じで、それを見ることに。


「映画館、初めてです。八雲くん、ポップコーンが売ってます!」


 映画館へ到着してからの白井さんは、目がキラキラしておりテンションが高かった。チケットを購入した後は、売店へ移動した。


「買って食べながら見るんだ。何か買う?」


 ここには白井さんが好きな甘いものがたくさん売っている。


「買います。さ、先ほどから少しお腹がすいてまして……」


 彼女は俺にだけ聞こえるようにボソッと呟き、恥ずかしいのかほんのり頬が赤かった。


「じゃあ、一緒に買いにいこっか。俺は飲み物買いに行くから」

「はい、行きましょう」


「瑠奈は、何か食べる? 一緒に買ってくるけど」

「わっ、いいんですか? では、私が食べたいものをお願いします」

「じゃあ、激辛のものにしとく」

「先輩、酷いですね。私は、チュロスをお願いします」

「わかった。じゃあ、ここで待っててくれ」


 チュロスの代金を手渡され、受け取った俺と白井さんは、映画が始まる前に買いに行くことに。


 食べ物の購入を終え、入場開始時間となるとチケットに書かれたシアターへ向かい、俺たちは横並びに座った。


「先輩、私と白井先輩の真ん中に座ります?」

「座らん。女子に挟まれて座ったら映画が集中できない」

「そうですか。では、私は白井先輩の隣に座りますね」


 話し合った結果、右から俺、白井さん、瑠奈の順に座ることになり、俺はあることに気付く。


(あれ、女子2人と映画館って……どういう状況なんだ?)






      

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る