第18話 空間収納には憧れる

 朝から頑張って歩いてきたけれどさすがに隣町まではちょっと遠かったので、今日は早めに野営の支度をすることになった。


 レオンが決めた森の浅い場所にある空き地。今までもこの道を行く旅人たちが度々野営地として使っているのか、石に囲まれた焚き火の名残や下草のない場所がある。

 さっそく空間魔法でしまっていたらしい革袋や寝袋ぽいものやら、野営に必要らしきものがいくつも出てくる。


 旅慣れているらしくて手際がいいなぁ。

 そんな風にちょっと見とれながらも、私は何をしたら良いのかな?と、きょときょとしていると、


「俺は野営地を整えるから、フィルは焚き火用の枝を集めてくれ。くれぐれも森の奥にはいかないようにな。バロンも連れて行くんだぞ」


「はぁーい」


 そう注意も受けて、とりあえずレオンからそんなには離れない森の浅い場所で焚き火に使えそうな枝を見繕みつくろっては拾って歩く。

 足元には用心棒のごとくバロンがいてくれる。


 見た感じちょっとした獣がいる気配はなんとなくあるけれど、それがこちらに何かをしてくる感じはない。


「くぅ?」


「あ、大丈夫よ」


 彼も獣の気配は感じているのだろう。少し辺りを見回していたが、ガサガサと草が茂っているところに鼻をつっこんでするっと潜っていく。


「気を付けてね」


 バロンのことだからそう離れたりしないだろうし、大丈夫だろう。


 片腕に抱えた小枝がそれなりに集まってきた頃に、


「ぐふぁん」


 そこそこに大きな枝を咥えたバロンが草をかき分けて戻ってくる。どうやら彼なりに大物を探っていたらしい。


「うわぁ、大きい枝を拾ったねぇ、ありがとう」


 撫でて。と言いたげな瞳のバロンの頭をしっかりと撫でて褒めて、


「うーん、ちょっと私が持つには大きすぎるなぁ。先にレオンのところに届けてくれる?」


 バロンが咥えていた大枝は長くて半分地面を引きずっている状態なので、野営地の方を指さしながら伝える。

 私の足元で立ち止まったバロンは、ちょっと何か迷ったような仕草をしている。多分、私を一人にすることがよくないと思ったのだろう。


「大丈夫よ、この辺りにはいるから」


 もう一度頭を撫でてみるが、何度か足踏みして野営地と私を見比べて大枝を地面にぽとりと落とした。


「――?」


 はて、バロンはどうしたいのかな。

 バロンは犬だから勿論しゃべる事は出来ないのだけれど、こちらの言うことは理解しているみたいだし、彼なりの手法で考えていることを伝えてくれる。

 出会った時から、そんな感じの犬だった。


「いっそ文字でも書けたらいいのにねぇ」


 くすっと笑いながらバロンの表情を見て、どうしたいのかなともう一度考える。

 私のそんな視線を受けて、バロンは辺りをきょろきょろとして、小ぶりな枝をひょいと咥えて私に差し出す。差し出された枝を受け取って、ふむと考える。

 その間にまた小ぶりな枝を差し出してくる。少しずつ、私が持つ枝の山が大きくなる。


「……あ、そういうことね」


 多分、私が必要な分の枝を拾った後、彼は大きな枝を咥えて一緒に野営地に戻ろうと言っているのだ。


「そういう感じで合ってる?」


 念のためしゃがんでバロンの目を見つめ、言葉にして尋ねてみる。


「わふ!」


 ぶんぶんと音がしそうな勢いで尻尾が左右に振られて、そのまま頭突きのような抱き着きをされて、私の導き出した答えが合っていると教えてくれる。


「よし。じゃ、頑張って集めちゃお」


 辺りにはそれなりに枝は落ちているので、少しの時間で片腕で抱える量が集まった。さきほどバロンが落としておいた大枝を拾いに戻りながら、ふと思ったことがするりと言葉になる。


「あの大枝も空間魔法でしまって運べたら便利なのにね」


 あの時レオンは「使えるから使ってる」って簡単に言っていたけど、空間魔法はそう簡単に使える魔法じゃないことを私は知ってる。


 レオンは多分知らないけれど、父さんは爵位がある家柄の次男の生まれなので、私も幼い頃は本家の従兄弟たちと一緒に魔法や礼儀作法の勉強をしていた時期がある。その時に魔法の属性や分類などの基本基礎も教わった。

 まぁ逆にそれで知識があったからあれほど興奮してしまったんだけど。

 

 当時魔法を教えてくれた先生は上級魔法の下位辺りまでしか使えないと言っていたので、空間魔法は教科書の中でしか見たことがない魔法だったから。


 大枝の傍まで戻って、バロンと一緒にそれを見下ろす。

 がぶっと咥えようとするバロンに「ちょっと待って」と声を掛けて。空いている方の手を大枝の上にかざして開き、レオンが唱えていた呪文をそっと唱える。

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