『白の天使』と呼ばれている清楚系美少女は、ある日をきっかけに俺との距離を少しずつ縮めてきました。

柊なのは

1章

第1話 白の天使

 このクラスにはすらっとしたスタイルに笑顔が素敵な女子がいる。彼女の名前は望月未玖もちづきみく。コミュニケーションが高く男女問わず誰とでも話せて、優しい性格だ。


 クラスでは中心人物的存在で男子からも女子からも好かれている。


「未玖、今度はこのグループ全員で遊びに行こうよ」

「おっ、賛成! 行こ行こ」


 未玖が一緒にいるメンバーはよくコロコロ変わる。今は男女含め6人でいることが多いらしい。


 彼女のことを見ていたが、俺、八雲晴斗やぐもはるとは、手元にある文庫本を再び開く。すると、誰かに名前を呼ばれたので本を閉じて顔を上げた。


「晴も来る?」

「どこに?」

 

 なぜグループメンバーでもない俺を誘うのか不思議だ。俺が行ったら気まずくなりそうな気がするんだが。


「カラオケ。歌おうよ」

「いや、いい」

「え~、こっち見てるから行きたいのかと思ってたよ」

「カラオケはあんまり好きじゃない」


 見ていたことがバレていたとは。誘ってきた理由は見られていることに気付いていたからだったんだな。


「じゃ、また別の機会に遊ぼっ」

「おう」

 

 話終えると未玖はクルリと背を向けて、先ほど話していたグループの元へ戻っていった。


 読書を再開しようとしたが、周りにいる男子から視線を向けられていることに気付いた。これは多分羨ましいという視線。そしてなぜお前は未玖に話しかけられるんだという視線。


 この視線を気にしてもあまり意味はないので無視することを決意したその時、友人の高宮亮たかみやりょうが話しかけてきた。


「晴斗の幼馴染みは人気者だな」

「だな」


 そう、未玖とは幼馴染みだ。小さい頃から仲が良く、家族付き合いもある。幼稚園の頃は一緒にいることがよくあったが、中学2年生からそれぞれの友達ができ、別々に行動するようになった。


「晴斗は望月さんのことどう思ってるんだ?」

「未玖のこと? 人気者の幼馴染みかな」

「好きとかそういうのはないんだな……じゃあ、隣のクラスの白井さんは?」


(白井……)


「白の天使とか呼ばれてる白井雪しらいゆきだっけ?」

「おぉ、何事も興味なさそうな晴斗が白井さんのことを知ってるとは」

「学年1位の成績優秀者だからな」


 彼女は、頭もいいし、スポーツ万能だと聞いている。そして、未玖と並ぶほど美少女だ。

 

「白井さんといえば最近彼氏が出来たらしいよ」

「彼氏? まぁ、男子にも人気あるからいてもおかしくないけど」

「えっ、白井さん、彼氏できたの?」


 それは気のせいという可能性もあると言おうとした時、未玖がまたこちらにやって来た。


 彼女の後ろを見るが、未玖の友達はどこかに行ったようで教室にはいなくなっていた。


「噂だよ」

「噂か、けど、ほんとかもしれないね。白井さん落ち着いた感じがして美人で可愛いし。もしかして、晴はああいう清楚系女子がタイプ?」

「なぜ白井さんがタイプなのかという話になるんだ」

「いや、何となくそうかなって……」


 つまり適当と。


 亮と未玖の3人でしばらく白井さんの話をしていると教室に図書委員を担当している先生が入ってきた。


「八雲さん、まだいる?」 


 先生が俺の名前を呼ぶと教室にいたクラスメイトはこちらへ視線を向けた。何だろうと思いながら椅子から立ち上がり、口を開いた。


「八雲ですが……」


「あっ、良かった。八雲さん、図書委員の当番、明日しなくていいから今から本棚の整理整頓してくれる?」

「いいですけど……」


 確か水曜日は白井さんのクラスだったはず。何かあったのだろうか。


「ありがとう。1人お休みで白井さん1人じゃ大変だから」

「わかりました」

「よろしくね」


 なるほど、休みだから代わりに……。この後、特に予定もないし、手伝いに行こう。


「じゃあそういうことだからまた明日な」


 読んでいた本をリュックに入れ、背負うと未玖と亮が近づいてコソッと話しかけてきた。


「明日、聞かせろよ」

「うんうん、どれだけ可愛いかちゃんと見てきてね」

「はぁ……」


 2人と別れた後、教室を出て図書室へ向かった。廊下は誰もおらずシーンと静まり返っていた。


 先生から白井さんは先に図書室にいると聞いたので少し急いで歩く。


 図書室の前に着くと、一旦深呼吸してからドアをゆっくりと開けた。


「失礼します」


 小さな声でそう言い、中に入り、ゆっくりとドアを閉める。


 ここから見る限り、人がいない。いると聞いた白井さんはどこにいるのだろう。


 入り口から少し進み、歩いていくと奥の場所で1人座っている人がいた。


 後ろ姿では誰かわからないので、顔を確認するため、横から見ることに。すると、予想通り彼女は白井雪で、そしてなぜか片手に大きなシュークリームを持っていた。


 彼女と目がバッチリと合い、沈黙が流れる。お互い何を言えばいいのかわからないし、どういう状況なのか混乱している。


 図書室は飲食禁止だぞと注意することよりもなぜシュークリームを持っているのかが気になる。

 

 シュークリームはまだ一口も食べておらず袋を開けたばかりだ。今から食べようとしていたのだろう。


 しばらくして白井さんは、静かにシュークリームを食べ始め、魔法のようにすぐ手元から無くなった。口は詰め込みすぎてリスのようにパンパンだ。もしかしてこれで証拠隠滅したつもりなのかな。


 口の中にシュークリームがなくなると彼女は、体をこちらに向けて口を開いた。


「もしかして、あなたが八雲くんですか?」

「うん、八雲晴斗」

「委員会で見かけたことはありますが、話すのは初めてですね。白井雪です」


 彼女は座ったままペコリと頭を下げるので、つられて俺も頭を下げた。


「先ほど、シュークリーム見ましたか?」

「見まっ────」

「見てませんよね?」

「えっと……」


 見てないと言って欲しいのか白井さんは、物凄い圧をかけてきている。ここは嘘で見ていないと答えるのが正解なんだろう。


「み、見てないよ……(美味しそうに食べてたけど)」

「そうですか、それなら良かったです。さて、本棚の整理をしましょうか」

「うん、そうだね……」


 シュークリームは見なかったことにし、先生に頼まれた場所の本棚を整理する。


 高いところは台を使って置くことができるが、ふと白井さんの方を見ると彼女は背伸びして台を使わず綺麗に並べようとしていた。


 台を使ったらどうかと言いに行こうとし、彼女の後ろに立ったその瞬間、バランスを崩した白井さんが後ろに倒れてきた。


「大丈夫か?」

「だ、大丈夫です……助かりました」


 慌てて肩を掴み、白井さんは、何とか転ばずにすんだ。彼女の肩から手を離すと、白井さんは後ろを振り返り、そして顔を近づけてきた。


(キスでもされるんじゃないかと思うぐらいの近さ……)


 心臓がうるさいぐらいにドキドキしていると白井さんは俺の名前を呼んだ。


「八雲くん」

「は、はい……」

「私……」


 どんどん近くなっていく距離に俺は逃げることができず、固まっていると白井さんは俺の胸に寄りかかってきた。



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