第3話 小悪魔な後輩
「未玖!」
「任せて!」
ボールが回ってきて受け取った未玖は、ドリブルして見事シュートした。
周りから歓声が上がる中、休憩中で女子の試合を見ていた男子が何やらコソコソと話していた。
「見たか、望月さんのあれ」
「見た見た、投げるとき凄かったよな」
「まるでプリンのよう……」
後ろからそんな会話が聞こえてきて、俺はすぐに何の話をしているのかわかった。
確かに未玖がお持ちのものは大きいと……思う。たぶん……。
***
体育の授業を終え、喉が渇き、持ってきた水筒を、と思ったが教室に忘れてしまった。
「亮、水飲んでくるから先出てるわ」
「おう、わかった」
更衣室を出て、少し歩いたところにある水飲み場で水を飲むことに。
(はぁ~動き疲れた……水、生き返るなぁ)
中学は部活動をしていたが、今はどこの部にも所属していない。運動する機会が減り、体力が落ちた気がする。
踏んだら水が出るところから足を離すと後ろから誰かに肩を掴まれた。
「はっる~、お疲れ!」
「うぉ、ビックリした!」
後ろを振り返るとそこには制服姿の未玖がいた。体育終わりで暑いのか腕まくりをしている。
「ごめんごめん、ビックリさせて。教室まで一緒に帰らない?」
「うん、いいけど」
未玖と一緒にいたら変に噂されていけない気もするが、周りの視線気にして彼女と距離を取るのは何か違う気がする。
亮には先に更衣室を出ていると言っているので、未玖と教室へ帰ることにした。
「そう言えば、白井さんは、どうだった? やっぱり可愛かった?」
「んーまぁ、名前の通り天使だったな」
「やっぱり。何か話したの?」
「何か……」
内緒って言われたし、食べ物のことは話さない方がいいよな。
「大した話はしてないよ、初対面だし」
「そっか。私も話してみたいなぁ」
「……話したいなら話しかけたらいいんじゃないか?」
未玖なら誰とでも仲良くなれる。それに白井さん、親しい友達がいないって言ってたし、未玖と仲良くなれたら……いや、これはお節介か。
「うん、そうだね。今度見かけたら話しかけてみようかな」
セミロングの髪をまとめ、ポニテにした彼女をチラリと見て、何となく視線を下にやったが、すぐに目線をそらした。
(見なかったことにしよう……)
***
お昼休み。お弁当を忘れたため食堂へ食べに行くとメニューが書かれた看板をじーと見つめているショートカットの髪の女子を見つけた。
ハーフアップに赤いリボンといえば彼女しか知らない。
「凄い悩んでるな……」
「!」
後ろでボソッと呟くと彼女は肩をビクッとさせて、恐る恐る後ろを振り返った。
「ビックリさせないでくださいよ、先輩。心臓に悪いです」
「ごめん、驚かせるつもりはなかった」
ぷく~と頬を膨らます彼女の名前は
「そんな真面目に謝られても。先輩はいつもガチガチですね」
「ガチガチで悪かったな」
「ふふっ、別に悪くはないです。ところで、八雲先輩、食堂とは珍しいですね。いつもお弁当では?」
野々宮にいつもお弁当を作って持ってきていることを言った覚えはないが、まぁ、どこで知ったんだと聞いても答えてはくれないだろう。
「忘れたんだ」
「なるほど、私と一緒ですね。では、お昼ご一緒しても?」
「一緒に? まぁ、別にいいけど……」
「では決まりですね、私はまだ少し悩み中なので先に頼んでどこかの席で待っていてください」
「うん、わかった」
ここの食堂、そこまでメニューはたくさんないが、瑠奈は物凄く悩んでいた。
俺は唐揚げ定食に決めていたので先に頼み、空いている席に座った。
先に食べるのもあれなので、スマホでいじって待ち時間を潰そうと思っていると後ろから声をかけられた。
「八雲くん?」
名前を呼ばれ、後ろを振り返るとそこにはお弁当を持った白井さんがいた。
「白井さん、ここでお昼?」
「はい、学食ではないのですが、今日はここでお弁当を食べようかなと……」
「1人?」
「はい。いつも食べている方達は部活の集まりがあるそうで」
「そっか。良かったら一緒に食べる? 後で1人来るけど……」
一緒にどうかと誘うと彼女の表情は、パッと明るくなった。
「良いのですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます。では、お邪魔します」
俺が座っているところは前も空いていたが、彼女は迷うことなく隣に座った。そこまで詰めなくてもいいと思うのだが、白井さんとの距離が近すぎる。
「八雲くんは、いつも学食ですか?」
「ううん、いつもはお弁当だよ。今日は忘れちゃって」
「そうなのですね」
話しながら彼女はお弁当の蓋を開ける。チラリと見てみたが、とても美味しそうなお弁当だ。
彼女のお弁当を見ていると前からガタンと音がした。何の音かと顔を上げるとそこには瑠奈がいて、どうやらトレーを置いた音だったらしい。
「先輩、私じゃ物足りないんですね」
「意味がわからないんだが……」
「可愛らしい後輩と2人で食べれるというのに美人さんをお隣において……まぁ、いいです」
よくわからなかったが、瑠奈は椅子に座って日替わり定食を食べ始めた。そして、聞きたいことがあるのか口になくなってから俺に尋ねた。
「そちらの方は先輩のお友達ですか?」
「お友達というか同じ委員会で知り合い」
「初めまして、白井雪です」
ペコリと軽く頭を下げ、白井さんは自己紹介する。そして続いて瑠奈も自己紹介した。
「これまたご丁寧に。私は、野々宮瑠奈です。八雲先輩とは同じアルバイト先です。私、とってもお似合いだと思いますよ」
そう言ってニヤニヤし始める瑠奈だが、俺も白井さんも彼女の言うお似合いがわからない。何に対してお似合いと言っているんだろうか。
白井さんと互いに顔を見合せ、どういうことだろうかと考えるが答えはでなかった。
「白井先輩、美人って良く言われませんか?」
「私ですか? どうなんでしょう、可愛いとはよく言われますが」
「私は先輩のこと美人で可愛いと思いますよ。ね、八雲先輩」
「謎の圧……。俺も可愛いと思うぞ」
「ですって、先輩、頑張ればいけますよ」
コソッと瑠奈は白井さんに言うが、俺に丸聞こえだ。
「の、野々宮さん、私は別に八雲くんのことをそういう……」
白井さんは顔を真っ赤にして何か言っているが、だんだんと声が小さくなっていっている。
「可愛いですね、先輩」
「瑠奈、一旦、静かに食べようか」
「は~い。よくわかりませんが、静かに食べますね」
隣にいる白井さんに口パクでごめんねと謝ると彼女は、いえと口パクで返してくれた。
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