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 『高塔ラマーック導人メイガスのペット探し』


 などと、これ程迄に疑わしい話も無いだろう。

 そも、導く人、と書いての「メイガス」だ。

 それが、迷子のペットを探して欲しい、などと。

 況してや天下のガラテア商会が匙を投げる、などと。


 何も知らなければ笑い飛ばせるような、或いは冗談だとして、聞かなかったことにしたいくらいの、だった。


 

「状況は。後、依頼人はどちらに」

「詳しくはまだ聞いていないのさ。依頼が来たのは昨日のことで、裏取りもまだ終わり切っちゃいないのさ」


 煙管キセルを燻らせながら女傑が告げる。

 その表情、声色を武器と、鎧としてきた歴戦の商人が苦々しい内心を隠せもしない程、事態は深刻な状況であることが伺えた。


「依頼人なら、其処に控えているよ」

「請けるってんなら、呼ぶけど」


 他では出来ないだろう、縋るような顔。


「任せて、良いんだね」



 頼る、祈る、縋る、


 幾つも見てきた、


 何時だって、手を伸ばしてきた、


 取り零すことも、間に合わぬこともあった、


 謡われる物語サーガが総てではない、


 勝利の数だけ、敗北もあった、


 だが、それでも!

 我等は、紛うことなき、辺境最優!!



「「「「「「勿論!」」」」」」



 誰もが求める普遍の光日常、子供心にあこがれた英雄ヒーロー


 誰が何と言おうとも、彼らは間違いなく守る者なのだから。





 そも、高塔とは、導人とは、何か。



 この、混迷極まる《サウラン》陣営に置いて、主流派からは程遠い弱小派閥、は其れで済んでしまう。


 だが、しかし、生き馬の目を抜く武装商人カンパニーや、ハイエナや禿鷹すらも畏れる傭兵派遣会社マーセナリがしのぎを削り、渾然一体となった大規模総合商社たる崑崙コンロンと成った今のサウランで、いかに弱小と言えども派閥として成立していることが其の存在の特異さを示している。

 

 否、弱小である程に、大きな力に敵うもので無し。況してや相手は流通、情報のほぼ全てを平らげた

 本当に弱小であれば、影に日向に、などと言う前に。

 取引先全てが崑崙の物となって何時のまにやら自分たちも……。

 等と云うのが関の山。

 


 であれば、派閥として存在している高塔とは何者であるのか。



 何を目的として活動しているのか。




 実のところ、これらに関しては全て“不明”なのである。





 依頼人と話をすると云うことで、一度席を変え。お役御免となった頭目を力でもってしばきのめすストッパー役の双子は後列に、変わって頭脳労働役の二人、筋肉達磨半裸のヘンタイ半魔人種被差別種族が前に出る。


 更にはアルケが半魔人種インヴォルの体質である感覚過敏化コンセントレイトを自らにかけ、感知能力を強化。

 そのアルケを含めて一行に、精霊感者ドルイドのディケイが『感覚同調シンパシス』と『抵抗力レジスタンス』を、魔術師ウィザードでもあるオッペケペーが『真偽判別センス・ライ』と『平静サニティ』を。

 他にも幾つか、細々とした細工を仕込み。


 彼らにとってはいつものこと、どだい、使える呪文の数など使がゆえ。

 そして常に、


 大抵の者からは過剰とも思える程の呪文による強化、防護を速やかに、かつ密やかに施し。


「すン晴らすぃい!実に素晴らしい!」


 突如、眼前に人影が現れて


「「「「「???!!」」」」」

「チェストォ!」


「ほわっチャぁ!?」


 現れて、いた。




「いやぁ、済まなかったねぇ。何分、人と会うのは久しぶりでさぁ。ウンウン、良いねぇ、よくいるよぉ」


 、何事も無かったかのように話を続ける逸者ヌル



 異常な光景は、而して一同には当然のこととして流される。



 鉱石人種ガリアンなれば、宿石カタリストによっては切り付けた刃物の方が折れることもあるだろう。


 真人種アルヴなれば、世界の後押しフォーチュリストありきで斬撃をにできるやもしれん。


 半魔人種インヴォルであれば、番の精髄世界アストラルに逃げ込んで避けられるだろう。


 抗削人種ドヴェルグは、回避も抵抗も再生も、に対しては無力なれどに対しては無敵。



 それもすべては、ふさわしき位階ステージにあるのであれば。



 見目形は汎人種ヒューリンだろうそれも、而してが別物であるだけのこと。


 

 そも、逸者とは何者か?


 それは種族にあらず、民族にあらず、

 それは称号にして認知。


 生きとし生けるものすべてが組み込まれる、この世の仕組みシステム


 確認される中で一から最大でとなる位階。


 普遍的であることの範疇を示す一から四までの位階、《ヴァース》


 到達者や上位者としての意味で用いられる五から九までの位階、《セレント》


 理論上、すべての生命がたどり着け得る範疇となる。



 しかしそれより上は、文字通りに



 世のあるべき法則ルールを超える、普遍的な人々の持つ常識を嘲笑う。

 としての階に達した者たち、普遍的な道をたち。



 第十階悌踏破者ヌル



 見た目がただの汎人種であろうとも、中身は化け物。切り落とされた首を自ら繋げることなど造作もない。


 何もかもが不明な高塔が、なぜ世に知られているかと云えば。


 それは眼前の逸者のように、其々技巧の、知慧の極致へと達し人域を越えた力を得た、第十階悌踏破者の一部が其の名を名乗ったからにすぎず、また彼等が同士達の事を導人、と呼んだからに他ならない。


 其々がそれぞれの手法、手段でもって他者を導き

 残った者をさらに練磨し、を引き上げる。


 何のためかは不明ながら、各地にて出没しては怪事件を引き起こし、英雄や魔人を際限なく作り出し、ときには導人同士で殺しあう。

 蠱毒の如き所業でもって数多の者に、畏れ敬われる存在。




 そう、高塔とは、たったの逸者から成る不可触存在アンタッチャブルな集団なのである。





「貴方が依頼人と云うことで、間違いありませんかな」


 常に堅苦しい顔つきをした頭目が、一層その顔を引きつらせて問いかける。

 さもありなん、逸者など普通に過ごしていて会える存在でもないのだ。


 まして、普段からそれらしい振る舞いなど、欠片も見せぬを見ている一行には、人の成りをしたままの化け物等、丸腰で向き合える相手でもなかった。


 それほどまでに、眼前の逸者が纏う妖気は格別であり。


 而して一行が、向き合わんとする程度には、困窮がその貌ににじみ出ていたのだ。

 


「あぁそうだよぉ、早速だけど、説明始めて良いかい」


 それを示すかのように、自己紹介などすっ飛ばして逸者はいきなり本題に入っていく。



 ――事の始まりは、一月程前かなぁ。今回行方不明になった霊翼猫キャスパリーグにお使いを頼んだんだよぉ。――


 ――弟子を呼びに行かせたんだけどねぇ、つい先日、弟子の方だけが戻ってきてさぁ。弟子に聞いても家の子には会ってないって。――


 ――入れ違いになったのかなぁ、何て思って召喚・使い魔コール・サモンの呪文を使ったんだけどねぇ。――

 


「呪文の効果が無かったんだよぉ、困っちゃってねぇ。他の導人に聞いてみたら、こういうのを使うと良いって聞いてさぁ。早速頼んで見たわけ。」


 頭を振りながら、そう一行へと告げる眼前の逸者。


 一行にしても、高塔の導人らがマメに連絡を取り合う間柄とは思っていない。

 彼らは、単一の目的のために集ったのであり、仲良し集団などではなく、ましてや運命共同体でもない。

 互いに利用しあうだけの、使命遂行の為のだけのビジネスライクな付き合いなのである。


 それでもそう言うのであれば、それはよほど切羽詰まった先のことであり。

 事態がそれほどに煮詰まっていることに他ならない。


「御仁、呪文の効果が無かった、とは一体どのような?」


「ふつう、召喚系の呪文は呼び出す側と、呼ばれる側とで相互に働いているんだよぉ。だから、今回で云えば、こっちで門を開けて引っ張って来ようとしたら、むこうから嫌がられちゃった。見たいな感じかなぁ」


「つかぬことをお尋ねしますが、そうなると既に使い魔が亡くなられている、ということは?」


「それはないよぉ、そうなったら呼び出しの呪文も使えないからねぇ」

「だから今回はぁ、むこうが応えられないような状況に、なってるんじゃあないかなぁ」


「一つ。聞きたいのですが。その霊翼猫。翼は有りますか」


「三対あるよぉ」


「なる、ほど」


 其の反応は二つに別れた。霊翼猫、という種族についての知識を持っているか、否か。

 

 

 ――霊翼猫、源代から続く種族の一つであり、その名は幾つもの神話体系ミトロジーに登場するほど。

 そして、歳を経た個体は輪廻の輪を潜り抜け、再び基幹世界観ニュークリウスへと舞い戻る度に、其の身に霊素エーテルの羽根を蓄えていく――



「つまりは、だ」

「三対翼なら齢は下らない」

「其れだけの幻獣クリーチャーが音信不通、か」


 元々、ただのお使いなどとは誰も考えてはいなかった。


 しかし、内容はさらに常軌を逸していたのは間違いない。

 事は、ただの迷子探し、等ではない。


「あり得る可能性は二つ、

一つ、僕ら以上の存在、亜神領海エルフへと至った者に囚われている。

二つ、黄昏領域ロストベルトに囚われている。

その、どちらかだろう」


 一方は、世界の条理を笑いながら挽潰し、己が夢想で世界のすべてを塗り替える。

 正真正銘のの関与を示し。


 もう一方は、善悪中立問わず神々が、世界に在らざるべきモノとして、この世界へと穿った陥穽

 この世に生きとし生けるものの背負った宿願使命を盾にした謀の存在を示す。



 逸者として長い時を生き、人智を越えた艱難辛苦を味わってきた導人ですら震えの走るような、それは希望の一切見えない二択であった。




「つまりは、いつも通り、と云うことだな」

「その依頼、我等、すちゃらか楽団バンドマンが請け負った」

「安心召されよ御仁。我らは辺境最優、吉報を届けて見せようぞ」

 


 

 頭目が決めたのであればそういうことで、そも、困っている人が目の前にいて、その手を取らないなんて選択肢は、どだい誰の頭の中にもありはしなかったのだから。


 その迅速なまでの依頼の締結は、想定される困難さとは裏腹に、関係することになった多くの人間の予想を裏切って、あまりにもあっさりと決まったのであった。





「ところで、君たちはに来る気は無いのかなぁ。剣士君なんてその気になれば、すぐにでもこっち側になっちゃうだろうにぃ」


「ワタシはまだ、であることを捨てたくはないのデス」


「この世はまだまだ、知らないことで、知りたいことで溢れ返っていますカラ」



「そうか。……君の選択を、祝福することはできそうにないけれど」

「それでも、君たちのこれからに、良き神の思し召しフラグがあらんことを」







――――――Tips―――――――



 『カニ味噌』


 カニ味噌は脳みそではなく、中腸線と呼ばれる器官。すい臓と肝臓の機能を合わせた器官で肝すい臓とも呼ばれている。


 また現実同様に各種有害物質も実装されている為、過剰摂取による健康被害も確認されている。


 なお、現実世界においても、ゲーム内においても、貝毒の類のサキシトキシン等は熱に耐性を持ち解毒薬等も無いため、当たったら延命措置を取るしかない。

 オカシイな、と思ったら すぐさま119番だ


 関連項目


 ・海老味噌

 ・甲殻類

 ・カニ味噌ロシアンルーレット破裂事件

 ・「汚え、花火だぜ。」

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