Part48:「進めッ!」

「――前ッィィンッ!前ェェェエッ!!」


 味方のFu-70の一機が轟音を上げて、ヴォートの真上低い高度を掠め飛び。

 それと合わせて、ヴォートは声を張り上げ。手にした大口径をリボルバーを掲げ、撃ち放ちながら駆ける。


 それに続くはヴォートの大隊。

 雑把に、適度に分散して。大きくは横隊を形成し。

 向こうに籠り待ち構えるParty軍に向けての、前進突撃を敢行する姿を見せている。


 同じく塹壕陣地を乗り越えたA107重戦車に、ダックインより這い出た戦車駆逐車等。各車が前に出て、大隊に遮蔽を提供しながら進路を切り開き。

 合わせて、スーパー・ヒューマン系の隊員等が主として戦車の隙間を埋め、歩みを合わせて先陣を切る。


 そのそれぞれの遮蔽提供を受けながら、大隊主力各員も怒涛の如く続く。

 敵に向けて押し進めながら。各員の装備する小銃から軽中重火器。各戦車の砲撃が、

 上がり、

 響き、

 轟く。


 もっとも、すべては大隊長たるヴォートを中心に、戦闘の続く形で敢行される形だ。


「進めェァッ!!」


 その怒涛の如きを率いながら、ヴォートは地面を踏み進む。

 その最中、敵Party軍からの銃撃や砲火が、ヴォートの近くを掠め、傍や背後で巻き上がるが。

 ヴォートは一切の怯み臆する様子を見せる事無く。

 向こうの敵へ大口径リボルバーを撃ち放ちながら。

 進み、押し続ける。


 そしてその果てに。ヴォートは、大隊は、Party部隊の籠る敵構築線の目と鼻の先まで踏み込み到達。


「押し込めェエッ!!」


 雄叫びの如き命令の言葉を発し上げると同時に。

 自らは敵構築線の最中渦中へと、何の躊躇も無しに踏み切り飛び込んだ。



 敵構築線の最中へと踏み切り飛び込んだヴォートは、その動きをそのまま飛び蹴りのものへと繋げ。

 向こうの隆起した地形の陰に潜んでいたPartyの指揮官級兵を、その勢いのまま脚撃を叩き込んで吹っ飛ばして伸して見せた。


 最早正気の外のまでの、敵――ヴォートの踏み込みからのそれに、周りのParty兵は最早困惑も間に合わずに硬直してしまう。

 

「!、おのれッ!」


 しかしその中でも、戦歴の深いと思しき一名のPA兵が反応する。

 それは、ここまでの御多分にもれずの麗しい美少女のメカ娘姿ではあるが。そのPA装備は従来型のPartyPA兵の物よりも一回り大きく、仕様も異なる。

 目に見えての手練れ。


 それが襲撃直後のヴォートの身に隙を認めて、襲い掛かって来たのだ。

 その武骨なアームが、ヴォートを捕えようと伸ばされる。


「!?」


 しかし、PA兵のその目論見は儚く潰えた。

 PAの武骨なアームはしかし空を切っっていた。

 見れば、ヴォートはわずかに半身を捻るのみの動きでそれを回避。


「ぅごっ……!?」


 そして連続する動きで。スーパー・ヒューマン化の投薬を行った左腕で、PAメカ娘のフェイスガードを鷲掴みにして捕まえ。

 なんとそのままPA兵の巨体を掴み上げて浮かして見せたのだ。


「馬鹿なっ……!?」

「う、撃て、撃てェっ!」


 その脅威の様相光景に周りのParty兵たちは困惑を見せるが。しかし次には兵の一人が叫び、周りのParty兵たちの銃火器が一斉にヴォートを向き刺す。


 ダーンッ、と。


 しかしそれを阻むように別方より、Party兵たちのものではない銃声が飛び込む。

 そして見れば、同じくしてParty兵の一人が横殴りにされるように弾け吹っ飛んでいた。


《――寿有亜!このっ、お一人様アーミーッ!》


 そして瞬間にヴォートの耳に通信越しに届いたのは、他でもないヨロズの。呆れと揶揄い、少しの焦りなどがない交ぜになった大声。

 今の射撃はヨロズの狙撃支援だ。

 そして声は、単騎突入を敢行したヴォートに少し焦りを覚え、寄越した叱る声であった。


「続けろッ、打撃を絶やすなァ!」


 しかしそれにヴォートが返すは、冷酷なまでの様相での、攻撃継続を訴える張り上げ声。

 そしてそれと同時の動きで、ヴォートは大口径リボルバー突き出し撃ち放ち。次には視線の先で狼狽の隙を見せたParty下士官を撃ち屠って見せた。


 ――それからは、ヴォートの傲岸不遜なまでの乱舞が。敵Party部隊にとっての阿鼻叫喚が巻き起こった。


 一切合切の躊躇の無い拳銃さばきで、自身を囲うParty兵たちを次から次へと撃ち屠り。

 左手に捕まえたPA兵を肉の盾に、敵からの射撃を退け。

 かと思えば捕まえるPA兵を、大盾の代わりにして別のPA兵に突っ込みぶつかり。怯ませた所を、装甲の隙間にリボルバーを捻じ込み、撃ち仕留める。


 撃っては、仕留め。

 捕まえては、利用し。

 ぶつけ、投げ、蹴り退け、潰し。


 ヴォートが見せたのは、まさに敵中を舞台に、撃声と硝煙と拳で描かれる。

 絢爛舞踏であった――



 ヴォートの魅せた乱舞は、しかし時間にして一分に至るかどうかの間の出来事であった。

 それからすぐに、率いるヴォートに続き大隊が到着。

 Party軍側の構築戦線に、各員各隊が、戦車が、ぶつかり雪崩れ込む勢いで踏み込み。戦闘が、いや一方的な制圧戦が始まった。


 装備の質で勝るParty軍部隊もしかし物量に抑え込まれ。

 歩兵もPA兵も、装甲戦力のAMSも。RP AF側の火力の暴力の前に崩れ、沈んでいく。

 Party 軍の築き籠っていた構築線からは、しかし次第にRP AF側の火力のみが一方的に上がり始めた。


《――寿有亜、前方向こうから新手!》

「ッ」


 ヴォートの耳が再びヨロズからの訴える声を聞いたのは。ヴォートが肉盾として掴み捕まえていたPAメカ娘を、最早不要と放り捨てた時であった。

 それを聞いたヴォートは、まだ散発的に戦いの続く敵構築線中を駆け抜け。その向こうへと踏み出る。


 そして光景の開けた向こうに見えたもの。

 それは、どこまでも執念のまでに執拗なそれの体現。

 第二、第三と攻勢隊形を気づき。こちらへ迫るParty部隊の大群の姿であった。


《冗談……一回引いて寿有亜!流石にそのままぶつかるのはマズイッ!》


 続け寄越されたのは、ヨロズの急き訴える言葉。それは観測からさすがに、新手の大群とこのまま戦うのは無謀と見ての訴えだ。


「ッ――いや、大丈夫だ」

《えッ?》


 しかし、そのヨロズにヴォートが返したのは。見える状況に反した冷めたまでの冷静な声。

 それにヨロズからは訝しむ声が返るが。

 ヴォートには。彼のその耳にはその〝確証の音〟が聞こえ届いていた――


 ――景色の向こうで、無数の巨大な爆発爆炎が上がったのはその瞬間だ。


 立て続けに、まるで向こうに広がる広野に爆炎で壁でも描くように。

 鍵盤でも叩くようなリズムと様相で。


 そしてその無数の大きな爆発爆炎は、向こうより大挙して迫っていたParty軍の攻勢線を、その舞台を。

 綺麗に浚えるように、巻き込み巻き上げ、消し飛ばした。


《!?――ぁ……!》


 狙撃配置のヨロズからもその光景は嫌でも見えたのだろう。無線にはまず驚きの吐息が聞こえるが、次には何に築くヨロズの一声が届く。


「――はッ」


 それを聞きつつ。ヴォートは感嘆半分、呆れ半分といった色の声を零しながら。

 ここまで届き伝わった熱と風、衝撃に微かに顔を顰めつつ。それに微弱に揺らされた視界を復帰させつつ、上空を見上げる。


 青く広がる空の高く向こう。そこには、悠々と飛び行く巨大な飛行体のシルエットがあった。

 その正体は――爆撃機。


 〝T-46〟と名称される、六発ものターボブロップ発動機を備える巨大爆撃機。


 紐解けば、荒廃前の技術を復活させるとある技術者組織によってレストアされ。

 利害の一致から、その技術者組織とRP AF 航空隊によって共同運用される、大空の巨人。


 それが空高くに。二機ないし三機でチームを組み、それが三組四組と続け。散会した隊形で、大空に飛行機雲を描きながら飛来した光景であった。


「ヒュゥ」


 近くの向こうで、囃し立てる口音が一声聞こえる。

 目をやり見れば、コーラ休憩を一緒にした二等士の彼が。サービスバトルライフルを上空へ挨拶のように掲げつつ、T-46の編隊を感嘆の色で見上げている姿があった。


「豪勢の最たるだな」


 ヴォートもまた、その大空を支配するまでの様相で飛び行くT-46機等を視線を戻して見つつ。また評しつつも呆れる声色を零す。

 最早明確だが。

 迫るPartyの攻勢軍勢を爆発爆炎の伴奏で消し飛ばしたのは、T-46爆撃機編隊によるもの。

 総力を挙げて発電所施設へ迫るParty軍に、決定的な打撃を与えて決着を付けるため。T-46爆撃機編隊は出撃し。

 まさにジャストのタイミングで飛来し。腹、機内爆弾倉に抱いた無数の航空爆弾による死の雨をParty軍へと注ぎ、その一切合切を根こそぐまでの域で消し去って見せたのであった。


 豪勢なまでに盛大に。そして同時に清々しいまでに綺麗に浚えられた、恐るべき敵の総戦力。

 それによってどうやら決着となったらしい、この場、この戦線。戦い。


「――決着のようだな」


 それを感じ理解しながら。

 ヴォートは、飛行機雲を描いて悠々と飛び去っていく爆撃機の編隊を見上げながら。

 また皮肉気な色を込めつつ、そんな一言を零した――




「――ん?」


 そのヴォートの視線が。同時にまた別方向の空の一点に。

 シルエットからRP AFのものでもPartyの物でもない、一機のヘリコプターを認めたのはその時だ。


「あぁ――各員、あれは撃つな」


 そして見止めたそれにヴォートはすぐに察しを付け。

 周囲の大隊各員に向けて、そう命じる一言を発した――

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