第16話 旅立ちの準備はトランク一つで
「で。ネルフェリア竜王国に行く伝手はあるのか?同行者は?護衛の当ては?」
「まだ何も決めてないけど、隣町まではベッセルおじさんの荷馬車に乗せてもらえるかな。そこでネルフェリア竜王国に向かう商隊とかに会えて、雑用係とかで混ぜてもらえたらいいなとは思ってはいるんだけど。
同行者は………、バロンかな」
まぁバロンがこの村に残りたいようならベネッタの家にでも預かってもらう形になるかなぁ。ぼんやりと考えながら答える。
ん、こうやって考えてみると、行きたい気持ちは満タンであるけれど、計画がまだまだふわっとしてるなぁ。もう少しちゃんと考えないと危ない、かな。とはいえ、今まで訪れた中で一番大きな場所は領主が住む街までしかない。そこと王都はまた全然規模が違うだろうし、そういえば国境を超えるのはしたことがない。どうしたらいいのかしら?
レオンのたった一言の問いかけだけでいろんなことに気づいてしまって、ちょっと青ざめてしまって、おたおたと自分の両ほっぺたに手を当てて悩んでしまう。
「わかった。俺がネルフェリア竜王国の王都まで連れて行く」
「――ふえ?!」
「旅の準備は俺の方で進めておくから、フィルは出発日までに身の回りのものをトランク一つにまとめるように」
レオンが一息でそこまで言い切る。
「えっ?!そそそんな申し訳ないよ、レオンだってレオンの都合があるでしょ?!」
レオンの提案がいきなりすぎて声が裏返った。
「いや、どうせこの後はネルフェリア竜王国に戻る予定だったから、ここに泊まれないなら戻ることを早めても問題ない」
「え、いや、そうかもしれないけど、だからって……、そういうものなの?」
話がいきなり進んで、よくわからない。
「だいたい隣町まで行けたって運よくネルフェリア竜王国に向かう商隊に会えるとは限らないし、商隊に会えなければどうするつもりなんだ?
この国もネルフェリア竜王国も比較的安定している国勢だが、それでも辺境あたりでは夜盗や追剥なんかがいないとは限らない。そんな場所に若い女性がバロンだけをお供に旅して安全なわけないだろうが」
がっしと両肩をつかまれて、一息に畳みかけるような勢いで猛烈に言われてしまった。
「で、でも、だからって」
「もとよりネルフェリア竜王国の王都ギルドに顔を出す用事がある。
――気にするな」
最後のセリフに合わせて、頭をくしゃくしゃと撫でられた。
こんなときにお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁと思う。
上目遣いにレオンを見れば、本当に気にするなといった表情で瞳を細めて微笑んでいる。
--うっ。いつ見ても整った顔なんだよねぇ。
実は二年振りで雰囲気がさらに大人の男性って感じになったレオンに、ちょっとドキドキしちゃうんだよね。慌てて顔を俯かせて赤くなった顔を隠す。
「そうと決まれば、準備を始めるか」
カップに残ったハーブティを飲み干して立ち上がり、レオンはすたすたと食堂から出て行ってしまった。
「ええええええー……」
カランコロンと場違いにも感じる玄関のカウベルの音が放つ明るい音を聞きつつ、思わず言葉が漏れてしまった。
話のなり行きが急すぎて、脳みそがまったく追い付いてない。ぷしゅーっと頭から湯気が出てそうで、思わず両手で頭を撫でてみる。
うん、大丈夫。熱くなってはいない。と、さっきレオンに頭を撫でられたことでまとめていた髪が少し崩れていたので、襟足でまとめていたリボンを解く。
指の間をさらさらと亜麻色の髪が流れて両肩に広がる。テーブルに両肘をついて、重ねた両手の上に顎をのせて、はふーっと息を吐きだす。
「ほんと、いいのかなぁ。それで」
自分がネルフェリア竜王国に向かうと決めたのはいいけど、レオンを巻き込んじゃっていいのかな?
レオンは用事があるって言っていたけれど、そもそもここに長逗留するつもりで尋ねてきていたみたいだし。
そんなことを思いながら食器を手に立ち上がる。
うん、ひとまず朝食の後片付けをしちゃお。これからのことはまた考えよう。
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