レイドボスのソロ周回は廃人の所業
奇天烈な格好へと瞬く間に変貌した『
あわよくばを狙っていた一行ではあるが、逆撃を受けた程度で今さらたじろぐ程青い訳もなく、結果として先と変わらぬ淡々とした削り合いに終始しているのが現状であった。
無論、一行としても相手がこれしきの事で討ち取れるような、生易しい代物であるなど思っては居ない。あくまでも火線の集中は二の次三の次、大事なのは対象を『
それさえ出来るならソワラとラルヴァンの二枚看板の内、どちらかを欠いても良いほどには重要な事である。何せこの中に閉じ込めた時点で、一行の接続時間切れがそのまま向こうの敗北条件の一つとなるのだから、優先度合いは極めて高い。
尤も、あくまで条件の一つ。一行は知らぬ事ではあるが、堕ちたる神がこれしきの事で死ぬはずも無く。さりとて一行もベテランの冒険者、めったにある話では無い物の、逸話を紐解けばこの
故にこそこれで仕舞いとは一行の誰も思っては居らず、さらなる一手を差し込む隙を、虎視眈々と狙っているのだ。
そしてそれは、要るかも分からぬ闖入者も同じこと。
外で逐一周囲を見張り続けるディケイとオッペケぺーが、絶えず気を張っているのもむべなる物か。
とはいえ外の方には動きの一つも見えない以上は、中の方に一度視点を戻してみようか。
内部においては理想的な状態で戦況は推移していた。何せ火力二名盾役一名回復一名の事前想定通りの体制が取れているのだから、文句のつけようは今の所は余り無い。
欲を言えば火力の代わりに盾を一枚入れたい所ではあるが、術者であるオッペケぺーは外に居なければならない以上、これ以上の人選も無いのだから仕方はない所。
ご自慢の耐久力、不死性の双方大きく力を削がれた大蛇ではあるが、実の所その膂力破壊力に関しては、ほぼほぼ据え置きのままとなっている。
本来であれば『
内側からは壊れないとはいえ今にも張り裂けそうな勢いで、攻撃のたびに四方の壁が大きく撓んでいる。
それを防ぐのは同じように意匠化されたクリフ。肉体ステータスを低下させる『磁器人形化』は盾役にとり致命的と云えるまでに相性が悪いのだが、そこはそれ。
そも、クリフエッジの種族である
本来であれば一族に後生大事に守られ、後方で祭事に取り組むのが当然の立ち位置。
罷り間違っても最前線に出れるような適性では無い。
本来であれば、だ。
端から
それ故クリフが持ち前の反骨精神を発揮して、集落を出奔したのも致し方無い事。
尤も、その果てに呪文、歌唱を用いて他者への支援妨害をこなすことで、間接的に
であればこそ、彼はこの状況であっても普段と何ら変わらぬ様子で盾を繰るのだ。
本来の盾役に必要とされる要素を持たずとも、創意工夫を以てすれば十二分に立ち回れると、その身で体現し続けてきた故に。
これしきの事ハンデにも成らぬと一人、孤軍奮闘している。
それを尻目に火力の二人は何をしているのかと言えば、無論努力はしているのだが。それはそれとしてデバフの影響が大きすぎるのだ。
頭のイカれたソワラは兎角、順当に戦士としての能力を高めたラルヴァンには、『磁器人形化』による物理戦闘能力の低下が諸に刺さる。
更に言えばラルヴァンの場合、剣聖としての技は魂に起因するため問題なく使用出来るが、それはそれとして
とは言えそれが自然なこと。イカれた頭脳で悪影響を最小限に抑えているソワラや、元のステータスが低いために相対的にましなクリフの方が、前衛として考えれば問題外な部類に入る。
付け加えて言えばこれでも被害は軽い方なのだ。戦士系統の職能は悉く機能不全を起こしてはいても、剣聖故の技能はそんじょそこらのデバフでは、封じるどころか影響を受ける事すら無いのだから。
それ故に、この位階では今時珍しい程全うに、真っ向からの殴り合いが成立しているのである。
先手も後手も関係無く、殴っただけ殴り返す単純明快にも程があるド突き合いは、その体格や人数差も抜きにして互角のままに推移していた。
単純に巨大さを活かして一行を押し潰さんとする大蛇に対し、懸命に数の利を活かそうとする一行。
ダメージレースは一進一退と云ったところか。再生能力を剥がされた大蛇に対し、
もとより位階差と共に種族として、存在密度が大きく異なる。
一行にとっては遮二無二かかって弾き出せる火力も、彼の大蛇にとっては痛痒にも感じぬ程の些細なもの。
それは基礎的な能力に大きな差が有る事の他に、大蛇は
無論、
今もまた、大蛇がその長大な尾を振るいクリフへと容赦なく叩き付けようとしている。如何に一行の誇る最硬の楯たるクリフとて、斯様に強靭極まる大蛇の一撃を受けたなら、ひとたまりも無いだろう。
本来であれば、楯と鎧の上から柘榴の如くその身を爆ぜさせても可笑しくは無い、爆撃の如き一撃は、而して正面に堂々と構えられたクリフの楯とぶつかると同時、勢いよく四方へと爆ぜ散る。
飛び散ったのは一方的に大蛇の方、クリフの構える楯はいまだ健在、傷に塗れようとも小動もしない。
さりとていかなる術理に依る物か、散らばった欠片は独りでに宙へと浮き上がり一つ所に集まるや否や、再結合を果たし傷一つ無い様相へと戻ったかと思えば、焼き増しの様にクリフへと叩きつけられる。
痛みを感じる様子も無く、いっそ機械的な様相にさえ見えるほどのその有様に、嘗ての神威も慈愛も垣間見えることは無い。
自壊も躊躇わずに振るわれる連擊に、紙一重の間で楯を挟み込むクリフ。
縮尺が縮んだとは言え、装備に関しては基本的に保有する機能はそのままだ。自前のステータスよりも装備に頼りきりなクリフにとってはこの環境、動くことに関してはそれ程問題が有るわけではない。
無論、耐久性では大きく劣る為一撃でも受け損なえば、目も当てられない事態にはなるだろうが。
それを加味して、火力役の二人も手出しは控えめになってしまっている。
普段であれば呪文によって、もう少し強固に
元より
無論、トチった時の
その為、位階だけを見れば想像できない程に、戦場は単なる殴り合いの場になっていたのである。
大蛇の攻撃は実に単純、尾による薙ぎ払いと牙での噛み付きの二種類のみ。本来であればここに多彩な特殊能力も付くのだが、現在は呪文の影響で押さえ込まれている。
対するクリフもクリフで呪文は封じられ、装備頼りの近接戦闘に終始している状態だ。
そんな中火力役の二人は隙を見ながら、大蛇の攻撃を迎撃する形で応戦している。
飛び散る破片を潜り抜ける様にして正確に、鱗の隙間や間接の繋ぎ目へと剣先を突き立ててゆくソワラ。
負荷によって大蛇の身体が吹き飛ぶその寸前まで限界ギリギリの力で突き込み、『磁器人形化』によって制限された大蛇の動きを更に抑え込んでいる。
一方のラルヴァンはと言うとこちらは正着に、振るわれる尾や噛み付きに合わせる様にして、すれ違いざまの一撃を繰り返している。
上手いこと、クリフの動きを邪魔しないように間合いを慎重に測りながらも、クリフの危地にはすかさず大蛇の動きを遮るように剣を振るっていた。
何分火力は有り余るラルヴァンの事。やり過ぎないようにを気にする余り、普段の果断さは嘘のように鳴りを潜めている。
とは言え、散発的に降り掛かる破片の雨も相応のダメージリソース足り得るが故に、普段通りの動きが出来ないラルヴァンは今一歩の所で二の足を踏み。
柳に風と気にする様子も無いソワラはと言えば、こちらはこちらで鱗を剥ぎ剣を突き刺す事はや五回目と、攻撃と云うよりかは妨害と云った方が良い動きに終始している。
尤も、その動きは常と比べればぎこちないと云えるだろうが、それでも傍らのラルヴァンやクリフとは比にならぬ程に滑らかだ。
陶器の身体だと云うにも関わらず、流体のように滑らかに攻撃の間隙に身を潜らせ、身体の流れるがままに剣先を滑らせ大蛇の鱗を、皮を剥ぎ取っている。
単なる先読みには当てはまらない精度の動きに、大蛇の攻撃はソワラの残像を叩くばかり。無論本当に残像が出ている訳ではない、そう見える様な動きであると云うだけの事だ。
けっして、大蛇の動きが遅いわけでは無い。
それどころか、呪文の効果に依って弱体化されたとは思えないほどに、その身体は縦横無尽に暴れまわっている。
事実としてラルヴァンは攻めあぐね、クリフも防戦一方となっている以上、生半な怪物ではない事を、容易に察することができる。
元より
それが更に疵によって一部強化されているのだから、一般的に見ればたまったものではないだろう。
その驚異は、単純な物理攻撃に終始している事と、一行がフルメンバーには満たない事を加味しても、それでも『サウラン』有数の
一人はしゃいでいるソワラのせいで勘違いしそうになるが、一行から見ても圧倒的に格上の相手。
未だ勝敗の天秤は、『
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