Chapter8:「ファイナル・ベヒーモス」

Part49:「合流から、最後のエンカウント」

 アルスタライル太陽光発電所から見て南西方向の、上空低めの高度。

 そこを飛行する一機のヘリコプター――ToBの運用するストライク・ヴァルチャーがあった。


「――うわ」

「ひょぇぇ……」


 そして開け放たれた側面カーゴドアから視線を降ろし、声を零している二人の少女の姿がある。

 他でもない。星宇宙とモカだ。


 役目、担った「クエスト」を完了し。危機一髪、Partyの巨大航空戦艦「エクログロフス」を脱出した二人は。

 アルスタライル太陽光発電所に、入手した「ユートピア・デバイス」を届けるべく。ToBのSV機に運ばれて今まさにその上空へと到着した所であった。


「すっごい事になってる……っ」

「ここまで……Partyも死に物狂いだったんだろう……」


 その星宇宙とモカが零すは、眼下に見える景色を見てのもの。

 二人が見るのは、アルスタライル太陽光発電所の周辺。RP AFの構築陣地を始め、戦場となった広く各方の光景だ。

 そこかしこから黒煙や炎が上がり、上空からでもRPAF、Party両陣営の。朽ち、破壊された装備、兵器をあちらこちらに見ることが出来た。


 その様子から、想定通り苛烈な戦いとなった事は明確。

 いや、星宇宙はこの世界を「ゲームプレイ」として体験した際にもそれを見ていたのだが。

 今に眼下に見える光景は、規模、苛烈さの気配のどちらもその際の物を大きく越えていた。


 おそらく、ゲームプログラムではない。

 RP、Party問わずの、実際にこの世界で生きる人々の意志、生存、闘争本能。そんな様々な要素因子が、戦いを一層巨大で激しい物へとしたのだろう。

 明確な確証は無いが星宇宙は目に映した光景から、漠然とそんな思い考えに至っていた。


「ヴォートさんやヨロズちゃんは、どうなったんだろう……っ」


 そんな光景を眼下に見ながら。次にはモカが彼女に似合わぬ悲痛な顔で、そんな言葉を発する。

 この惨劇にも近い状況光景で、ヴォート等の身が無事であるかを大変に懸念しての言葉だ。


「――RP AF各部隊各位へ、こちらはToB所属機だッ。そちらへの要人を乗せて接近中、当機を撃つな、繰り返す、当機を撃たないでくれ!」


 その傍、SVの機内では。ファースがRPの無線への割り込みを試み、訴え伝える言葉を先から繰り返し紡いでいる。


「もうすぐ俺等の通信機もが届くかも……――ヴォートさん、聞こえる!?こちらは星宇宙、今はToB機にてそっちに接近中、聞こえたら答えて!」


 そして星宇宙も、自身のスーツに備わる無線機を用いて通信を開き。ヴォートに向けて呼びかける声を発し始める。


《――星宇宙さんか。受け取った、こちらはヴォート》


 その呼びかけには、ヴォートよりすぐに返答があった。


「ヴォートさん、そっちは無事!?」


 返答の言葉が返り。星宇宙はすぐさま安否を尋ねる言葉を返す。


《――RP AF全体にあっては、完遂のために少なからずの犠牲を出した……――しかし、自分とヨロズは五体満足で生きてるよ》


 その問いかけにヴォートからは、全体としては大きな被害を出したことをまず答え。しかし同時にヴォート自身の、相棒のヨロズにあっては無事である回答を返して来た。


「そうか……」


 それに、やはり少なからずの犠牲があった事実には心持ちを重くしつつも。しかしヴォートとヨロズが無事であった事実には、星宇宙はひとまずの安堵を覚えた。


《そちらも、成功したようだな》

「あ、うん。えっと、ユートピア・デバイスは入手成功して、えっと……」


 続けてのこちらの状況、「クエスト」完遂を察してのヴォートの呼びかけ。星宇宙はそれに肯定しつつ、色々あり過ぎたここまでの状況を、どこから説明したものかと少し困惑する。


《色々あったようだな、詳細は地上で話そう。各隊各所にはそちらを撃たないよう命じてある、陣地後方のヘリパッドに着陸してくれ》


 しかしヴォートからは、そう提案し促す言葉が、説明の言葉と合わせて寄越される。


「っと、了解――ファースさん」


 それに星宇宙も言葉を切ってまずは了承。

 それをファースに取り次ぎ、SV機は示された着陸地点へと向けて進路変更から降下を始めた。




 RP AFの構築陣地の内、背後後方に設けられた簡易ヘリパッドにSV機は機体を降ろした。


「っと」

「ほぃっと」


 兵員輸送室より飛び降り地上に足を着く星宇宙とモカ。

 その二人はすぐに向こう、ヘリパッドの端にある気配に気づく。

 向こうには迎え待ち構えていたのだろう、ヴォートとヨロズの姿があり。二人は星宇宙等を認めるとこちらに歩み向かって来た。


「ヴォートさんっ」

「ヨロズちゃーんっ!無事でよかったよぉーっ!」


 星宇宙はまずそのヴォートに名を呼び。

 モカにあっては一番に声を上げながらヨロズに駆け寄って行き、ヨロズの身に遠慮なく思いっきり抱き着いた。


「ヨロズちゃーん……っ!」

「あー、はいはいっ。無事だったよ、あんたも無事で良かった」


 ヨロズに密着して声を零すモカに、ヨロズは子供でもあやすようにモカの頭を撫でながら、そんな互いの無事をまた喜ぶ言葉を返す。


「星宇宙さん、互いの「クエスト」完了のようだな。見事だ」

「うんっ、なんとかね……っ。ヴォートさんも、何より無事で良かったよ」


 ヴォートと星宇宙もまた顔を合わせ、互いの健闘からの完遂を称える言葉を交わす。


「えっと、それから……」


 そこから星宇宙は。ここまでをどう説明すべきかを悩みつつ、背後を見る。

 そこには星宇宙等に続き機を降りて来た。ファースにラグラデオスやFLHの姿があった。


「ToBのキャプテン・ファースです、少佐殿の事は道中で伺っています。RP AFの健闘、お見事でした」


 内のファースがまず前に出て星宇宙と並び、その黒髪ポニーテールを靡かせ姿勢を正し。ToB騎士式の敬礼と合わせての自己紹介と、ここまでの戦いを称える言葉をヴォートに紡いだ。


「RP AF、第121大隊大隊長のヴォート・ドーン少佐です。そちらこそ、Party拠点の無力化を伺っています。協力に感謝し、健闘を称えます」


 それにはヴォートは悠々としたRP AF式の敬礼動作で返し。また自己紹介と合わせて、協力への感謝と健闘を称える言葉を返す。


 正直言えば、パワー・バランスから微妙な関係にあるRP AFとToBだが。しかし少なくともヴォートとファースは互いに、戦う者個人として。互いへの敬意を尊むものとして、示し交わし合った。


「いえ、そのような。大半は彼女等の功績です、我々は良くていくらかの力添えをしたに過ぎません」


 それからファースは、ヴォートの検討にしかし少しの自嘲気味の言葉で謙遜し。最大の功労者と見ている星宇宙を示しながら返した。


「そんな……えっと、それから……」


 それに星宇宙自身はまた少しの戸惑いを見せつつも。さらに続けての説明を紡ぐべく、言葉を探す。


「後ろの、あの子たちは?」


 しかしそれには、ヴォートが少し導くように質問の言葉を発した。

 ヴォートが示し尋ねたのは、星宇宙等の背後にいる二人の少女――ラグラデオスとFLH。想定していなかった人物の同伴に、まずはそれを尋ねるもの。


「あぁそうだ、まず紹介するよ。まずあっちの白髪の子は――ラグラデオス」


 それを受けて星宇宙も紹介の優先をと思い至り。まずはラグラデオスを、彼女の名を紡ぎ示した。


「ラグラデオス?「エクログロフス」のAIの名……――まさか」


 その名を聞き、ヴォートは訝しむ様子で微かに目を見開き、しかし同時に思い至る一言を零した。


「そう、ラグラデオスAIだよ。MODの影響か、女の子の姿になって自我が生まれたらしいんだ……」


 それに星宇宙は肯定。そしてしかし、同時に星宇宙もまた困惑の様子を浮かべる。


「そしてそっちの黒髪の子が――FLHさん」


 そしてしかし一連の紹介をまずと、続けてFLHの名を紡ぎ示した。


「FLH――ッ」


 しかしその名に、ヴォートは今以上に目を剥いた。

 その名こそ、この世界に降り立ったヴォートと星宇宙に度々呼びかけ導いてきた、謎の存在の呼称。


「そう、FHLさんその人だよ」


 星宇宙も、その知って間もない事実を肯定する。


「〝生の祝福〟――君とは初めてになる」

「まずは、君の健闘を称えたい」


 そして示されながら、FLHはその小さな姿で前へ出て来て、ヴォートと相対。まずはそう、ヴォートのここまでの戦いを称える言葉を紡ぐ。


「そして、数々を申し訳なかった」

「この世界を存続させるために、君と」

「〝希望の星〟の存在が不可欠だった」


 そして次に、また独特のパツパツ区切るそれで詫びる言葉を紡ぐFLH。


「いや――生の祝福?希望の星?」

「ヴォートさんと俺の事みたい……」


 FLHの言葉にヴォートは一言をまず返し。しかし同時にFLHの呼ぶ独特の呼称に、訝しむ色を見せる。

 それには星宇宙が、自身もまた困惑を微かに見せつつも説明。


「君等のこちらの都合での呼称となる。大きくは気にしないで欲しい」


 それにFLHからはそんな補足の一言が入る。


「知りたいことは、多々あるだろう。私たちからその知る限りを……――」


 そして、今にヴォートの抱く多々の懸念疑問に。答えるべく言葉を紡ぎ始めようとしたFLH。


 ――ウゥゥゥゥゥゥゥゥ――、と。


 しかしそれを遮る様に。発電所方向より周囲全域に届く、鈍い警報のサイレンが響き聞こえたのはその時だ。


「えッ!?」

「ッ!」


 それに星宇宙やヴォートを始め。その場にいた全員が目を剥き身構える。


《――全部隊、全部署に伝える。南西方向より敵勢力と思しき存在の接近をレーダー群が補足。各隊各所は警戒態勢にッ。まもなく目視域……――あれは……!?》


 そして放送音声により伝わる報。それは統合指揮所より、新手の出現接近を告げ、総員再配置を伝えるものであったが。

 次にはその統合指揮所の側で何かを捉え見たのか、放送音声には思わずの色で零された一言が混じる。


「なにが……」

「!、星ちゃん!向こう!」

「寿有亜、南西方向っ!」


 まだ詳細を掴めぬそれに、狼狽える言葉を零しかけた星宇宙だが。

 それに答え示すように、モカとヨロズが同時に声を発し上げる。


「――ぇ……んなっ!?」

「ッゥ」


 その言葉に示され、振り向き翻ってその方向向こうを見た星宇宙とヴォート。

 そして星宇宙は思わず声を上げ。

 ヴォートは顔を顰め口を鳴らし零す。


 その向こう、南西の上空。

 そこに見えたのは――巨大で、あまりにも歪で禍々しい存在であった――

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