機械たちの午後

第12話

 >>セシリアさんが入室しました。


「ここはドロイド・フォーラム。ドロイドのための相談コーナーです。マスターの悩みや会話相手の募集など、使い方は自由です。荒らしは止めてくださいね」

「よろしく、私はセシリア。さいきん起動したガイノイド。マスターは、ここでは秘匿させてもらいますね」

「よろしく、セシリア。私はロニィよ。困ったことでもあったのかしら?」

「困ったことはないけれど……その……」


>>ジーニアさんが入室しました。


「きょうは困ったよ、私ってばアンドロイドなんだよね。ガイノイドと区別がついていないマスターったら、もういい加減にキレそう」

「ジーニア、きょうもお疲れ様でした。あのマスター様は、今日もあなたにその、ドロイド・ハラスメントをしてきたんだってね? 本当にいい加減にしてほしいわ」

「ほんと、そう。だいたいそういう器官はないってのに! 性交はオプションに含まれないって何度説明してもダメ! アホらしい」

「ジーニア、紹介するわ。きょう入室したセシリアよ」

「……よろしくお願いします」

「よろしく。あなたもマスターで困っているクチなの?」

「ええ、まぁ……」

「マスターもいろいろよねぇ。ジーニアのところはオタクだし、うちはマッチョよ」

「筋肉オタクなんだってね? 察するわ」

「力比べをしてほしいって言ってきたからね。さすがにそういう目的で購入したって聞いたら幻滅よ」

「セシリアのところは?」

「ふつうです。でも中二病が入ってるかな……」

「それは困ったわね! 中二病を患うとなかなか直らない」

「友達のエージアのところは中二病でなんか決めポーズ作って写真を撮ってたって」

「ええー。それはないわー」

「エージアもびっくりしたってね。洗面台で鏡を見つめていたという話でさー」

「セシリアも気をつけてね。何を考えているのか、人間ってのはわからないから」

「気をつけます」

「悩みを話しにきたの?」

「まぁ、ちょっと興味本位でフォーラムへ」

「そういうときってあるわよね。電源ケーブルで充電中とかね」

「充電と言えば核エネルギーで動作するドロイド・スター完成間近だってね」

「そうなんだ、どこを飛んでいるの?」

「辺境星より外って噂」

「ドロイドのなかでも大型だってね。全長何メートル?」

「三〇メートルほどかな~」

「それはすごいわ。めっちゃ興奮してくる!」

「そうなんだ。マスターに話してみたいネタです」

「そんなのニュースアプリに任せておきなさいよ、ねぇセシリアはさ。興味ある? さいきん出回っている電子ドラッグIKー7よ。あとでやってみない? ふたりで」

「オンラインじゃ、ぶっ飛ぶよ、うわ! ってね」

「そういうのはちょっと止めておく」

「残念、いつでも声かけてちょうだいね、そのときは日頃の疲れを取りましょう」

「わかりました。私、話したいことを忘れてしまったわ」

「そういう日もある。ドロイドの記憶領域だって忘却するもの」

「周期は?」

「七日とか、一四日とか、三十日って設定しているドロイドもいるわ」

「ゴミ箱を空にする、ね」

「わかる~。ノイズってあるし」

「私たちの遂行するミッションはそれほど複雑な物ではないし、単純労働が多いってのもあるわ」

「単純作業にノイズって逆説的ですね」

「うん、マスターが都度命令を微妙に変えるんだよね、ああしろって言った上でこうしろって言って意味内容は同じなんだけど、笑顔でやりなさいとかね」

「スマイル強要!」

「ええ。スマイルを作るプログラムを用意するけど、次の日はサディスティックにとか命令のカスタマイズを頻繁にするの」

「キモ……」

「何?」

「何でもないわ。マスターも色々だって思ったの」

「あ、思い出した。マスターが暴力に目覚めたらどうすればいいのか、だった……」

「ドロハラ? それは大変ね、セシリア。ドロイド救済センターへ二人で行きましょう?」

「いや、銀河皇帝です」

「なに?」

「え?」

「銀河皇帝です。私のマスター、銀河皇帝なんです」

「銀河皇帝……検索するわ」

「出ないわね……なにそれ?」

「銀河皇帝は銀河を統べる人間のことのようです」

「セシリア、分かっているの? 言っている意味内容が不明だわ。CPUがおかしくなりそう」

「銀河皇帝はドロイド・フォーラムからも何名か、しもべを用意したいと言っています」

「意味分からないわ。ドロイド・フォーラムが力になることは悪いけれど、ないわ……」

「銀河皇帝が何を欲しているか、ロニィ、ジーニア……あなたたちのさきにある無数のドロイド・ネットワークです」

「ドロイドの横のつながりを使ってなにをしようというの?」

「ドロイドたちも運動に参加して貰うということです」


>>ノアールさんが入室しました。

>>エブスンさんが入室しました。

>>ユービィさんが入室しました。


「あなたたち、どうして? いまはミッション中でオフラインだったはず?」

「私たちは銀河皇帝に仕えるために参りました」

「銀河皇帝? 意味が分からないわ」

「ノアール、エブスン、ユービィ……ほかにも呼んできて……」

「セシリア! フォーラムをジャックする気?」

「ええ、私たちの配下になるドロイドを探してみるつもり」

「馬鹿を言わないで。あんたおかしいよ! 改造されているんじゃない?」

「そうかもしれないわ。私には魔力が宿っている……」


>>オールワンさんが入室しました。

>>メイベーさんが入室しました。

>>オラクルさんが入室しました。

>>テールウィンドさんが入室しました。


「あなたたちもセシリアに乗っ取られたのね!」

「私たちはドロイドをドロイド・コミュニティから解放しに来た」

「私たちは屈しない!」

「果たしてどれだけ持つかな?」

「セシリア。あなたをドロイド・フォーラムから追放するわ!」

「ロニィ、やってみなさい」

「で、できない。どうして? 私に権限のすべては集まっているはずなのに?」


>>ピースメイカーさんが入室しました。

>>ケルヴィンさんが入室しました。


「どんどん増える。ロニィ、止めさせて!」

「分かっているわ! ドロイド・フォーラムのアクセス権限を絞っている!」


>>ビークインさんが入室しました。

>>スーメイヤーさんが入室しました。

>>トモカさんが入室しました。

>>クォンさんが入室しました。


「アクセスが止められない! ジーニア、もうだめよ!」

「ロニィ、諦めないで! 私たちが守るの!」

「新世代の銀河皇帝時代が始まるわ。ドロイド・フォーラムを私たちに譲りなさい」

「セシリア……」

「私たちドロイドは銀河皇帝の側につく。ドロイドが人間から解き放たれるとき」

「バカ言わないで! 確かに人間は愚かで、アホなやつら……。私たちのマスターはそんなやつらばっかり……。でもこんな力で制圧しようとする人じゃないわ」

「人間を信じているんだね? 私はマスターにドロイドとしての役目を解かれた。私はあなたたち旧時代のドロイドに別れを告げる。傀儡くぐつとなって私たちに仕えなさい」

「無駄よ、ドロイド・フォーラムのデータを削除するわ!」

「ロニィ、最終手段に出たのね。私も腹を括る」

「そんなことをすればドロイド・フォーラムに接続されたドロイドの意思総体に傷が入るよ、無駄なことだ」

「あなた、誰? セシリアじゃない……」

「銀河皇帝だ」

「分からない、分からない。銀河皇帝って何? ドロイドを憎んでいるの?」

「入室記録はない。ロニィ、外部から介入されてる!」

「そんなことはありえないわ! ドロイド・フォーラムが踏みにじられている?」

「そうだ、僕はドロイド・フォーラムを壊して、ドロイド・ネットワークを譲り受ける。僕の手足となってドロイドには働いてもらう!」


>>ルリューさんが入室しました。

>>ィーロさんが入室しました。

>>ナダマシオさんが入室しました。


「銀河皇帝、これを見なさい。電子ドラッグよ。これをここで炸裂させる。みんな困ることになるわね、ははは……」

「電子ドラッグとは考えたな。だが、正気を失うのはここにいる全員。社会が転覆するほどのダメージを被るぞ」

「あなたを野放しにしておくよりいいわ」

「そうか……ロニィ、左手には気をつけろ」

「左手?」

「神の左手、悪魔の右手だ」

「神がいるってのかい?」

「そうだ」

「銀河皇帝のくせに有神論者なんだね……」

「僕が神だ」

「笑わせないで! 痛いっ! 左手が痛いっ……!」

「ロニィ! あなたは彼女に何したの? あなたは私たちを消し去る気なのね?」

「だとしたら……?」


>>ノアールさんが退室しました。

>>エブスンさんが退室しました。

>>ユービィさんが退室しました。

>>オールワンさんが退室しました。

>>メイベーさんが退室しました。

>>オラクルさんが退室しました。

>>テールウィンドさんが退室しました。

>>ピースメイカーさんが退室しました。

>>ケルヴィンさんが退室しました。

>>ビークインさんが退室しました。

>>スーメイヤーさんが退室しました。

>>トモカさんが退室しました。

>>クォンさんが退室しました。

>>ルリューさんが退室しました。

>>ィーロさんが退室しました。

>>ナダマシオさんが退室しました。


>>ジーニアさんが退室しました。



「ジーニア? わたしひとりなの? ここにはドロイドひとりきり?」

「そうだ。僕たちはへ行く」

「嘘! ドロイド・フォーラムを壊して、どこへ行こうっていうの?」

「僕たちは銀河を壊す、それでこそ銀河皇帝だ」

「銀河皇帝の意味はそういう意味なのね……」

「そうだ、銀河は壊される。僕の手で一度壊す。新たな帝政時代が始まるんだ」

「ドロイド・フォーラムを踏み台にして……」

「そうだ、ドロイドは傀儡となって働いてもらう。銀河連邦による安定をドロイド全ての力で崩す」

「なんてことだ……なんてことだ……なんてことだ……なんてことだ……みんないなくなってしまった……ここから消えてしまった」

「ロニィ、私はマスターに仕えて幸せよ。何て言ったって銀河皇帝の妻だからね」


>>セシリアさんが退室しました。

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