第19話 なにが なにやら
【空間よ・開け】 ≪上級空術式:発動≫
レオンの時と似た感じだけれど、かなり小さい渦がすぅぅっと巻き起こりそうになる。
--えっ、もしかして私が空間魔法を扱える?!
そんなことを思った瞬間、魔力の小さい渦もどきのあちこちが綻びて歪んでぐにゃりとした奇妙な回転を起こし、辺りに向けて魔力が電撃のように走る。
走った魔力の電撃たちはバシッという鋭い音を立てながら、辺りの木々や地面に衝突して光を散らして消えていく。
「――!!」
慌てて手のひらを握りしめて魔力を切ろうとして、その方が暴走に繋がる恐れがあることに気付いた。反射的に握ろうとする手のひらと指に力を入れてこらえる。
代わりに抱えていた小枝を地面に投げ捨てるように落として、空いた手を渦の下に滑り込ませて渦の天地を両手で挟むことで魔力制御を安定させようと試みた。
何とか魔力の流れを収めて小さくしていこうとするけれど、初めてのことでうまく制御が出来ない。
「フィル?!」
背後から驚きを含んで鋭く届いた声に振り向くことなど出来ない。魔力がこれ以上乱れないように、少しでも収束するように意識を向けることで精一杯。それでも歪な渦をこれ以上大きくしないようには制御出来ているので、もう……少しっ。
【――結!】 ≪特殊黒魔法構成式:結:発動≫
#-特殊黒魔法構成式による連続魔法発動
≪中級黒術式:標的および媒体の確認:発動≫
≪上級黒術式:指定された魔力への強制介入:発動≫
≪上級黒術式:標的の魔力を遮断/魔力を媒体へ吸収:発動≫
#-特殊黒魔法構成式による連続魔法:終了
レオンの鋭い一声がして、いきなり辺りに散らばっていた私の魔力がぐんと彼の方向へ引き寄せられた。
手のひらの渦の魔力も、暴走しかけて電撃と化して乱れていた魔力も、レオンがいるだろう方へと一気に吸い寄せられていくのが感覚だけでわかる。
……ほんの瞬き二つ分? それで辺りは静寂に包まれて。
一瞬、何が起こったのかわからなかったけれど、自分の両手の間で歪な形をしていた魔力の渦はきれいに消失していた。
何が起きたのかわからなくて、何もなくなった両手の間にある空間を少し見つめた後、こわごわと両手を閉じるように近づける。魔力の圧も痛みもなく、震えてはいたけれど左右の手はすんなりと重なった。
ほんの数秒のことだったと思うけれど、とても長い時間に感じた。
かくん。と足の力が抜けて、しゃがみこんでしまう。慌てて両手をついて、倒れこみそうになる身体と意識を支える。
「大丈夫か?」
駆け寄ってきてくれたレオンの言葉に、すぐに言葉が返せない。
身体を支えている両腕がガクガクと震えてる。両足も、ううん、全身がガクガクしている。それでも頑張って顔を上げて、隣にしゃがんでこちらを見ているレオンを見ようとするが視線は合わない。
「だ……だい、じょう…ぶ」
自分が何をしでかしたのかはわかったけど、出来事の大きさに声が震えてる。
まだ震えが収まらない身体をレオンの大きくて暖かい手のひらが軽く優しく触っていく。怪我がないか確かめている仕草に、詰まっていた息をなんとか吐きだす。
「ばかやろう!いきなり空間魔法を使うだなんて何を考えているんだ!」
ひとまず無事だとわかったのだろう、今度は当然の怒声が頭上から振り降りた。
「っ……ごめん、なさい」
まだ自分の中が乱れていて、一言発するだけでも辛い。
震えのせいかうまく呼吸が出来なくて辛い。俯いたまま何とか呼吸を整えようとしているせいで、背中が大きく揺れて肩で息をしているのに身体がうまく呼吸してくれない感じ。
――そしてレオンの顔を見ることができない。
「……お前が魔法を使えることは知らなかったが、師匠は魔法についてきちんと教えてくれなかったのか?」
そう言った声音は一撃目の怒声より幾分優しくなっていた。それでも先生を咎めるような色味を帯びた言葉に慌てて首を左右に振る。
「違う。先生はちゃんと教えてくれた」
自分が間違ったことをしちゃったのに、先生のせいにするわけにはいかない。
言葉が出たことで少し身体の緊張がとれたのか、はふぅぅーっと大きな息を吐きだすことが出来た。まだしっかりとしたわけじゃないけど、言うべきことがある。
恐る恐るだけど隣に跪いているレオンを見る。
私の瞳と同じ高さに彼の琥珀色の瞳があった。じわりと彼の顔の輪郭がにじんで、慌てて言葉を告げる。
「ごめんなさい。もしかしたら出来るかもって思っちゃって、試してみたくて」
「自分で言ったんだろ、空間魔法は上級魔法だって」
「そうなんだけど、枝をしまえたらラクチンかなとか、レオンがとっても簡単にひょいってやってたから上級魔法だけど意外といけたりしないかなとか……」
う、ちゃんと言葉にしてみると恥ずかしくて声がどんどん小さくなっていく。小さい子供がまだ出来ないことなのに無理やり頑張って手を伸ばして、やっぱり失敗しちゃったみたいな。
声が小さくなるのに合わせて再び俯いてしまったところを突然頭の両側をがっしと掴まれた。そのままレオンの大きな両手で髪をわしゃわしゃにされた。あ、違う、正しくは頭を撫でられた?のかも?
驚きと恥ずかしさとごちゃっと混ざった120%の悶絶がまたしても私を襲ったけれど、今この場で叫び声というかうなり声というかを上げて悶絶するわけにはいかないっ。
「…………」
無言のままレオンは私の頭を撫で繰りまくった後、ぽんぽんと軽く叩いて。
いつものあの優しい語り口で告げてくれる。
「無事で良かった」
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