第4話 白の天使と放課後デート

 放課後。今日は白井さんとケーキを食べに行く約束をしている。一緒に帰る亮には用事があるからと言って、先に教室を出た。


 待ち合わせは昨日、スイーツを食べた公園。学校で集まることもできたが、白井さんとどこかに行くのを見られると変な噂が立つのでやめた。


 公園に着くと先に彼女は待っており、ベンチで本を読んでいた。


 待たせるわけにはいかないので早く来たつもりだったが、彼女の方が早かった。


「お待たせ、白井さん」


 後ろから声をかけるとビックリさせてしまうと思い、前に回り込み、名前を呼ぶと彼女は、本を閉じて顔を上げた。


 目が合うと彼女はふんわりとした笑みを浮かべ、ニコッと笑いかけてきた。


「八雲くん、お昼振りですね」

「そうだな」


 白井さんは本をカバンの中に入れるとゆっくりと立ち上がり、そして俺の目の前に手を差し出した。


 何の手だろうとじっーと見ていると彼女は首を少しかしげて、不思議そうにこちらを見ていた。


「手は繋がないのですか?」

「…………ん? なんで?」


 白井さん、どういう流れで手を繋ごうとしてます!? 唐突すぎて、彼女がなぜ手を繋ごうと言ったのかわからなさすぎる。


「野々宮さんに男性と一緒にどこか行くなら手を繋ぐのが基本と聞きまして」


(野々宮瑠奈さん!?)


 次会った時に叱っておこう。純粋な白井さんに変なことを教えるのはやめなさいと。


「白井さん、それ基本じゃないから。手を繋ぐのは恋人とか親しい仲だけで。友達同士ではあんまりやらないかな……」


 今後、俺以外の男子と出かける時にもやらないようにするために教えると白井さんの顔と耳は真っ赤になっていった。


「す、すみません! 私と八雲くんはまだ知り合って間もないですもんね……」

「いや、これは瑠奈が悪いよ。変なこと教えたから。あんまり気にしなくていいよ」

「すみません……」


 今からケーキを食べに行くというのに白井さんは、下を向いて自分の失敗に暗い顔になってしまった。


 早急に話を変えた方がいい気がして、俺は、ケーキの話をすることにした。


「白井さん、ケーキ食べに行くって言ってたけど、どこかオススメのケーキ屋さんとかあるの?」

「オススメと言いますか、今日は期間限定の桜ケーキというものが食べられる店に行こうと思ってます。この桜のケーキ、2種類あるのですが、1人で2つ頼むのは恥ずかしくて……」


 なるほど、俺が誘われたのはこれが理由だったのか。


 女子がケーキを2つも頼んだら店員さんや周りの人に変にみられたりしてないかと気になるから俺を誘ったのか。ケーキをいくつ食べようと周りはそこまで気にならないと思うが……。


「桜ケーキってどんな味だろう、気になるな。俺は場所がわからないから白井さん、案内頼める?」

「はいっ、頼まれました」


 ニコッと笑う彼女の笑顔に俺はドキッとし、口元が緩んだので慌てて顔をそむけた。




***




 白井さんに案内されたカフェは外装も内装もオシャレで、予想通り、女性客が多かった。多分、今後、俺1人で入ることはないだろう。


 中に入ると店員さんに2人座れるところに案内された、向かい合わせになって座った。


 今さら思ったが、こういうの周りから見ると俺と白井さんは付き合っているように見えるのだろうか。


「素敵なカフェですね」

「うん、そうだね」

「私はどれにするか決まりましたが、八雲くんはどうしますか?」

「早い……俺は……」


 メニュー表をめくっていき、ケーキとそしてセットの飲み物を見ていく。ケーキも飲み物も種類が多すぎる。これは悩む。


 シンプルなショートケーキ、チーズケーキも美味しそうだ。けど、白井さんが食べたいという期間限定の桜ケーキも食べたい。


 彼女を待たせ過ぎるのもあれなので、ささっと決めて店員さんを呼ぶことに。


「ご注文をどうぞ」

「八雲くん、先どうぞ」

「あっ、うん。桜ケーキで、紅茶を」

「はい」


 俺の注文は終わったので、ジェスチャーで手でどうぞと白井さんに言うと彼女はコクりと頷いた。


「私は、ケーキ3つセットで紅茶を」


(3つ!?)


 話から2つは頼むだろうなとは思っていたが、まさかのプラス1。本当に全て食べられるのだろうか。


「ケーキの種類は……」

「桜ケーキ、桜と苺のレアチーズケーキ、ショートケーキで」

「はい、かしこまりました」


 注文した後はケーキが来るまで話して待つことに。ケーキが食べられるということで白井さんは店に入ってからニコニコだ。


「そう言えば、野々宮さんとは同じバイトをしていると聞きましたが、付き合ってるとかそういうのではないのですか?」

「俺と瑠奈が……? ただのバイト仲間だよ」

「そうですか。仲が良さそうなのでお付き合いされているのかもしれないと……」

「前にも言ったとおり恋愛とは無縁だよ。女子の知り合いがいてもさ」


 クラスの人気者、そして幼馴染みである未玖もバイトの後輩で仲良くしている瑠奈も恋愛に発展する仲ではない。


 2人は可愛いし、美人だから俺よりもいい人と付き合うだろう。


「白川さんはどうなの? 告白されるってたまに噂で聞くけど……」

「私ですか? 私は、やっぱり好きになった人と付き合いたいです。お試しでもとたまに言われますが、私は、お断りしてます」

「そうなんだ」


 やはり「白の天使」と呼ばれる彼女と付き合いたいと気持ちが強い者はいるんだな。


 白井さんのことを知りたいと思い、何か聞こうとしたが、ケーキが運ばれてきた。


「お待たせしました。桜ケーキと紅茶のセットです」

「はい」  


 どちらが頼んだものかわからないと思うので、小さく片手を挙げると、店員さんは俺の目の前に置いてくれた。


 続いて白井さんが頼んだものも運ばれ、そしてテーブルに置かれた。


「とても美味しそうです」

「そうだね」


 一緒に手を合わせて、「いただきます」と言ってからケーキの一口目にいく。すると口の中には甘い香りが広がり、幸せな気持ちになった。


(んっ、うまっ! 桜ってどんな味かわからなかったが、これは美味しい)


 目の前にいる白井さんも同じく幸せそうな顔をしており、魔法のように1つのケーキがなくなっていく。


「八雲くん、是非、こちらの桜と苺のレアチーズケーキも食べてほしいです、美味しいので」

「へぇ、いいの?」

「はい、一口どうぞ」

「ありがとう」


 そう言って口元へ来たのはフォークに突き刺さった一口の桜と苺のレアチーズ。これはもしやあ~んされる状況なのではないだろうか。


 てっきり自分で食べるものだと思っていたため食べさせてもらうということは考えていなかった。


「食べないのですか?」


 どうしようかと考えていると白井さんは、心配そうに顔を覗き込んでくる。


(ごちゃごちゃ考えるよりここは食べさせてもらおう)


 口を開けて、差し出されたケーキをパクっと食べると先ほどとは少し違った桜の味がした。


「美味しい……」

「ふふっ、そうでしょう?」


(今日も眩しい天使スマイル……ありがとうございます)


 ケーキも甘い。そしてこの状況も甘いと思うのは俺だけだろうか。


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