時間を止めるタイムウォッチを手に入れた俺!だが思わぬ落とし穴が…

天川裕司

時間を止めるタイムウォッチを手に入れた俺!だが思わぬ落とし穴が…

タイトル:(仮)時間を止めるタイムウォッチを手に入れた俺!だが思わぬ落とし穴が…


▼登場人物

●土岐留雄(とき とめお):男性。17歳。受験生。落ちこぼれ。勉強や努力が大嫌い。将来に不安を抱える。時間を止めるタイムウォッチを手に入れる。

●背津奈 恵果(せつな けいか):女性。20代。留雄の「世界を自由にしたい」と言う欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●留雄の自宅:一般的な戸建て住宅のイメージで。

●公園:留雄の自宅から最寄りの公園。

●様々な場所:女子更衣室や街中、デパートや喫茶店、受験会場など、それぞれ全て一般的なイメージで。


▼アイテム

●スリーピィ・フィン:時を止める事が出来る時計。タイムウォッチのような物。異世界の特殊な電池で作動している為、電池が切れたらそれまで。2度と再使用する事は出来ない。


NAは土岐留雄でよろしくお願いいたします。



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4167字)


ト書き〈自宅〉


NA)

俺は土岐留雄(17歳)。

今年、受験生。


留雄)「ああ~くぞー!この問題わかんねぇ!てか今頃こんな簡単な問題で『わかんねぇ』とか言ってたら絶対受験通んねぇわ!ホント、ヤバ過ぎだ俺」


NA)

俺は落ちこぼれ。

志望大学があるにはあるのだが、全く勉強して来なかったお粗末な学校生活。

こんなんで合格したら、逆に世間様に申し訳ない気分にさえなる。


留雄)「ああ、やめたやめた!わっかんねぇよもう!」


留雄)「…てかこの先、俺いったいどうすりゃいいんだろ…。大学にもまともに入れず、かと言って専門学校へ行くのも考えてねーし。お先真っ暗だな…」


NA)

俺は最近、自分の将来に絶望を覚えるようになっていた。


留雄)「はぁ…。気分転換に散歩でもして来よ…」


ト書き〈公園〉


NA)

最寄りの公園。

最近いつもここへ来る。


留雄)「はぁ。どうしよ…。ホントこのままいけば俺、どっこも行く当てが無いんじゃないかな。将来はホームレスか…。一流校なんかとてもとても…」


留雄)「現代じゃなんやかや言ったって、やっぱり一流大卒の奴だけを採用する企業がほとんどだし。大学くらい出とかないと話にもなんねーってのに…」


NA)

正直言って、勉強が嫌い。

そもそも「努力」という言葉が嫌い。

つまりやる気が無い。

AO入試や自己推薦なんかも考えたが全部ダメ。

途中で挫折する。

将来に不安を覚えつつ、その為の努力が出来ない。


留雄)「ハハ…ほんっと、どうしようもねぇな俺」


NA)

何もしてないのに、まるで燃え尽き症候群。

俺のやる気は高校受験の時に尽きてしまったようだ。

そうやってずっとブツクサ言っていた時…


恵果)「こんにちは♪お隣、いいですか?」


NA)

いきなり声がした。

振り返るとそこには女の子がいた。


留雄)「え?あ…はい…」


恵果)「どうも♪」


NA)

その子は俺が座っているベンチの隣に腰掛けて来た。

見たところ俺と同じくらいの年齢か。


恵果)「さっきから溜息ばかりですねぇ。何か悩みでもあります?」


留雄)「え…?」


NA)

少し馴れ馴れしい感じ。

でも可愛いから許してしまう。

よく聞けば20代らしい。

彼女は受験生を対象に、悩みコンサルタントをしていた。


恵果)「よかったら、悩みを私に話してみませんか?良い解決法があるかも♪」


NA)

その子の名前は背津奈 恵果と言った。

不思議な感覚の持ち主だ。

初対面なのに、まるで10年来の知己のような感覚を漂わせて来る。

気付けば俺は、今の自分の悩みを全部ぶちまけていた。


恵果)「なるほど。生活に大きな不安を抱えながらも何にもやる気が出て来なくて、その不安が相乗効果をもたらすように大きくなってしまってる…それで将来への不安も更に大きくなって、どうしていいか分からなくなったと?」


留雄)「ハハ…ま、まぁそんな感じです」


恵果)「でもそう言う時期って誰にでもありますよ。ちょっと気分を入れ替えてみて、前向きになれる刺激のようなものが何かあればイイんですけどね」


留雄)「はぁ、どうもその刺激が足りないんですかねぇ。今までいろんな事を試しては来たんですけど、どれもこれもダメで…。少し疲れちゃったんです」


恵果)「分かりました。それでは、今のあなたにとって刺激を与えるアイテムをお渡ししましょう。きっとあなたのお悩み解決にも役立ってくれますわ」


NA)

そう言って恵果は、時計のような物を俺にくれた。


留雄)「な、何ですかコレ?」


恵果)「それは『スリーピィ・フィン』といって特殊な時計です。あなたはきっと今の周りの躍動感に付いて行けず、疲労感だけを心に宿している状態なんですよ。だから自分を周りに合せようとしてもそれがなかなか出来ない」


恵果)「その時計は、そんなあなたを心休まる空間にいざなってくれるでしょう。今の状態を顧みるには丁度良いアイテムです。無料で差し上げますよ」


NA)

そう言いながら恵果は、その時計の使い方と効果を教えてくれた。


留雄)「え?!そんな事が…。う、ウソでしょう?」


恵果)「いいえ、本当です。取り敢えず1度試してみて下さい」


NA)

なんとこの時計の効果は「時間を止める事が出来る」というもの。

電池を取り換えたばかりで、充電完了は明日。

明日からこの時計を使う事が出来る。


恵果)「但し、これだけは覚えておいて下さい。その時計の電池は特殊なモノで、言わば異世界の電池を使用しています。だからこの世の電池では作動しません。電池残量によくよく注意して下さい。取り換え用の電池は無いので」


留雄)「異世界の電池…?」


NA)

「そんな事ある筈が無い」

電池が無くなれば、そこらの電池をかっぱらって来て普通に使える。

俺は恵果が言った事を軽く受け止めていた。


ト書き〈翌日、自宅〉


留雄)「ふぁーあ…」


NA)

そして翌日。

あれから俺は恵果に貰った時計を枕元に置いていた。


留雄)「あ、この時計…。そうか、今日から使えるんだよな」


NA)

「時間を止める」。

こんな、ビデオでしか見た事の無い能力を持つ時計。

俺はドキドキしながらも半信半疑で、取り敢えず試す事にした。


留雄)「えい!」


NA)

教えられた通り、時計の「止める」のボタンを押してみた。


ト書き〈階下〉


NA)

俺はそろりと階下へ降りる。

すると…


留雄)「えぇ?ま…マジかよ…」


NA)

キッチンには、フライパンを持ったまま、突っ立ってる母親がいる。

静止画像のように全く動かなかった。


留雄)「と…止まってる…」


NA)

周りの空気もしぃんとしている。


ト書き〈街中〉


留雄)「よ…よし、止まれ!」


NA)

それから俺はすぐ街中に出た。

そして同じように時計の能力を試してみた。


留雄)「と…止まってる…。は…はは…止まっちゃってるよオイ!」


NA)

通りを歩く人、交差点を渡ろうとする人、車道を走る車。

電車、店内の人達、空を飛ぶ鳥…。

全てが全て、完全に止まっていた。


ト書き〈学校の女子更衣室〉


留雄)「うぇっへっへへ💛最高だよこれ」


NA)

俺はそれから学校へ行き、そこでも時計の能力を満喫した。

女子更衣室、女子トイレ、いろんな所へ時間を止めて侵入。

片思いの女子に何度も抱き着きながら、思いを遂げる事すら出来た。


ト書き〈あらゆる場所で止まった時間を満喫〉


留雄)「すげぇ!この時計ホントすげぇ!」


NA)

それからまた街中へ行き、時計の能力を更に実感。

電車の中、バスの中、公衆トイレ。

喫茶店やデパート等の公然の場所。

どんな場所でも、俺は自由に「止まった時間」の中を動ける。

街を行くいろんな女性に抱き着いたりした。


留雄)「時間が止まってるから何したって自由だ!」


NA)

男の欲望を全て叶えてくれる!

食い物も自由!

店にある物を何でも食べられる。

かっぱらうのも自由!

ずっと時間を止めても衣食住には困らない!


留雄)「サイコーだぁ!もうずっと時間止めてやろうか!」


NA)

文字通り、俺は今までに体感した事の無い至福を手に入れた。

でも…


留雄)「うーん。でもやっぱ、ちょっと孤独なんだよな…」


NA)

全てが静寂に包まれた世界。

確かに自由は満喫できるが、「ずっと1人」というのはかなりの孤独。

俺はそれからバランスよく時計を使っていった。


ト書き〈受験〉


留雄)「ホントあの子、最高のアイテムをくれたよ!」


NA)

信じられない事が矢継ぎ早に起き、俺の常識や理性は完全にマヒしていた。

「時間を止められる」→これが普通に出来る俺の能力。

こんな感じになっていた。

そして俺は受験の日を迎える。

志望校をD大から、日本一の難関大・T大に変えた。

国立トップの大学だ。


留雄)「よっしゃ♪カンニングカンニング♪」


NA)

試験会場で俺は、他の学生の解答を見まくった。

カンニングした解答が間違ってれば仕方が無い。

どうせダメ元。

先の事は気にせず、頭が良さそうな学生の解答を一気に書き写した。

そして…


ト書き〈数日後〉


留雄)「よっしゃあ!合格!」


NA)

俺は見事に合格した。


留雄)「うぇへへ!この時計のお陰で俺の人生、180度変わっちまったぜぇ!」


NA)

俺はまさに至福の絶頂だ。


ト書き〈電池が切れる〉

NA)

そんな或る日。

俺はいつものように、止めた時間をまた動かそうとした。

でも周りが動き出さない。


留雄)「あれ?っかしいな…。動き出さないぞ…」


留雄)「もしかして、電池切れ…?」


NA)

俺は早速、最寄りの電気屋へ行った。

そして棚にあった電池を取り、時計の電池と交換した。

どうも単四電池1個を使っていたらしい。

だが…


留雄)「お…おい、動き出さないじゃないか!」


NA)

全く同じ単四電池。

でも新品の物に取り換えても、時計は作動しなかった。

この時、恵果が言ってた事を思い出した。


留雄)「異世界の電池…この世で使える電池じゃない…。まさか、あいつがあの時言ってた事って…本当だったのか…?この世の電池じゃ通用しない…」


留雄)「しかも、罷り間違ってこの世の電池が対応したとしても、世の中の動きが全て止まってるんじゃ、電池そのものが機能しない…。つまり止まった世界の中じゃ、今まで日常にあったものが、全て使えないって事なのか…」


NA)

俺は恐ろしくなった。

周りはずっと静寂のまま。

確かに衣食住には困らないかも知れない。

でも静止画像の空間にずっといると言う、この孤独感はハンパじゃない!


留雄)「う…動いてくれよ!おい!頼むよ!動けぇ!」


NA)

何度も「動く」のボタンを押すが動かない。

止まった世界の中で、俺は完全に取り残された。


留雄)「い…嫌だ…!嫌だぁ!助けてくれぇぇえ!」


ト書き〈遠くから留雄を眺めながら〉


恵果)「やはり人間にとって分不相応の刺激は、却って暗い未来をもたらすようね。留雄は静寂かつ孤独の空間に完全に取り残された。だからあれほど注意してあげたのに。軽く見たあなたが悪いのよ。その時計は2度と動かない」


恵果)「私は留雄の『世界を自由にしたい』と言う欲望から生まれた生霊。留雄に夢を見せて心のスイッチを切り替えさせ、人生の土台を或る程度用意してあげようとした。でも留雄はその時計を欲望の為だけに費やしてしまった」


恵果)「欲望の虜になった人間というものは大事を見失ってしまう。あの時計は飽くまで人生設計の為の1つのツールだったのに、留雄は『欲望の時間』のみに溺れてしまった。もうこの先ずっと、現実に引き返す事は出来ない」


恵果)「自分の欲望に与えられた孤独の時間の中で、その欲望が自分にとってどんな正体を秘めていたモノか、その余生と引き換えに思い知るといいわ…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=1UYq_epH0lc&t=69s

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時間を止めるタイムウォッチを手に入れた俺!だが思わぬ落とし穴が… 天川裕司 @tenkawayuji

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