現在クエストを待機中です、冒険の書を記録しますか?
依頼は見事に締結、これにて目出度し!
などとはいかぬ。
そも、依頼の成立は前提条件を詰めてから。
実務には役に立たない頭目を尻目に、
「まず初めに、探索のための目星をつけたいのですガ。想定される使い魔の移動経路などはわかりますかナ」
「
「先の二択。依頼人さんは。どちらを推しますか」
「ふうむぅ。どっちも最悪だけど、たぶん後者の方じゃないかなぁ。
「御仁、狙われる心当たりは。ご自身を対象とされたものでも、使い魔のみを対象とされたものでも。……まあ、一応の質問ですが」
「そら、僕らを
「ありすぎる、と」
「だけど」
「できる奴なんてそうはいないさぁ」
「心当たり、あるんだよ、実は一つだけね」
——『
この世に邪教、悪習の類は数あれど。
世界を超えて悪行を働く
そんなものの専横を許容できるほどこれらの世界に猶予はない。
であればこそ。
悪意は、怯懦は、怨恨は。
その根底を無視してでも、世界に傷跡を残すべく。
無様なまとまりを見せることとなる。
「僕らの秘する目的の内の一つ、
「それが御仁を狙っている、と」
「たぶん、ね。少なくとも、僕が直接手を下さなければいけない規模であったのは確かだし。その時はターシャ。あ、家の子の名前ね、も一緒だったし」
「まあた、面倒くさい相手を引き当てたもんだなリーダー。提唱者共の相手をするんなら、本気で掛かんないと不味いぜ」
「まして、今回は
「……陽動……」
「黄昏領域に引き込んで。身動きが取れないうちに。外界で事を為す。確かに。ありえなくは。ありません」
「そもそも領域内に構えているならぁ、こっちに手出しは出来ない筈だしねぇ」
「それが出来るのならぁ、それこそ
「その可能性はないの?」
「ふむぅ?あぁ、なるほど、ねぇ。その可能性は無いよぉ、成り欠けクン」
「彼らが考えるほどぉ、この世界はヤワじゃない。キミもいつかはぁ、ちゃんと理解できるようになるよぉ」
「彼らの考えたい世界の行く末とぉ、亜神領海の知る世界の歴程は、全くの別物だからねぇ。協力なんて、ありえないよぉ」
「だから、さっきの二つはそれぞれ別の物として考えてくれていいよぉ」
「となると、話は最初に戻りますな」
「うん、そうだねぇ。少なくとも、前の彼らの根城はザルツヴェルグにあったからねぇ。そう大きくは移動していないと思うんだけどぉ」
「巧妙に隠れている、ということですネ」
「そうなんだよねぇ。縁が切られてるみたいでねぇ、『
「此度の一件、依頼を受けておいてなんですが、御仁のお力を借り受けねば、達成は困難であると考えまする。故、そのお力一時我らに預けては戴けませんかな」
「同道する、というのは難しいかなぁ。僕との縁が強固になると、君たちまで弾かれかねないしねぇ。でも、こっちでも調査は続けるし、それを君たちに伝えることや、君たちが見つけたものからさらに調査をすることくらいならできるよぉ」
「ありがたく、我等、調査の類は専門ではありませんので」
「じゃあ、依頼は受けてもらえると云うことでいいんだねぇ」
「期限はとりあえず、二百年くらいで良いのかなぁ」
「………我々、せいぜい百を超える程度の寿命ですので、年単位ならせめて一桁までにしていただけませんか?」
結局のところ、依頼達成までの期限は決まらず、決めきれず。
そも、
また、黄昏領域に囚われているのなら、領域の開放が依頼達成の前提条件になってしまうために。
そも、
‘‘無理をしない程度に、なるだけ早めに‘‘
だけで、決まってしまったのだった。
依頼人とは別れ、また女傑にも依頼の締結と共に、どんぶり勘定な依頼期限だけを伝えて。怒鳴り散らされる前にすたこらさっさと退散してきた我らが一行は、そこで重大な問題点に直面することとなる。
「金がない!!!」
「そらそうよ」
「何しに
「依頼を受けに行ったんだ!」
「………受けただけでは金にはならん……」
「その通りだとも!」
「じゃあ、別の依頼探しに行く?別にさっきの人も今すぐにでもって感じじゃなかったし、一つ二つはいいんじゃない」
「今戻ったら、今度こそスラシャに殺されるだろうが!」
「んじゃあ、別のとこで依頼受けますかい?それこそバレたら頭目の首が、姐御の部屋に飾られることになりやしょうね」
「恐ろしいこと言うなたわけぇ!ホントになったら、どう責任取ってくれるんだ!」
『それなら、責任取って派出所の広間に飾ってあげるよ。「バカここに眠る」で辞世の句は十分だろうさ』
一行が声のする方へと振り向くと、そこには純白の羽を光らせた鴉が一羽。
「げぇ!スラシャ!なんで、何処から聞いていた!」
『あんたらが、いつものバカ話をしているところからさね』
「兄さん、バカ話ってどこからかな」
「そらおめぇ、前金も受け取らずにさっさか逃げ帰った話からよ。」
「調子に乗って、大金溶かしたところからではありませんカ?」
『調子にのって、旨い酒を奢ってくれたところアタリさ』
「それは本の最初の方ではないか!」
阿呆な話は後にして、取り急ぎ場所を取り会談の準備を整える一行。
使い魔の鴉は、じっとその手際を採点していた。
『百点中六十点、細かい粗は目立つけど役者が良いから、採点は甘めにしておくよ』
「因みに姐御、内約は?俺は何十点分だい」
「Oh、ソワラサン。その台詞が既に減点評価な気がしマス」
「兄ちゃん、喋んなくてもバカっぽいんだから、無理しない方がいいのに」
「…………ハァ」
『今口を開いたオッペケペー迄含めて、全員減点ね』
「……!?」
「目上の前で。ため息。厳禁」
何時までたっても話が進まぬと、女傑が強引に場をしきる。
『それでアンタ達、当てはあるんだろうね。まさかとは思うけど、当てずっぽうで領域に潜り込もう、なんて腹じゃないでしょうね』
「ご安心をスラシャサン。きちんと当てはありマス」
「ザルツヴェルグは。此処から東の山向こう」
「うむ、此度の依頼は我らに示された
『そう、なら手伝えることはあるかしら?』
「今は無い。少なくとも。暫くの間は。こっちも。動けない」
『アンタ達のよく言う、
『わかったよ。それなら他のやつらにも話を通しておくから、アンタ達は何時も通りに好きに動きな』
「忝い、……その、ついでに良ければなのだが」
——リランダルへ向かう依頼などは無いだろうか——
「私の大楯がぁ、逃げて、逃げていくぅ、どおじでだぁ」
そんなに上手い話もなく、それどころか手間賃替わりに「近くの森で
「リーダーさん、クソ五月蝿いです。もういい加減諦めてください。大体、楯なら一杯持ってるじゃないですか」
「違うのだ、今回出るのはガントレル工房が六年前に出した傑作、『五六型重機動防楯正式採用型』の復刻モデル、『五六型重機動防楯正式採用型グラリードモデルver.2.7』なのだ。こいつは傑作と言われた前モデルの長所である移動補助機構の持続時間をそのままに、欠点であった稼働機構部の脆弱性と走行時の風圧による防御可能角度への制限の改善を図ったグラリードモデルの発展型。新開発された素材を使用することで防刃、防弾、耐衝撃性をそのままに重量を二割減としたものであり、またどうしても稼働機構の性質上防御が不安視されていた部分への追加装甲の敷設と、稼働機構の組成の一新により故障率すら大きく低減させた最新モデル。さらには
「どれほど素晴らしい物か、よくわかっただろう」
「今北産業」
「かたい、
はやい、
ちゅよい。おk?」
「Oh、OK!」
さんさんと、陽の照り付ける昼日中の街道沿いを、
御者席には我が物顔でオッぺケペーが座り、手綱を握っている。
馬車の中では、早くも見る価値も聞く価値もないようなバカ騒ぎが繰り広げられている。
ここだけを見ればいかにも普通な様相だろう。
牽いているいる馬の脚が浮き上がっていなければ。
『
神々の住まう天海を征く、神馬の写し身を現世へと呼び出す、祈祷呪文の内の一つ。
空を征くこと、馬車を牽くこと以外際立った逸話を持たないために、比較的行使しやすい呪文である。
ちなみに知能も人並みにあるため、オッぺケペーが手綱を持っているのは、格好を付けているだけであり実は何の意味もない。
「リーダーさん、発作は収まりましたか?」
「火ぃつけたのはお前だろうが」
「うむ、まあ落ち着いた方だ。転売ヤーの姿を見たら発狂する程度だがな」
「なら、平常デスネ。さっさと話しを進めまショウ。皆さん、
「こちらは、問題なく」
「僕たちも」
「いやぁ、実は俺、……問題ないよん」
「…………」
「では皆サン、問題ない様ですのデ、始めまショウ」
「キャーーーーーー!!!」
ラルヴァンが言葉を告げるや否や、静寂を切り裂く悲鳴が一つ。
オッペケぺーが手綱をしごくや否や、馬車を駆る天馬たちは素早く転身し、霧の立ち込める昏い森の中へと突っ込んでいく。
「ベタな入りだな、此度の
「なら俺たちベテランが、手取り足取り腰取り教えてあげなくちゃあね」
「ヘンタイ。男神だったら。どうするの」
「そんときゃそん時、『
「前方、
「決まっている。どちらも傷つけずに制圧だ」
「……七秒後、割り込むぞ……」
敵が何であれ、
「無力化呪文。用意完了」
庇護するものが誰であれ、
「んじゃまあ、お空で見ている神さんに」
彼らはその力を振るうことをためらわない。
「エエ、たった一つのさえたやり方、教育して差し上げまショウ」
考えるべきことはただ一つ、
「いつでもいいよ、リーダーさん」
取りこぼさずに、いることだけ。
「作戦、開始だぁ!」
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