第27話 魔術構成式を描くもの
さて。どんな魔法を使ったらいいのかな。
二歩三歩と木陰から歩み離れて行く中で考える。
防御系と補助系を見たいってことだから……前に先生と試行錯誤しながら作った、ちょっと特殊だけど冒険では役立つだろうなって呪文、試してみようかな。
攻撃魔法を使うわけではないから、そんなに離れなくても大丈夫だよね。魔法の発動も見てもらった方がいいのだろうし。
久しぶりに魔法を使うことにちょっとドキドキしたので、瞳を閉じて意識を集中させながら両手を胸元に当てて深呼吸する。
いや、つい一週間ほど前に空間収納魔法で暴走しちゃったけど、あれは、ノーカウントってことで。
レオンの穏やかだけど見極めようとする強い眼差しがこちらを見つめているのがわかって、違う意味でもドキドキし始めてしまい深呼吸をさらに重ねる。
――ん、大丈夫。
両手の指先でスカートを軽く少しだけ持ち上げる。
すうっと息を吸ったのに合わせて両足のつま先に意識を向けるとしゅるんと魔力が集うのが分かる。
集った魔力を保持したまま踊るようなステップを軽く二度三度と踏んで魔法構成式を描くに合わせて呪文を唇にのせる。
【水の精霊よ・私のために・力を貸して】≪特殊水魔法構成式:発動≫
#-特殊水魔法構成式による魔法展開:連続発動
≪初級水術式:
≪中級水術式:
≪中級水術式:
≪中級水術式:
#-特殊水魔法構成式による魔法展開:終了
私の足元から連続して水の飛沫が続けて上がる。とはいっても水の飛沫のように見える魔力の流れで実際の水ではないから、濡れることはない。
そのまま続けて呪文を口にする。
普通、魔法を連続して詠唱することは難しいのだけれど、魔法構成式を使用して連続発動させた補助魔法のお陰で中級下位くらいまでなら多重詠唱が可能になっている。
◆多重詠唱◆
【水よ・盾となり・守れ】≪初級水術式◆威力増強:水盾:加速発動≫
【水よ・膜となり・弾け】≪初級水術式◆威力増強:水膜:加速発動≫
多分冒険者とかなら定番の物理攻撃から身を守る『盾』の魔法と、魔法攻撃から身を守る『膜』の魔法を詠唱してみた。
「この位の魔法なら使える感じだよ~」
一連の詠唱を終えて、木陰から見ているだろうレオンの方を振り向いた。と、いつの間にか距離を詰められていて、手を伸ばせば届く位置まできていてどきりとする。
うわぁ、レオンが近づいているの、まったく気付いてなかったよ。
ちょっと焦っている私をしり目に片手を顎に当てて、フムフムとかいいながら私の周りをくるくる回って魔法の出来具合をみているレオン。なぜかその足元にはバロンもいて、同じようにフンフンと匂い(?)を嗅ぎながら付いて回っている。
「ななななななっ?!」
言われたとおりに使える魔法を見せたのだけれど、何かまずかった、かな?
「『盾』と『膜』の具合を確認させてくれ」
「――ほぇ?!」
【風よ・撃となれ】≪初級風術式:風撃:発動≫
これこそいきなりで。私の脳天めがけてレオンがチョップしてきた。
慌てて両手で頭を守ろうとしたけれど、それより先に『盾』がレオンのチョップを防ぎ、チョップにまとわりついていた風の圧も『膜』が弾いてくれた。
「お、手加減したとはいえ俺の攻撃を物理も魔法も防ぐレベルで防御系魔法を展開できるなら合格だ。あとはフィル自身の体術を鍛錬すれば冒険者にもなれそうだな」
チョップを『盾』で防がれて痛みを感じているんじゃないかと思ったのだけれど、そんな様子はどこにもなかった。
なんだか嬉しそうに楽しそうに笑っている。
「さっき魔法構成式を足で描いていた?」
「うん、ちょっと珍しいかも」
「いや、かなり珍しいと思うな。外に描くときは指や杖が多いだろ」
そうかぁ。
私自身もちょっと珍しいかなと思っていたのだけれど、私は魔法構成式をステップで描くのが得意だったりする。あ、普通に指とかでも描けるんだけど、何故か踊るようにステップを踏んで描くのが好きなのだ。
「ちなみに最初に使った面白い魔法、俺に掛けることは出来るのか?」
「あ、うん。レオンの場合なら…」
ちょっと考えて。再びスカートの裾をちょこっと持ち上げて同じようなステップを踏み、彼の腕に指先で触れる。
【風の精霊よ・彼のために・力を貸して】≪特殊風魔法構成式◆威力増強:加速発動≫
#-特殊風魔法構成式による魔法展開:連続発動
≪初級風術式:
≪中級風術式:
≪中級風術式:
≪中級風術式:
#-特殊風魔法構成式による魔法展開:終了
魔法と共にふわんとした柔らかい風がレオンの足元から巻き起こる。
さっきは水魔法だったので水の飛沫のように見えたけれど、今度は彼が得意とする風魔法で詠唱したので小さな旋風が彼を包んだ。
「お、なるほどな」
レオンは両手を軽くグーパーとにぎにぎして、自分の身に与えられた補助魔法の具合をなんとなく感じているらしい。
と、そのまま右腕を草原でも背の高い草が茂っている方へと向けて左右に軽く振る動きに合わせて呪文を詠唱する。
◆多重詠唱◆
【風よ・刃となれ】≪初級風術式◆威力増強:風刃:加速発動≫
【風よ・刃となれ】≪初級風術式◆威力増強:風刃:加速発動≫
瞬間、レオンの手に予想以上の魔力が一瞬で集まって、それが音もなく風の刃を連続で生み出す。のは、いいんだけど……
――すぱぁぁぁん!
――すぱぁぁぁん!
実際はそんな擬音なんてしていないのだろうと思うけれど、そんな擬音が聞こえそうな勢いで一瞬にして草の高さが一気に半分程度になった。それも結構な奥行きまで横幅が数十メートルの幅で。
「お、これはいいな。負荷は軽減されるし、威力が上がっているし、詠唱と発動がほぼ同時になるし、連発も可能か」
魔法の効果を見て嬉しそうにはしゃいでいるさまが子供っぽくて、思わず笑ってしまったけれど、よく考えたらこの速度と威力は笑い事じゃない気が。
「よし。じゃあ今日はゴアメスに泊まって装備を整えて、一緒にエルフェンス村に向かおう」
どうやら私の魔法を見て連れて行っても大丈夫だと判断したようだ。
「ん、レオンのお眼鏡に適って良かったです」
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