第11話 君と笑顔で過ごしていくんだ
母さんを、続けて父さんを失った時、目が腐っちゃうんじゃないかってぐらいに泣いた。ずっと泣いてた。涙が出なくなっても、気持ちはずっと泣いてた。
でもずっとずっと泣いていても、母さんも父さんも戻ってきてくれるわけじゃなかった。
だから、ある時、バロンに告げた。
「もう君の前で泣かないよ。これからは君と笑顔で過ごしていくんだ」
泣きはらした真っ赤な目で言ったのに、バロンはぺろんと頬っぺたをなめてくれた。
わかった。と言ってくれたようでもあるし、それでも泣いていいんだよ。と言ってくれたようでもあった。
だからなのか、私が様々な思いから涙を零しそうになったり、ひどく泣きたくなった時にだけ、ふっと姿を消すことがある。そして、私が泣き止む頃には傍らに戻ってきている。
まるで「もう君の前で泣かないよ」と言った言葉が本当になるように。
確かに昨夜はレオンに話したことで記憶の糸が解かれて、懐かしい思い出がこみ上げて涙が零れた。昔に比べれば少しだけだと思うけれど、でもやっぱり、母さんと父さんのことを思い出せば、自然と涙は零れた。
多分だけど泣き疲れて眠っちゃってた。そして今朝の悶絶120%に繋がるんだけどね。
「はぁぁぁぁぁ…」
とりあえず、ここでこうしていてもどうしようもない。てか、せっかくの朝ごはんが冷めちゃう。
ぱちん!と両手で頬を軽く叩いて。うん、と頷いて厨房から歩き出す。
レオンの部屋は2階の角部屋。多分、バロンもそこにいるでしょう。
扉の前で深呼吸して、やっぱり気恥ずかしくて、ブラウスとスカートとエプロンの付いてもいない埃を払って、もうごまかせる何かが無くなったので意を決して扉をノックする。
「…………?」
はて、応答がない。
以前宿泊していた時は、ノックして応答がないようなことはなかったんだけどな。
「えっとぉ、入り、ます、よ?」
昨日の事もあったので気まずいけれど倒れていたりとか何かあったらまずいかなと思って、もう一度ノックしてからそっと小さめに扉を開いて、まずはそろっと片眼だけで中を覗いてみる。
ありゃま、いない。
――ちょっと、ううん、かなり緊張してた。ことに、自然に「ほふっ」と息を吐いたことで気付く。
緊張した分だけ拍子抜けして扉をがばっと開き、ついでだと思って半開きになっていたカーテンを開けて、窓も開けて室内の空気の入れ替えをしちゃえ。
襟足で緩く結んだだけの髪を、窓から流れてきた穏やかな風がなびかせる。その心地よい空気にう~んと伸びをして、深呼吸をして。
私の中のぐちゃっとした行き場のない恥ずかしさを、その心地よい風が洗い流してくれたように感じて、気持ちいい。
うん、部屋にいないなら裏庭で鍛錬しているか、畑仕事をしているかでしょう。でもってバロンも付いて行っている、と。
うん。一つ頷いて裏庭へと移動して、予想通りに畑仕事をしているレオンとバロン
を遠目に見つけて、声を掛けたのだった。
食堂からは朝ごはんのおいしい香りが漂ってきていた。
そちらに足を向かわせながら昨日のシチューもうまかったな。と思い出す。
野宿の間は携帯食をかじって水を飲むぐらいしか出来なかったので、温かい食事がおいしい味で出てくるなんて最高だなとしみじみ思う。
バロンもご飯が楽しみで待ちきれないようだ、ひょいと俺の前に出る。
半歩先を行くバロンのふさふさとした尻尾が大きく左右に楽し気に揺れて俺の足にぱさぱさ当たる。まだ水気が残っているせいか少し重みがある。
――ふむ。
自分の髪もタオルで乾かしはしたのだが、まだ水気が残っている。昨日のことも有るし、ちょっと試してみるか。
【水よ・舞い上がれ】 ≪初級水術式:発動:成功≫
歩きながら軽く魔力を流すことで、俺の髪とバロンの身体に残っていたシャワーの水気が小さな粒になってぽわぽわっと舞い上がり、大きく薄く広がってすうっと消えていく。
このぐらいの軽い魔法なら昨夜のように魔力が乱れることはなさそうだ。数秒の後には俺の髪もバロンの身体もさらりとした手触りになった。
とはいえ、まだ強い魔法を使った時に魔力が乱れないかどうかに自信がないし、注意して様子は見続けた方がよさそうだ。
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