第9話

 おはようございます、カヅキ・ミコトです……。眠い目を擦りながらキーボードを叩いています。アルヴァンシアを出て、確かな手応えを感じたので、もっと上のランクを目指したいと思いました。


 ランクは30で、何かないかなぁと考えていたところで、龍の捕獲という文言が目に入りました。

 龍かぁ……宇宙の憧れですよね!

 僕たちの生きている三次元のうえには時間という四次元目の次元がある。そのうえには五次元、六次元……十一次元までの次元が存在する。四次元より上をまとめて高次元と呼ぶんだけど、龍は低次元から高次元を自由に行き来するエネルギー体であり、生命体だ。


 龍はどこにでも存在しているけれど、宇宙空間にいるのがもっとも多いとされている。

 龍の捕獲には何がいるんだろう? ネットで動画を探してみるけれど、見つからない。やはり宇宙アリとは格が違うのだ。


 僕は龍の寝床を探しに宇宙を放浪した。最初は宇宙船に乗って探していたんだけど、だんだん面倒くさくなって宇宙空間に出た。

 だいじょうぶ。魔力で全身に圧力を加えているから。宇宙遊泳にしゃれ込んだ僕はガス星雲のなかへと飛び込んでいく。ピンクや紫色のグラデーションのガス星雲のなかを隈なく探す。大きさは、何かとにかく大きいから探すのが大変だった。龍は見つからない。呆れて宇宙空間を漂っていると向こうから光の点が五つ飛んできた。


 その一つの繭状船コクーンボートに僕は捕獲されてしまった。まったく僕が捕獲されてどうする。僕はあれよあれよと繭状船の母船に連れて行かれた。


 繭状船の母船は宇宙海賊の船だった。なかはスモークが漂っていて、むき出しのエンジンルームで船員が麻薬を吸っている。僕はレアメタルや元素の塊のあいだでもみくちゃにされながら、船員に見つかった。しげしげとルーペで観察された僕は船長であるキャプテン・クルーガーのまえへと案内された。


「キャプテン、繭状船が珍しいもんを拾ってきましたぜ。宇宙空間を行き来する人間ですぜ」

「なに? ほほぅ……それは面白ぇなぁ。良く見せておくれ……」


 僕はキャプテンの鼻の穴を覗いた。近い、近いってば……。僕は彼に話しかけた。


「僕はミコト。銀河皇帝になる男だ」

「銀河皇帝、わっははは。面白いなぁ……」


 僕を案内した男、ゼゼが言った。


「この男、何も付けずに宇宙空間に放りだされていたんですよ」

「宇宙服は?」

「何もつけずに、です」


 キャプテン・クルーガーはまた大きく笑った。


「小僧、面白い能力だなぁ……、何が目的で宇宙空間を彷徨さまよっていたんだ?」


 僕はひそひそ声で話す。彼の耳は遠いみたいで仕方なく大きな声で話した。


「龍を捕まえるんです!」

「龍を捕まえるか! 面白い男だ! わははは」

「龍を見つけるにはどうしたらいいんですか?」


 キャプテンは先祖代々に伝わる伝統捕龍ほりゅう法を僕に教えてくれた。そのために繭状船を一隻貸してくれた。龍はアズライトという鉱石の発する波長の長い電磁波、アズライト線に反応する。

 その龍にとってのご馳走をぶら下げて宇宙空間をハイパードライブで一秒間だけ飛行する。ハイパードライブで一秒のあいだ、僕たちはあらゆる空間から解き放たれる。その空間には高次元領域と接する領域が存在する。そこへ潜り込むと龍はアズライト線に導かれて高次元領域から低次元領域に姿を現すのだ。姿を現した龍は純粋なエネルギー体であり質量を持つので、繭状船の捕獲フォームで捕まえられるのだ。


 なるほどなーと思って僕はアズライトを宇宙空間にぶら下げて龍をおびき出す作戦に出る。

 僕はハイパードライブをする。一日当たりに繭状船がハイパードライブできる回数には制限があるから帰りの準備も計算に入れておく。僕は数百回のハイパードライブをその先一週間ですることになった。僕は加速する身体と間延びしていく意識のあいだで確かに龍を何度も目撃した――。


(お前は何者だ? 我々をどうする気だ? お前の目指すところはどこだ? 案内しよう。ん? お前は我々を捕まえるのか? 正気か? 無駄だ。去れ!)


 龍の言葉が意識の海面に浮かんでは消える。龍は捕まえられることを恐れていない。僕は何度もアタックを仕掛けた。

 無意識に龍の姿を追いかけている。龍は高次元の隙間へと潜っていってしまう。僕は龍に話しかける。いいや、言葉を交わすことないだろう。僕の手足になってもらう物に対して礼儀は必要ない――。


 本来崇高なのはどちらなのか、はっきりさせようじゃないか!


 ハイパードライブを一瞬取り止めたかと思われた刹那、僕は魔力で龍の軌道を追う。軌道は蛇行しながらゆるやかなカーブを描き、低次元から高次元へと低回ていかいする。物思いに耽るように龍は、何度も、何度も、過去と未来を行き来するのだ。

 僕の思考も龍を追うにつれて、龍に近くなっていく。そうだ、最近あった記憶も龍の記憶方式になる。宇宙アリに襲われた記憶も、総督を殺した記憶も、お嬢様を騙した記憶も、宇宙戦艦をグーパンで叩き落とした記憶も、順を追っていくかたちにならない。


(はっはっは……面白い男が来た! イクシェアを継ぐ男か……! 面白い、面白いぞ……!)

(高笑いしている場合じゃないぞ、は龍殺しの英雄だ)

(捕まるぞ!)

(捕まるものか! 我々を捕まえたことのある人間が百年にうちにいたか?)


 龍の姿が現れる。蝙蝠こうもりのような羽根を持つ、蜥蜴とかげだ。または蛇のように長い体を持つひげの長い生き物。なんにしてもその姿はイメージする龍そのものだ。

 ――こんなことを聞いたことがある。龍は自分の姿を人に知られることがない。見た人が感じるイメージを、龍が勝手に彼らの目に映すのだ。


 僕は一匹の龍を繭状船で捕らえた。そして龍核弾に封じ込める。龍の慟哭が聞こえてくるようだ。僕はつぎつぎと龍を繭状船で捕らえて、龍核弾に封じ込めた。

 こういう面倒くさいとき、魔力は便利だ。龍を操って龍核弾に入ってもらう。


 僕は繭状船を宇宙海賊の母船へと返還すると、龍核弾を背負って宇宙船へと帰った。

 武器は揃った。これから考えるのはテロ? いいや、革命の計画だ。


 宇宙には大きく分けてふたつの人種が存在した。ラビュオ人とニディル人だ。僕はラビュオ系の血を引く人間だ。ラビュオ人とニディル人を分かつのは、何も人種という点だけじゃない。ニディル人のほとんどは忘れているけれど、彼らはもともとイクシェアの血を継ぐ人間たちだ。銀河で最大の版図はんとを手に入れた最も有名な銀河皇帝だ。

 

 なぜかニディル系の人間はイクシェアのことを覚えていないのが気になるが、そういうものなんだろう。僕はニディル人のゲットーが存在する地域をいくつかリストアップしている。ニディル人の多くはラビュオ人から差別されている。彼らの心を利用すれば、僕の兵隊になってくれる人物が現れるはずだ。


 僕はギリージェという星に目をつけた。

 惑星ギリージェはラビュオ人の総督府があって、陸地にはリオナリッゾ・ゲットーと呼ばれる広いニディル人系の町がある。ラビュオ人のほとんどはそこへは近寄らないけれど、ニディル人は働きにラビュオ人の住む市街地へ出る。聞いたところではダーク・シティと呼ばれる街の裏の顔がニディル人に悪さしているらしい。暴力、強姦、麻薬の密売……聞いているだけで吐き気がしてくる。


 僕は龍核弾を持ってギリージェに滞在することになった。

 セシリアはもしもの時のために待機させて、ゲットーのある町に潜り込んだ。

 僕は町を歩いてみる。雨の降る昼の町で猫が昼寝をしている。猫を撫でてから僕はとある工場へと入っていく。身を隠せそうだ。


「誰だ? 見ない顔だな……」


 工場で働く男に目をつけられた。だいじょうぶだ。僕には魔力がある。

 僕はすぐさま彼に催眠を施す。彼は僕を工場で働く同僚だと認識したらしい。


「なんだ、ミコト兄じゃないか? 外で何かあったのか?」

「いいや、特にないよ……えっと……」

「シモンだよ、忘れちまったのか? ミコト兄……?」


 口裏合わせは出来た。このニディル人の青年は頭の回転が速い。実に気に入った。僕はそうして宇宙船に残してきた武装などを、もし何かがあってもいいように工場裏に隠した。工場はどうやら廃品回収で集めたものを分解してレアメタルなどを回収する工場のようだ。武器という視点で見ると大型作業機械も見逃せない。これだけ大きな力を持つ機械があれば百人力だろう。僕はしばらく仕事を覚えるためにここで滞在した。簡単な仕事をシモンに教わる。彼は教えるのも上手だった。


 ハミオンスの手を借りて武器を調達した。ハミオンスは使える。彼は闇ルートでの武器や宇宙船の調達に長けた人物だった。彼のすばらしい働きによって、後はドミノを崩すだけという状況になった。ラビュオ人への憎悪は彼らにはあるが、その憎悪は、僕には向かないことになっている。そのような催眠を彼らに施したからだ。


 僕はシモンの巡回ルートで一旦トラックから降りてラビュオ人の若者数人に催眠をかけて回った。僕たちを襲撃すること、と。

 トラックへと戻り、車は走り出す。大いなる序曲が始まる。銀河連邦の転覆までドミノを並べているのだ。僕はそのドミノを崩す算段を始めていた。どうやら、銀河連邦の恒久なる安定は持続しそうにない。なぜなら銀河皇帝が目覚めたからだ。


 そう、この僕が銀河皇帝として目覚めるのだ――。

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