真実は、いつも一つ!
――うららかだった昼下がり、お天道様は相も変わらずお空の上で、お大尽を気取っているそのさなか、白昼堂々と起きた大事件。隣のおうちのザヴォエル君(仮)とそのお友達を挽き殺した犯人とは――
「後半へ、続くぅっ!」
「バカをやってないで手伝え、このスカポンタン」
そよ風の吹く、長閑な街道沿い。
鳥のさえずりが遠間から聞こえてくる、けだるげな陽気には。
およそ似つかわしくない、殺戮の跡と格好の一団がそこにいた。
一人は
双子だろうか、鏡写しのごとき風体の
片方は深緑色の外套を豪奢な緋色の
もう片方はカーキ色のトレンチコートを颯爽と着こなしている。片割れよりは幾分幼い表情ながら、胸元に除く碧いブローチが洒脱な雰囲気を醸し出している。
大きく視線を下げると、そこにはずんぐりむっくりな
他方、此方はさらに猟奇的な。
並んだ死体の前で腕を組みながら唸っているのは、蒼髪の
その横で死体を並べる猟奇的な活動に勤しんでいるのは、白金色の髪を短く刈りこんだ
まるで、一仕事を終えたばかりの農夫のような、気だるげな雰囲気を纏いながら。
この度の珍事件の後始末をしている一行であった。
「珍しいですね。こんな所で
「このためだけに
鎧袖一触、言葉通りに一分足らずで
「……残しておくべきか……」
「必要はないでショウ。尋問したところで、彼らがホントのところを話すとは思えまセンッ」
「……そのポーズは……?」
「モストマスキュラー、デスッ!」
「…………ふむ………、…………そうか………」
前衛組は、死体から形を保っている装具の類を引っぺがして見分していく。見覚えのある刻印や装飾など、手掛かりになりそうなものを虱潰しに。
他方、後衛組は別の方向でアプローチしていく。
「まあ。話そうが。話すまいが。逃れることは。できませんが」
半魔人種の青年アルケが、奇麗なままの
一際体格のいい有翼鬼だ、生前はさぞ方々を荒らして回っていたのだろう。死体でなければアルケの細腕では抗うことなど出来はすまい。
強者の死体を恣にするそのことに、ほの暗い悦びを抱えて、アルケは一つの呪文を紡ぎだす。
『
本来交わらぬはずの生者と死者との境を取り払う呪文。
どんなに口の堅いものでも、たちどころに答えを述べさせてしまう、まさに冒涜的な呪文の一つといえよう。欠点があるならば……
「どこに向かっていたの?」
「ア、ア……アンセット………」
「どこから来た?」
「ツ、ツヴィングトルム」
「何をしようとしていた?」
「人族の町、襲撃」
「他の部隊は?」
「拠点に」
「長の種族は?」
「…………知らない…………」
この、融通の利かなさだろう。
「つまり?どういうことだ?」
一行の
「この先にある
「ふむ、なるほど」
「リーダー、その、なんも分からんちゃい、みたいな時になんか言うの、やめた方がいいぜ」
「ふぅむぅ、なあるほどぉっ!」
「いっったぁい!!」
真人種の青年、双子の片割れソワラがいつものように頭目にちょっかいをかける。その返しはまたいつもの如く、鉱石人種特有の剛力と岩石の表皮を最大限に生かした
他方、痛みに悶えるあられもない姿には、世間一般の
「でも、どうすんの。山向こうに掃除に行くの?いっぱいお迎えが待ってるのに?」
見目以外のどこが似ているといえるのか、真人種特有の
さもありなん、山越え自体は彼らにとっては造作もないが、問題は別にある。
「……補給が、できん……」
一行の中ではストッパーより、坑削人種のオッぺケペーが答える。
今回は
さらに言えば、こちらは
そも、今回の主目的は別にある。今から目的を切り替えるとなると、彼ら特有の問題点にぶち当たることとなってしまう。
「そも。これは僕らへの
「そうですネ。これだけの兵力が気軽に来れるのなら、ここは人域とはなっていないでショウ。とはいえ、いつまで安全かは不明デス。いつでも探索譚を開始できるようにしておくのがいいでショウ」
アルケが棚上げの方策を示す。一行の中ではヘンタイながらも地頭はいい、汎人種のラルヴァンも同調しつつ方針を示す。
どだい、情報も何もないのに話し合ったところで、出来ることなど無きに等しいのだ。
一行は当初の目的にのっとり殺伐とした光景を尻目に、のどかな街道をゆっくりと、軽妙な旋律と共に歩いていくのであった。
「リーダーさん、ところで今回の巡業は、どの程度の期間を予定しているんですか?」
「ソワラ、お前また何も言わずに連れだしただろ」
「というよりも、ディケイサン。ちゃんと話を聞いてから来ないと、後が大変ですヨ。今回はちゃんと服とか
「待った!今回は俺じゃない!冤罪だ、弁護士を要請する!」
「大丈夫です。きちんとお泊りセットは携帯済みです。ちゃんと。おそろいの寝巻も用意しました」
「……色ボケが過ぎる……」
殺戮の跡など無かったかのように、和気藹々と街道を行く一行。
お天道様の行く方へ、気まま勝手に、早々にバカ話を広げ、自然体で歩を進める。
点在していた骸も既に無く、戻ってきた鳥の囀ずりからは、数分前に起きた惨状など、想像も出来ないほどに長閑であった。
悪鬼の軍勢、それは、数がいれば出来るものではない。
どだい、協調性、利他主義、知識の集積と研鑽といった、歴史や伝統を象徴するものを持たないからこそ、彼等は
数を集めた所で烏合の衆の方がマシ、縄張り争いを繰り広げ、最終的には屍の山の出来上がり。
何てことも珍しい事ではない。
それでも、悪鬼が群れるのは、生存戦略以上の理由がある。
それは、力による支配、ただ一つ。
そうして出来上がった軍勢が、
それでも、今は無きその光景を、他の者が見ていたなら、少しばかり話が違っていたかも知れない。
討伐数、四十体。
逃走数、零。
頑強な砦に籠った人族の一軍に、一時間で
況してや六人ぽっちでなどと。
本来で在れば、幾つもの城郭都市が陥落し、事態を重く見た
勝鬨を上げる人族たちが戦記の演目を終えるまでに、どれ程の人間の血が、涙が流れるのか。
あるいは、その途上で有志らが立ち上がったとして、悪鬼どもの暴虐をどれほど押しとどめられたものか。
矮巨人屠殺者一体だけでも、腕利きの傭兵が六、七名は欲しいというのに。
どれだけの規模の
そんなものはこの辺境にはなく、どちらであったとて何のお話にもならなかったろう。
ただ後世の歴史書にて、一行二行書き記されるだけの悲劇。
それを覆して見せたのは、而して別の意味でお話にならない我らが一行。
率いる頭目の名はクリフエッジ。鉱石人種の
歌によって味方を鼓舞し、盾になって味方を守り、その手槍でもって露払いを為す。自他ともに認める司令塔にして
その横で、陽気に周囲を盛り立てるのはソワラ。真人種の
呑気に空を仰ぎ、鳥たちと語らうのはディケイ。真人種の
彼の道行きに世界は障害を置かず、遍く命が彼と共に涙を流し、星々とすら語り合う。生粋の
危なっかしい相方の手を引き歩くのがアルケ。半魔人種の
肉体持つ異端の半魔人種。密やかに、而して知らぬ者なきその名は『
祈りと感謝、感情と知性でもって味方へは恩恵を、敵対者へは制裁を与える。
最後方で一人、
鎧を纏い、操縦桿を握る。異色の姿から付いたその名が『
一歩一歩、歩を進めるのに合わせて、特注の
愚直なまでに剣の道を突き進み、その果てに一つの真理にたどり着いてしまった『
その一振りに込められた意味を理解できるものは居らず、その生い立ちを想起できる者も居ない、孤高の剣士。一行の
集った理由も様々な、而して今は、
乗り越えた荒波は数知れず、だれもが知るその偉業、どんな貧村にも僻地にも、たちどころに駆けつけて、救いを齎す救世主。
彼らの越えてきた冒険譚を思えば、これくらいの出来事は、誰に語られる事も無く。
ただ空を行く者たちだけが、小さな命の行く末を、じっと見つめているのであった。
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