第2話 白の天使の秘密

「えっ、白井さん?」


 ポスッと胸に寄りかかってきた白井さんは、ピクリともせず動かないので心配になった。


 彼女の名前をもう一度呼ぶと白井さんは小さな声で何か言っていた。耳を澄ませてよく聞いてみると彼女の声が聞こえた。


「お腹……空きました……」

「ん? お腹空いたの?」

「はい……何か食べるものありますか?」

「食べるものか……」


 何かカバンに入っているかもしれないと思い、リュックのある場所に行きたいが、白井さんがくっついているため動けないことに気付いた。


「白井さん、動けないんだけど……」

「! す、すみません!」


 彼女は慌ててバッと俺から離れ、近くにあった本で顔を隠していた。顔は隠れても耳は隠れておらず真っ赤な耳が見えていた。


 動けるようになり、リュックに何か食べれるものはないか探す。だが、食べられるものはなかった。


「ごめん、ない」

「そ、そうですか……」

「帰りにコンビニにでも寄って買うしかないな」


 この時間じゃ購買は閉まってるし、ここで何かを食べるのは無理だ。


「俺、もう本棚の整理終わったけど、白井さんは終わった?」

「私は後、上の段です」

 

 上の段、さっき頑張って背伸びして綺麗に並べようとしていたところか。


「高いしそこは俺がやっておくよ」

「ありがとうございます」


 台を使わず、白井さんがやっていた続きをして、本棚整理を全て終えると2人で図書室を出た。


 図書室を出た頃には夕方で、夕焼けが綺麗だった。門まで一緒に歩き、そこからは別れると思っていたが、白井さんは隣にいる。


「家、こっち?」

「はい、電車で来てますから。八雲くんは、何で登校されているのですか?」

「俺も電車だよ」

「そうですか。では、駅まで一緒にいいですか?」

「いい……けど……先にコンビニ寄るか?」


 ちょうどコンビニが近くにあったので指を差すと白井さんは吸い込まれるように店内に入っていった。


(お腹空いてたんだな……)


 駅まで一緒にと言ったので遅れて俺も店内に入ると白井さんは、デザートが並んでいるコーナーにいた。


 キラキラした目でどれにしようか悩む彼女を見ていると自分も甘いものが食べたくなってきたので、前から食べてみたかった焼きプリンを手に取る。


 店から出ると公園に移動してそこで買ったものを食べることにした。


 俺は焼きプリンで白井さんは小さなケーキだ。本棚の整理をした後の御褒美と思うととても美味しく感じる。


 それにしても今日初めて話した白井さんとまさか一緒にこうして帰りにスイーツを食べることになるとは……。想像していなかった展開だ。


 黙食で味わって食べていると先に食べ終わった白井さんは、言いたいことがあるのか「あっ」と声を漏らした。


「八雲くん、内緒にしてほしいことがあります」

「内緒?」

「はい。八雲くんには見られてしまいましたから隠す必要はないかと思いまして……」


 隠していること、白の天使に秘密があるというのだろうか。


「私、実は甘いものが好きで、甘いものにはうるさいんです。そしてよく食べます」

「…………はぁ」


 もっと重大な秘密かと勝手に想像していたが、そこまで重大な秘密ではなかった。


「他の人には内緒ですよ? 恥ずかしいので」


 彼女は人差し指を唇に当て、しっーとする。その仕草は、とても可愛らしかった。


「うん、内緒にする」

「ありがとうございます。後、今日は本棚整理のお手伝いありがとうございます、1人では大変でしたので助かりました」


 先生には感謝だな。こうして休んでいる人の代わりに仕事を頼まれてなかったら「白の天使」である白井さんとはこうして話せてなかった。


 食べ終えると再び駅に向かって歩くことに。一緒に本の整理をして、一緒にスイーツを食べたからか最初の時より彼女と話すことに緊張していない。


「白井さんってさ……彼氏いるの?」

「いませんよ、いたらこうして八雲くんと帰ってません」

「あっ……それもそうだな」


 どうやら亮が言っていた噂はデマらしい。まぁ、本当だとは思ってなかったけど。


「なるほど、八雲くんは、私と恋愛トークがしたいのですね。ですが、残念ながら私は恋愛というものに疎いので盛り上がれる話はできないかと」

「いや、別に話したいというわけでは……ただ白井さんに彼氏がいるって噂があったからどうなのかなって……」

「噂……初めて聞きました、そのような噂があるのですね」


 どうやら本人には噂の内容が耳には届いてなかったようだ。


 彼女にとって嘘の噂を広められるのは嫌なはずだろう。話さない方が良かったのかもしれない。


「今、言ったことが真実です。私に彼氏はいませんよ。八雲くんはいるのですか?」

「俺もいないよ。いたら白井さんと帰らないよ」


 彼女と同じ返答をすると面白かったのか白井さんは、クスッと笑った。


「真似しましたね。気になる人もいないのですか?」

「気になる……いや、特に。俺は、恋愛に疎いし、経験もゼロだよ」


 誰かを好きになったことも誰かに好きだと告白されたこともない。本当に恋愛には程遠い日々を過ごしている。


 それに比べて白井さんは違うだろう。何回か告白されたことがあると噂で聞いたことがある。


 駅に着くと彼女は立ち止まり、クルッと振り返り、俺のことを真っ直ぐと見た。綺麗な長い髪がサラリと揺れる。


「恋人がいないのであれば、私の頼み事を聞いてもらえないでしょうか?」

「頼み?」

「はい、頼みです。私と明日、一緒にケーキを食べに行って欲しいです」

「…………ケーキ?」


 ケーキを食べに行くなら俺ではなく友達を誘えばいい気もするけど……。


「俺でいいのか? 友達と行った方が楽しいと思うけど」

「友達……私、誘えるような友達いません。八雲くんは私とケーキを食べに行くのは嫌ですか?」


 うるっとした目でこちらを見てくる白井さん。こんな表情をされて断れるわけがない。


「嫌じゃないよ。俺で良ければ一緒に行こっか」

「はいっ、楽しみにしてます」


 拳をぎゅっと握り、ガッツポーズした彼女はとても可愛らしく、笑顔はまさに天使のようだった。






          

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