持たぬ者は失うものが無い~人の世では幸福に見えるか、不幸に見えるか…

天川裕司

持たぬ者は失うものが無い~人の世では幸福に見えるか、不幸に見えるか…

タイトル:(仮)持たぬ者は失うものが無い~人の世では幸福に見えるか、不幸に見えるか…


1行要約:

富豪から極貧へ落ちた者のエピソード


▼登場人物

●日科利美太造(ひかりみたぞう):男性。50歳。ゴールド社の社長。一生懸命に努力して富豪になるが、富豪で居続けるには絶え間ない努力が必要だと知り、毎日に疲れ果ててしまう。その内に、本当の意味での救いが欲しくなる。

●日科利梨子(ひかりりこ):女性。45歳。美太造の妻。浮気性。セリフ無し。

●上木史郎(うわきしろう):男性。40歳。梨子の浮気相手。プレイボーイ。セリフ無し。

●探偵:男性。40代。美太造が雇った私立探偵。梨子の浮気調査をする。

●秘書:女性。30代。美太造の秘書。一般的な秘書のイメージで。

●部下:男女を含む不特定多数のイメージで。20代~30代。美太造の部下。本編では「部下A~D」と記載。

●運転手:男性。50代。美太造お付きのリムジン運転手。

●泥棒:男性。40代くらい。刃物持参で日科利宅へ強盗に入る。美太造の貯金をほぼ全額奪う。

●真琴(まこと)アカリ:女性。30代。美太造の「救われたい」と強く願う心から生まれた生霊。


▼場所設定

●ゴールド社:美太造の会社。どこも大理石張りの超一流企業のイメージで。

●バー「クッション」:かなり狭く小さなバー。やや寂れた感じ。アカリの行き付け。

●日科利の自宅:大理石張りの豪邸。

●アパート:美太造が引っ越す。古ぼけたイメージで。


▼アイテム

●強壮剤:アカリが美太造に渡す。解放への決意をさせる秘薬のようなもの(映像化する際には緑色の液体をイメージしています)。


NAは日科利美太造でよろしくお願いいたします。



オープニング~


エクソちゃん:ねぇデビルくん:、デビルくんってこれまでに貯蓄した財産とかってあるの?

デビルくん:なんだ?財産だって?うーんどうかな?今まで俺、貯金とかした事ねーしな。あ、そんな事訊いて、もしかして俺の財産奪おうって狙ってんじゃねーだろうなぁ~?

エクソちゃん:ンなワケ無いじゃない。この前アンタの貯金通帳見たけど、ホント見事に「0円」だったわよね。他にもしかしたらあるのかなぁって訊いたみただけよ♪

エクソちゃん:今回のお話はね、大富豪になった或る男のお話なんだけど、その人、大富豪ながらにとっても不幸な境遇の持ち主だったんだ。

デビルくん:ん?何でよ?大富豪なんだから不幸なワケねーじゃん。

エクソちゃん:普通はそう思うよね?でもその人の場合だからかも知れないけど、大富豪で居続けるって、結構苦労が絶えないものなのよ。

エクソちゃん:で、或る時、その連日の苦労から何とかして逃れたいって思うんだけどね、そこで〝ある事〟に気付くの。

エクソちゃん:それでその〝ある事〟を実践できないかなぁって思ってる時に不思議な人と出会っちゃうのよ。それで本当に実践しちゃうんだけど、その結末が本当に幸福だったのか不幸だったのか、よく判らない感じで落ち着いちゃうのよ。まぁじっくり見て、その答えはアナタが決めてみて…

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4270字)


ト書き〈ゴールド社の社長室〉


NA)

俺は日科利美太造(50歳)。

ここゴールド社の社長だ

世間は俺のようなヤツを「大富豪」と呼ぶ。

実際貯金は1兆を超えているし、将来の安泰は確実だ。

でも…


秘書)「社長、今日のスケジュールですが、朝8時にA商事の社長さんとの面会があり、9時からB社の専務との商談、10時からはC社の部長さんから接待がありまして、お昼の12時には30分、昼食の時間を設けております」


秘書)「13時からはD社の商品説明、15時からミワール社の新製品開発の説明と、E社にて今年新しく専務に就かれました新井様との顔合わせがあり…」


美太造)「ああ…もういい…!またその都度教えてくれたまえ…」


秘書)「ではそのように」


NA)

1日がまるで秒単位で決められる。

社長になったからとて全く楽ではない。

俺の会社には何千もの社員がいる。

彼らの生活を守る為にも、俺1人の独断で物事は決められない。

しかし心は荒野…。

俺は既に自分だけの安楽を求めるようになっていた…


ト書き〈翌日〉


部下A)「社長、今度の新しい企画です」

部下B)「社長、次のゴルフ場建設のプランですが…」

部下C)「社長、今度の投資を成功させる為には、ぜひD社からの協力を!」

部下D)「社長、更に利益を上げる為の将来ビジョンを考案しました」


美太造)「うむ、皆、よくやってくれた」


ト書き〈社長室で1人〉


美太造)「はぁ…。これでまたやる事がいろいろ増える…」


NA)

何か事業を始めると言う事は、その分だけ仕事が増えるという事。

利益が増えると言う事は、利益を守り続ける事に等しい。

利益を守る事への努力は結構辛い。

激しい競争に打ち勝ち続ける必要がある。


ト書き〈数日後〉


NA)

心身共に困憊していた或る日の事。


美太造)「まさか…」


NA)

妻の梨子が浮気している。

古い友人から、その噂を聞かされた。

しかし確証が無い。

証拠を得ようと探偵に依頼した。


探偵)「奥様は不倫をしています」


美太造)「やっぱりか!で、相手は?」


探偵)「上木史郎。この男、根っからのプレイボーイです」


NA)

梨子とはもう長年セックスレスだ。

俺ではもう彼女を満足させられない。

挙句、彼女は別の男に快楽を求める。

つまり飽きられたのだ。

これでは浮気を辞めさせた所で解決しない。

妻は又やるだろう。


美太造)「…くそぅ…」


ト書き〈リムジンに乗っての会社帰り、バー「クッション」に1人で寄る〉


美太造)「君、停めてくれ」


運転手)「は。どちらへ?」


美太造)「いや古い友人の所だ。1人で帰るからあとはいい」


NA)

その日の仕事を終えた俺は、飲み屋街を歩いた。

その時、一際目を惹くバーを見付けた。


美太造)「なかなか良い佇まいだな」


NA)

中はまるで70年代のムード。

1人でカウンターに座りウォッカを呑んでいた。

その時…


アカリ)「こんばんは。ご一緒してもいいですか?」


美太造)「ん?」


NA)

1人の女性が声を掛けて来た。

見るとかなりの美人。


美太造)「あ…どうぞ」


アカリ)「なんだかとてもお疲れのご様子ですね?」


NA)

何となく不思議なオーラを持つ女性。


美太造)「ハハ…まぁ仕事疲れでね…しょうがないですよ」


アカリ)「どうです?もし良かったらそのお悩み、ここで吐き出してみませんか?こんな私でも、愚痴の1つや2つお聞きする事くらい出来ますから」


NA)

俺は誰かに甘えたかった。

気が付くと、これまでの悩みを全て吐き出していた。


アカリ)「なるほど。社長になってからは連日の苦悩。次々しなきゃならない仕事が増えて、まるでノイローゼになっている。心と体が砕けそうなほど分刻みの生活に疲れ果て、気付けばストレスが膨大なほど高まっていた」


アカリ)「おまけに奥様が浮気して、プライベートも充実しない。心休まる空間がどこにも無い。いっそこのまま現実から逃れたい…そう言う訳ですね」


美太造)「ええ、まぁ…。…あの、ところでお宅は?」


アカリ)「これは申し遅れました。実は私こう言う者です」


NA)

女性は名刺を差し出した。


美太造)「…『解放の空間へのいざない』…真琴アカリ…?」


アカリ)「私はあなたが悩んでおられるような、束縛された心を完全に解放する為のお仕事をしています。ボランティアですからサービスは無料です」


アカリ)「いかがですか?お試しになられませんか?」


NA)

改めて自己紹介した後、俺は自分が解放される方法を取り敢えず訊いてみた。


アカリ)「あなたは多くの財産を持ち過ぎています。山のような財産が却って枷となり、日常生活で普通に人が楽しめる事も楽しめなくなっています」


アカリ)「1度その財産…いや枷を、全て捨て去る事です。会社を畳めば他の社員が困ると不安になっているようですが、社員は社員で勝手にやります。大丈夫です。それに奥様もあなたにとって枷になるなら捨て去る事です」


アカリ)「重過ぎる枷を失くす事、これが今のあなたにとって大切なのです」


NA)

そんな事これまでに何度も考えた。

インチキかと思い、俺は少し馬鹿にした。


アカリ)「美太造さん。甘く考えてはいけませんよ。ただ『捨てる』と言っても、それが出来る人はほとんどいません。そのまま重い枷を背負って歩き、やがてはノイローゼになり困憊し、場合によっては自殺もするのです」


アカリ)「どんな人でも多くの物を持てば、それを守ろうと保守の気持ちが働きます。その保守的精神が『盲目の病』に駆り立てるのです」


美太造)「盲目の病…」


アカリ)「ええ。本当はしたくない事でも『それが義務なんだ』と自分で自分を洗脳し、本来の自分を見えなくしてしまう、精神的な盲目の症状です」


NA)

そこまでを言って、アカリは俺に小さな瓶を差し出した。


アカリ)「これをどうぞ、差し上げます。自信が無い時にお飲み下さい」


美太造)「こ、これは…?」


アカリ)「強壮剤の1種ですよ。大丈夫、怪しい物は入っていません」


NA)

不思議な夜だった。

彼女とただ話しているだけで、まるで夢の世界を旅したようだ。

次第に心が落ち着いて、彼女の言葉に包容された…


ト書き〈翌日〉


NA)

俺は翌日から明かりに言われた事を実践した。

アカリに貰った強壮剤。

これを飲むと何か体が熱くなり、心底から解放へ向けて一途になった。


ト書き〈会社を閉鎖〉


NA)

先ず会社を閉鎖。

反発が来るかと思いきや、割とあっけなかった。

アカリが言うように、社員は各自で職先を見付けて出て行った。

妻とも離婚。

初めは愚図ったが、浮気の証拠を突き付けると急に黙った。

こちらが慰謝料を貰い、また貯金が増えた。


美太造)「貯金は唸る程ある。このまま仕事なんかしないでも、俺の将来は安泰だ。そうだよ、何で今まで気付かなかった…!これでいいんじゃないか!初めから自分の貯金だけを守って、他は全部切り捨てれば良かったんだ!」


NA)

そうした後、俺は信じられないほど身軽になった。

心から救われた気がした。

アカリが言う「財産」は貯金の事じゃない。

俺を縛り付けていた余計な物だ。

肩書、ステータス、スケジュール、漠然とした将来ビジョン…。

そんなもの、今の俺には価値が無かった。

俺は何かに対し「ザマァ見ろ」と呟いた…


ト書き〈数日後〉


NA)

俺は豪邸に住み、優雅な生活をしていった。

しかし或る日、泥棒が家に入った。


泥棒)「へっへ!おめぇ元社長でもよォ、金はたんまり貯め込んでるよなぁ」


美太造)「ひぃぃ!ど、どうか、命だけはお助けをォ!」


NA)

泥棒は、唯一俺に残された貯金のほとんどを奪って逃走。

その後すぐ警察に通報したが、金は戻って来ないかも知れない。

俺は絶望した。

固定資産に掛かる金すら払えなくなり、俺は豪邸を売却した。


ト書き〈アパート〉


NA)

俺は仕方なくボロアパートに引っ越した。

この先どうしようかと悩んでいた時。

俺の自宅に頻繁に電話が掛かっていた。


元部下A)「社長!もう1度だけ会社を興すお気持ちにはなられませんか?社長の商才さえあれば、すぐ大きなビルの1つや2つ建ちますよ!」


元部下B)「社長!お願いします!やっぱり他の会社では、理想の環境が得られないんです!お願いします!もう1度だけ、社長の下で働かせて下さい!」


元秘書)「社長、今なら手頃な物件を元手に、すぐ会社を興せます。いかがでしょう?もう1度だけ、ご一緒にビジョンを展開してみませんか?」


NA)

どれも「もう1度会社を興してくれ」との催促だ。

今の暮らしを思う上、一瞬その気にもなった。

でもそうすれば、また不毛の毎日に戻るだけ。

どうしても嫌だった。

この時、俺の心の中に又別の思いが芽生え始める…


美太造)「…ハハ…今度は俺の商才を無心か。ノイローゼに会社を奪われステータスを奪われ、妻を持てば妻を奪われ、妻に純心をもって接すればその純心すら奪われ、金を奪われ、挙句はたった1人の俺の空間まで奪おうとする…。こんなの…俺の人生そのものを奪おうとしてるのと同じじゃないか…」


美太造)「…命だ…。俺がまだ唯一持ってる財産はこの命…。命があるから、元社員(あいつら)は俺の体を無心して来る…。あの女、アカリが言ったように、財産を全て捨てきった瞬間の俺は本当に救われた気がした…。この世で生きる以上、財産は必ず付きまとう。俺にとって最後の財産はこの命・・」


NA)

又この頃、俺のアパート周辺ではあの泥棒が現れていた。

まだ俺に隠し財産でもあるんじゃないかと、きっと踏んでいる。

「次は殺される」そんな恐怖がまた俺の心を束縛していた。

命があるから恐怖する…命があるから失う物を守ろうする。


ト書き〈自殺〉


NA)

この世を去れば、きっと全ての束縛から解放される…。

命すら持たねば、俺はもう失うものが無い。

その日に俺は自殺した。

俺からもう奪える物は無い。

例え俺の遺品から何か奪っても、それはもう俺に関係無い物だ。

この世で奪う物は全てこの世での物。

この世を卒業した俺にとって、何の関係も無い物だ…


ト書き〈アパートを眺めながら〉


アカリ)「私は『この世の束縛から救われたい』と願う美太造の心から生まれた生霊。彼に『財産を捨てる事』を諭した上で、彼を束縛していた物を取り払い、彼にとってのしがらみを失くしてあげた」


アカリ)「でも結局彼は、この世から卒業する事を選んだ。生きる以上、この世の束縛からは逃れられないと知って。でも命は神様から与えられたもの。その上で、自殺というのは『人(じぶん)を殺す事』と言う罪に他ならない」


アカリ)「でも彼にとっては、奪われる物が無くなった今の空間が、何より貴重な財産になるのでしょう。幸か不幸かは彼にしか判らない。でも、もし天国に行って神様に出会えたら、命を粗末にした事だけはきちんと謝る事ね…」



エンディング~


エクソちゃん:う~ん、今回のテーマは結構重かったね。

デビルくん:「背負った財産」を守る為の苦悩か。なかなか現代人…と言うより人間の心理を突いてるなぁ。まぁ確かに沢山の財産を持ってれば、それを守ろうとする欲望は一段と大きくなるからな。

エクソちゃん:そうねー。何も持たなくなればもう失くす物が無い訳だから、保守的精神も、失う事への懸念も無くなるもんね。

デビルくん:でも無一文になればまた人間は「金持ちに成りたい!」って働き出すんだろ?泥棒や詐欺なんかの犯罪にも手を染めながらよ?

エクソちゃん:そうなんだよねぇ。結局、人間はその延々としたループを背負ってるのよね。でもそれって生きる為だkら、誰にとっても生活を望む以上はしょうがないのよね。

デビルくん:まぁな。でもそんなら美太造は、自分にとって快適な生活空間を、自分の手で造りゃよかったんじゃねーか。

エクソちゃん:それをしても泥棒に入られたり、他のトラブルがやって来て絶望したんでしょ?

デビルくん:結局はノイローゼだった…って事か。

エクソちゃん:まぁそんな状態になる前に、なんとか少しでも完璧な安住の地を見付けられればいいんだけどね…

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=sfLX00hQPe4&t=71s

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持たぬ者は失うものが無い~人の世では幸福に見えるか、不幸に見えるか… 天川裕司 @tenkawayuji

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