現在クエストを待機中です、冒険の書を記録しますか?


 依頼は見事に締結、これにて目出度し!


 などとはいかぬ。


 そも、依頼の成立は前提条件を詰めてから。

 頭目リーダーが先んじて勝手に宣言してしまったが、その前に達成条件や報酬、迷子探しなら依頼の期限などを設定せねば始まらない。


 実務には役に立たない頭目を尻目に、筋肉達磨頭脳労働担当者が席を変わる。


「まず初めに、探索のための目星をつけたいのですガ。想定される使い魔の移動経路などはわかりますかナ」

転移トランスが使えるからねぇ、何処からどう行ったかは、全く判らないかなぁ」


「先の二択。依頼人さんは。どちらを推しますか」

「ふうむぅ。どっちも最悪だけど、たぶん後者の方じゃないかなぁ。11階梯超越者エルフが相手にいるのなら、僕が今、こうして無事でいるのもオカシイしねぇ」


「御仁、狙われる心当たりは。ご自身を対象とされたものでも、使い魔のみを対象とされたものでも。……まあ、一応の質問ですが」

「そら、僕らをコロしたい奴なんて、掃いて捨てるほど居るだろうからねぇ。家の子に関してもあれだけの霊素エーテルを蓄えているんだ、手中に収められれば大概のことは好きにできるさぁ」


「ありすぎる、と」


「だけど」

「できる奴なんてそうはいないさぁ」



「心当たり、あるんだよ、実は一つだけね」



 ——『樹精の棲家サステナヴィティ』って、知っているかい——



 この世に邪教、悪習の類は数あれど。

 悪行を働く教団カルトなど、そう多くはない。そんなものを許すほど、この世界の神々は寛容でも無能でもなく。

 そんなものの専横を許容できるほどに猶予はない。


 であればこそ。


 悪意は、怯懦は、怨恨は。


 、世界に傷跡を残すべく。

 無様なまとまりを見せることとなる。


 

「僕らの秘する目的の内の一つ、環境秩序提唱者エコロジスト共の殲滅。その対象にして、僕が一度は壊滅させたはずの思想だよぉ」

「それが御仁を狙っている、と」

「たぶん、ね。少なくとも、僕が直接手を下さなければいけない規模であったのは確かだし。その時はターシャ。あ、家の子の名前ね、も一緒だったし」


「まあた、面倒くさい相手を引き当てたもんだなリーダー。提唱者共の相手をするんなら、本気で掛かんないと不味いぜ」

「まして、今回は黄昏領域ロストベルトでの作戦になるんでしょう。一気に解放まで持っていかないといけないんだよね?」


「……陽動……」

「黄昏領域に引き込んで。身動きが取れないうちに。外界で事を為す。確かに。ありえなくは。ありません」

「そもそも領域内に構えているならぁ、こっちに手出しは出来ない筈だしねぇ」


が出来るのならぁ、それこそ亜神領海エルフが関わっている、くらいの大事だよぉ」


「その可能性はないの?」


「ふむぅ?あぁ、なるほど、ねぇ。その可能性は無いよぉ、クン」


「彼らが考えるほどぉ、この世界は。キミもいつかはぁ、ちゃんと理解できるようになるよぉ」

「彼らの考えたい世界の行く末とぉ、亜神領海の知る世界の歴程は、全くの別物だからねぇ。協力なんて、ありえないよぉ」


「だから、さっきの二つはそれぞれ別の物として考えてくれていいよぉ」


「となると、話は最初に戻りますな」

「うん、そうだねぇ。少なくとも、前の彼らの根城はザルツヴェルグにあったからねぇ。そう大きくは移動していないと思うんだけどぉ」

「巧妙に隠れている、ということですネ」

「そうなんだよねぇ。縁が切られてるみたいでねぇ、『探査サーチ』なんかにも反応がなくってさぁ、にっちもさっちもいかなくてぇ、此処にたどり着いたんだよねぇ」


「此度の一件、依頼を受けておいてなんですが、御仁のお力を借り受けねば、達成は困難であると考えまする。故、そのお力一時我らに預けては戴けませんかな」


「同道する、というのは難しいかなぁ。僕との縁が強固になると、君たちまで弾かれかねないしねぇ。でも、こっちでも調査は続けるし、それを君たちに伝えることや、君たちが見つけたものからさらに調査をすることくらいならできるよぉ」

「ありがたく、我等、調査の類は専門ではありませんので」

 

「じゃあ、依頼は受けてもらえると云うことでいいんだねぇ」

「期限はとりあえず、で良いのかなぁ」


「………我々、せいぜい百を超える程度の寿命ですので、年単位ならせめて一桁までにしていただけませんか?」




 結局のところ、依頼達成までの期限は決まらず、決めきれず。


 そも、霊翼猫キャスパリーグ寿はなく、外傷で死んでも暫くの後に、輪廻の輪を潜り抜けて現世に舞い戻るとのことで。

 また、黄昏領域に囚われているのなら、領域の開放が依頼達成の前提条件になってしまうために。


 そも、逸者ヌルの時間間隔が曖昧過ぎるゆえに。


 ‘‘無理をしない程度に、なるだけ早めに‘‘


 だけで、決まってしまったのだった。




 

 依頼人とは別れ、また女傑にも依頼の締結と共に、どんぶり勘定な依頼期限だけを伝えて。怒鳴り散らされる前にすたこらさっさと退散してきた我らが一行は、そこで重大な問題点に直面することとなる。




「金がない!!!」


「そらそうよ」

「何しに派出所ギルドに行ってきたのリーダーさん?」

「依頼を受けに行ったんだ!」


「………受けただけでは金にはならん……」

「その通りだとも!」


「じゃあ、別の依頼探しに行く?別にさっきの人も今すぐにでもって感じじゃなかったし、一つ二つはいいんじゃない」

「今戻ったら、今度こそスラシャに殺されるだろうが!」

「んじゃあ、別のとこで依頼受けますかい?それこそバレたら頭目の首が、姐御の部屋に飾られることになりやしょうね」

「恐ろしいこと言うなたわけぇ!ホントになったら、どう責任取ってくれるんだ!」


『それなら、責任取って派出所の広間に飾ってあげるよ。「バカここに眠る」で辞世の句は十分だろうさ』


 一行が声のする方へと振り向くと、そこには純白の羽を光らせた鴉が一羽。


「げぇ!スラシャ!なんで、何処から聞いていた!」

『あんたらが、いつものバカ話をしているところからさね』

 

「兄さん、バカ話ってどこからかな」

「そらおめぇ、前金も受け取らずにさっさか逃げ帰った話からよ。」

「調子に乗って、大金溶かしたところからではありませんカ?」

『調子にのって、旨い酒を奢ってくれたところアタリさ』


「それは本の最初の方ではないか!」



 

 閑話休題それはさておき、女傑程の者が態々使い魔を飛ばしてまでコンタクトを取りに来たのだ。


 阿呆な話は後にして、取り急ぎ場所を取り会談の準備を整える一行。


 使い魔の鴉は、じっとその手際を採点していた。


『百点中六十点、細かい粗は目立つけど役者が良いから、採点は甘めにしておくよ』 

「因みに姐御、内約は?俺は何十点分だい」

「Oh、ソワラサン。その台詞が既に減点評価な気がしマス」

「兄ちゃん、喋んなくてもバカっぽいんだから、無理しない方がいいのに」


「…………ハァ」


『今口を開いたオッペケペー迄含めて、全員減点ね』


「……!?」

「目上の前で。ため息。厳禁」


 何時までたっても話が進まぬと、女傑が強引に場をしきる。


『それでアンタ達、当てはあるんだろうね。まさかとは思うけど、当てずっぽうで領域に潜り込もう、なんて腹じゃないでしょうね』

「ご安心をスラシャサン。きちんと当てはありマス」


「ザルツヴェルグは。此処から東の


「うむ、此度の依頼は我らに示された探索譚の導クエストフラグである。なればこそ、二重に受けぬ道理もなし」


『そう、なら手伝えることはあるかしら?』


無い。少なくとも。暫くの間は。こっちも。動けない」

『アンタ達のよく言う、天命フラグが足りない、ってやつだね』


『わかったよ。それならにも話を通しておくから、アンタ達は何時も通りに好きに動きな』

「忝い、……その、ついでに良ければなのだが」




 ——リランダルへ向かう依頼などは無いだろうか——






「私の大楯がぁ、逃げて、逃げていくぅ、どおじでだぁ」


 そんなに上手い話もなく、それどころか手間賃替わりに「近くの森で魔害物モンスターが出たそうだから、サクッと討伐してきてくれよ」等と送り出される始末。


「リーダーさん、クソ五月蝿いです。もういい加減諦めてください。大体、楯なら一杯持ってるじゃないですか」


「違うのだ、今回出るのはガントレル工房が六年前に出した傑作、『五六型重機動防楯正式採用型』の復刻モデル、『五六型重機動防楯正式採用型グラリードモデルver.2.7』なのだ。こいつは傑作と言われた前モデルの長所である移動補助機構の持続時間をそのままに、欠点であった稼働機構部の脆弱性と走行時の風圧による防御可能角度への制限の改善を図ったグラリードモデルの発展型。新開発された素材を使用することで防刃、防弾、耐衝撃性をそのままに重量を二割減としたものであり、またどうしても稼働機構の性質上防御が不安視されていた部分への追加装甲の敷設と、稼働機構の組成の一新により故障率すら大きく低減させた最新モデル。さらには受注生産オーダーメイドで装甲の追加と重量軽減との割合を変えることもできるという彼の工房が今最大の力を入れている製品で私も愛用している『五零型展開式機動防楯正式採用型』との互換性も高く私の場合は装甲の追加を選択せずとも十分に防御能力を確保することができるために大きく今の装備や技能スキルを入れ替えることなくそのままに機動性と防御能力を向上することができる素晴らしき装備であり重量制限により今まで併用が難しかった大楯全身重鎧大槍の単一超重装装備スタイルを実現するための重要な要素の一つとなりえる装備で実現の暁には現在の耐えてしのぐスタイルはそのままに新たなる択として積極的に敵を討ちに行くことが出来る様になると共にさらなる圧を敵にかけることで一層敵愾心ヘイトを稼ぎ出すことが出来る様になるという夢一杯胸一杯な素晴らしき装備だったのだぞ」


「どれほど素晴らしい物か、よくわかっただろう」


「今北産業」


「かたい、

 はやい、

 ちゅよい。おk?」


「Oh、OK!」


 さんさんと、陽の照り付ける昼日中の街道沿いを、四輪馬車キャリッジに乗ってのんびりと行く一行。

 御者席には我が物顔でオッぺケペーが座り、手綱を握っている。

 馬車の中では、早くも見る価値も聞く価値もないようなバカ騒ぎが繰り広げられている。


 ここだけを見ればいかにも普通な様相だろう。


 牽いているいる馬の脚がいなければ。


 『召喚・蒼白の天馬コール・フリムファクシ


 神々の住まう天海を征く、神馬の写し身を現世へと呼び出す、祈祷呪文の内の一つ。


 空を征くこと、馬車を牽くこと以外際立った逸話を持たないために、行使しやすい呪文である。


 ちなみに知能も人並みにあるため、オッぺケペーが手綱を持っているのは、格好を付けているだけであり実は何の意味もない。


「リーダーさん、発作は収まりましたか?」

「火ぃつけたのはお前だろうが」

「うむ、まあ落ち着いた方だ。転売ヤーの姿を見たら発狂する程度だがな」

「なら、平常デスネ。さっさと話しを進めまショウ。皆さん、探索譚クエストは始まっていますカ?」


「こちらは、問題なく」

「僕たちも」

「いやぁ、実は俺、……問題ないよん」

「…………」


「では皆サン、問題ない様ですのデ、


 

「キャーーーーーー!!!」



 ラルヴァンが言葉を告げるや否や、静寂を切り裂く悲鳴が一つ。


 オッペケぺーが手綱をしごくや否や、馬車を駆る天馬たちは素早く転身し、霧の立ち込める昏い森の中へと突っ込んでいく。


だな、此度の神の思し召しフラグは。こういった経験は少ないと見える」

「なら俺たちベテランが、手取り足取り腰取り教えてあげなくちゃあね」

「ヘンタイ。男神だったら。どうするの」

「そんときゃそん時、『姿変えポリモーフ』でも使うかね」



「前方、人鳥鬼ハルピュイアが三体。鱗角鬼リザードマンが二体。争っているけど




「決まっている。どちらも傷つけずに制圧だ」




「……七秒後、割り込むぞ……」


 敵が何であれ、

 

「無力化呪文。用意完了」


 庇護するものが誰であれ、


「んじゃまあ、お空で見ている神さんに」


 彼らはその力を振るうことをためらわない。


「エエ、たった一つのさえたやり方、教育して差し上げまショウ」

 

 考えるべきことはただ一つ、


「いつでもいいよ、リーダーさん」


 取りこぼさずに、いることだけ。


「作戦、開始だぁ!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る