最新式は、たいてい奇抜な見た目をしている
結局の所、盛り上がりに盛り上がった提案は、しかして、
「王都には、傀儡系統の呪文を封じる結界が合った筈だけど、引っ掛かったらどうするの?」
の、一言で切って流される事と為ったのであった。
どだい、仮想敵国の戦術の柱、対策が為されていない訳がなく、事実として何度も煮え湯を飲まされた以上、万全の態勢を組んでいるのは当然の事なのである。
そもそも、傀儡や洗脳といった代物を王都何ぞで使われたあかつきには、国が滅んでも可笑しくはないのだから、対策が為されているのは何処の国であっても当たり前の話なのではあるが。
「仕方ねえから、正攻法で行くか」
「しかし其れでは、時間が掛かってしまうのデハ?」
「バカ、時間の掛からねえ正攻法で行くんだよ」
「なら、始めからそっちで良かったんじゃないの?」
「お前え、折角分捕ってきたのに、自慢出来なきゃ詰まんねえだろうが」
「其なら、後でも良かったではないか」
一人増えても、変わらぬ漫才を繰り広げている我らが一行。
「それで、どうする気だ。半年など待っては居られんぞ」
実際には、我先にと部屋に入って中の物を確認して居るのだが、それは忘れてしまったらしい。
「解ってるっての、そっちじゃねえよ。大会に出場する為の正攻法だよ」
舌を鳴らしながら、顔の前で指を振るダンタース。子憎ったらしい顔をして、まるで殴って下さい、とでもいうかのように顎を突きだし見下している。
「フンッ!其れこそ、そのまま出向けば良いではないか」
頼まれたならば断るのも無礼と、まずは一発拳を放ってから言葉を続けるクリフ。
さりとて相手も予想していたか、最小限の動きで躱し話を引き継ぐ。
「其処で断られたら、困んだろ。だから、断れない理由と一緒に、出向けば良いのさ」
続くジャブも躱し、さらに続けるダンタース。
最前線からは引いたとて、今も騎士団を率いて東奔西走。訓練も実戦も欠かしてはいない事を、其の身体だけでなく動きでも一行へと見せつけてゆく。
「でも、どうやって?理由なんて何かあるの?」
無駄に五月蝿い頭目を伸して、次いで五月蝿い騎士団長もしばいてディケイが尋ねる。
「相変わらず良い拳だな、前衛に為りゃ良いのによ。んで、理由だな」
「取り敢えずは、二つ、用意できる」
流石に学習したか、話を進めたいのか、真面目に答えるダンタース。
背筋を伸ばし胸を張り朗々と語るその姿は、貴族の端くれとしては申し分のない姿であった。
「まず一つは、高位貴族に推薦させる事だ。これなら陛下とて簡単には拒否できない」
「そしてもう一つは、始めからマトモには出ない方法だ。優勝者との対戦だったり、余興の一環として存在を捩じ込む。そんで其の後は上手いことやって、話を持ち込むんだよ」
「どっちの方が。成功率が。高くなる。ダンタースの。主観で良い」
アルケの一声に腕を組み、暫し唸る
「参加するだけなら後者だな。お前らの知名度なら、ちょっと顔出すだけでも十分だし、況してや闘い振りが観れるとあっちゃ、中央の奴らが食いつかない訳がない」
「反面、会話まで行けるかは微妙だ。そっちで見たら、前者の方が真っ直ぐ最短だな。確実に陛下と話が出来る、人払いも含めてな」
確実さと不確実さ、要素が反比例するかの如く、どちらであっても難しい問題であった。
「どっちが良い、すちゃらか
そんな時だけキメ顔で、ダンタースは言ってのけるのであった。
尤も誰も其についてのツッコミはしないのだが。
「お前の推薦では駄目なのか」
「女房も俺も、お前らと近すぎる。自薦の類いに取られて棄却されるだろうよ」
「其なら。出来るだけ。関わりの。無い方が良い?」
「そう、デスガ。そうなると、選択肢が有りませんヨ」
「だからこその、提案だ。お前らに一つ、受けて貰いたい依頼があんのさ」
いい加減、ドヤ顔、キメ顔の類いに疲れたか、頬を揉みほぐしながらそう告げる。
おまけに立ち話に疲れたのか手近にあった筐体に、よっこらせ、等と年より臭く腰かける。
「中央の方のある伯爵家で、とある依頼を出していてな。お前ら向けの依頼だったから覚えてたんだが、まだ残ってる筈だ」
「其処から繋ぎを取って、武闘大会に参加させて貰う、という事ですカナ」
「中央。王統派?」
「応、つっても話の解る老翁さ。お前らが開拓派だからって、門前払いにゃされんだろう」
もとより無頼の身である一行に、貴族への伝手などダンタース以外に存在しなく。
況してや腹芸には各々自信が無いゆえに、組織に属さぬ事を選んだ身。
考えたところで、選択肢など無いも同然。
ダンタースに紹介状をしたためて貰っている間、今や領地の一切を切り盛りする奥方に、けんもほろろにやり込められて。
此度の件、一行の貸し三つと相成って、漸く書状を手にした時には、疲労困憊、這々の体で逃げ出す事と為ったのであった。
其処から各々、倉庫と格闘し遠征、戦闘用の装備一式を持ち出して、支度を整えるのでまた一日。
全ての支度を整えて、貨物用の
「ようやく着いた~。今度からはちゃんと、正規の飛籠で飛んでこようね。もう、身体がバキバキだよ」
すし詰めにされた貨物室から、漸く娑婆へと出てくることの叶った一行。
お忍び用の地味な旅装に身を包み、飛籠から出て身体を解すその仕草は、都会に出たてのお上りさんの如く。
ちらほらと、周囲からは失笑が聞こえてくる程。
「急ぎでなければな。もとより空きさえあれば、こんな苦労はしなくても済んだのだがな」
頭目の声も張りがなく、木乃伊のごとき風体の内、唯一伺える眼は曇りに曇って溝のような色合いを見せていた。
「うぐぐぐぅ、マッスルが、ワタシの筋肉達が悲鳴を上げていマス。早く、タンパク質を摂らなくてはなりまセン」
なんとも珍しく服を着込んだラルヴァンが、痩せこけて見える身体を労っている。
半裸という変態性が喪われたせいで、誰もが見惚れるような本来の美貌が露となっている。
「うげぇ、ラルヴァン隣に立つなよ。俺の美貌が煤けて見えちまう」
他方、此方はあっけらかんとしているソワラ。
平服を着崩し、矢鱈と装飾品で飾り立てたその姿は、紛う事なき破落戸であった。
「……軟弱者め……」
種族柄、狭い所の方が落ち着くオッペケペーがそう毒づく。
此方は服装を変えずとも、トレードマークの棺桶を背負っていなければ、他の
「……アルケは……?」
出てきたのは五人だけ、残り一人はと言えば。
「中で寝てるよ。久し振りだからね、もう少しそのままで居させて上げてよ」
「……抱き潰したな……」
「人聞き悪いな~、しょうがないでしょ三日もあったんだから。もう少しヤったらスッキリするよ」
未だに一人虜囚の身、娑婆の空気とは程遠いアルケであった。
流石の王都、旧都であるクレスタリアンもさるものながら、絢爛さではやはり此方が上をいく。
三重の城壁に囲われながらも、小高い丘の上に建てられているが故に、遠方からでもよく見える王城は、近代の設計思想をふんだんに取り入れ、十二分な物理、神秘に対する防御を備えながらも、無骨さとは無縁な豪華絢爛な造りとなっている。
白亜の尖塔群は華奢な印象を見る者に与えるが、その実高度に神秘と工法の粋を凝らして作り上げられた代物であり、尖塔の配置による術式的防御と尖塔上部からの物理的な大質量狙撃による打撃力とを両立した兵器であり。
城下町も軍事行動を念頭に置いた大通りを多方に向けて配置し、貴族街には部隊の整理に最適な広場が幾つも設えられ、また俯瞰するとよくわかる下町の町並みは、防衛の為に袋小路や狭路を多用した造りとなっており。
この王都は様々な分野で、様々な意味において、正に芸術作品といえる仕上がりとなっているのだ。
絢爛ながら質実剛健な王都の造りだが、そこを行く人々はといえば、実に賑やかで活気に充ち溢れている。
さもありなん、自らが庇護されているその実感を抱き、その強大な権威の元、王都の繁栄の一助となる。王都に住まう者、一人一人がそれを理解しているのだ。誇りを胸に、前を見て闊歩する人々の流れだけでも賑わいとなろうに、その人々自身がさらなる王都の繁栄栄達を望み暮らしているのだ。
その人いきれは、開放的な大通りですら覆いつくしてしまわんばかりに。
遷都から早二十年余り、かつての災厄を、手を携え乗り越えた人々によって再建された新天地にて。
サウラン五大国家の一つ、クナーリオ王国の王都は、今日もまた茹だるような熱気で包まれていた。
「こんな所だったかぁ?俺、早くも嫌になってきたんだけど」
弱音を吐いているソワラは人酔いか、早くも顔を火照らせ虚ろな目をしている。
普段は何処にでも居そうな兄ちゃんしている癖に、こんな時だけ真人種らしさを発揮して、一人弱っている。
他方、兄より余程それらしいディケイはと言えば、此方は逆に目を輝かせて、周囲を物珍しげに観察している。
尤も、見ているのは周囲の景色や物品ではなく周囲を囲んでいる人、そのものな辺り、此方もこちらである種のらしさはあるのだが。
防犯防衛の為、貴族街と市民街は関によって隔てられており、通用門は人の列でごった返していた。
そんな人混みの中を頭目を盾にして、ずんずんと進んでいく我らが一行。
人の流れを見極め、頭目に進行方向を指示しているのはアルケ。
柔和な、或いは甘美な微笑みだけで、相手を腰砕けにして自然に列を進めているのはディケイとソワラ。
最後方で割り込みに睨みを利かせるラルヴァン。普段の変態ではなく珍しい貴公子形態も相まって、商家の使用人からも距離を置かれている。
オッペケペーに関しては、この人混みで、はぐれず蹴られず着いてくるのが最大のお仕事だ。
「次の者、通用証書と身分証を提出せよ」
関の前で手早く衛兵らが列を捌いていく。熟練の技はさながら市場で魚を次々に流していく漁師の如く、ほとんど人波を見やる事も無く、次から次に列を流していっている。
それもそのはず、最新の魔法感知式の通用門によって、違法な物品や、事前の申請の無い武装類を、中を検めることなく検査し、対象物があった場合衛兵らの持つ端末上にその旨が表示される、という実に画期的な代物が採用されているのだ。
操作方法と緊急時の対処法さえ分かっていれば、これほど楽な仕事も無い。
惜しむらくは、設計者の美的センスが欠如していたことだろうか。
王都の町並みにはそぐわぬ、無骨な枠組みを組み合わせて捻り上げたら出来たようなその装置は、無関係な者がわざわざ見に来る程度には、不自然極まりない代物であった。
「次の者、通用証書と身分証を」
じりじりと太陽に焼かれながら待つこと暫し、ようやっと一行の順番と相成った。
「古いものだが、これでもいいかね。それとヴィーン女男爵からの紹介状だ」
その言葉に、衛兵の手が一瞬止まる。
王統派とは距離を置く、開拓派の急先鋒の名が出たからか、それとも。
衛兵の知る中でも最も古く特異な、『
持っている者などこの世に六人しかおらぬそれが、目の前にある事実に暫し衛兵の手と思考が止まる。
かつての英雄、いまだ名高き王国一の
表面上は何の問題も見せずに対応できただけで、衛兵は強者と言えるだろう。
「これでは駄目だったかね。生憎代わりの物は身に着けてはいないのだが」
「いえ、何の問題もありません。ようこそ御出で下さいました、我々は貴方方の来訪を心より歓迎いたします。伯爵邸への馬車などはご用命でしょうか?」
「いや、歩いて行こうかと思っていてね。無論、その方が邪魔に為るというのなら、その場合はお願いしたいのだが」
「……そうですね、問題は、ないでしょう。通りはなるだけ、端の方の通行をお願いいたします」
「相分かった。忠告感謝する、衛兵殿」
後ろで、あるいは対面で起こっているであろう困惑を置き去りに、そうして一行は久方ぶりになる王都の中枢へと足を踏み入れるのであった。
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