Part47:「苛烈」

 アルスタライル太陽光発電所施設の一か所の高所。

 そこでは、そこを狙撃地点と定めて配置していたヨロズの姿があった。


「――ッ」


 腹這いになり、愛銃のマクミラン TAC-50を抱き着くようにして構え。

 戦闘開始から、主としてヴォートの配置する壕に近づくParty兵・部隊を撃ち退け。同時に、狙撃支援の必要と判断した各所に向けて、適切な狙撃支援を行っている。


「ちと、良く無くない……ッ?」


 しかし、的確な狙撃を行いながらもヨロズは苦く零す。

 今もRP AF側の戦車が、各砲座が咆哮を上げ。無数の銃声が響き上がっている。

 しかしその狙撃スコープ越し見える、開始から刻一刻と変わる戦場の状況・傾向は。あまり芳しいものでは無くなりつつあった――



「――ッぅー」


 塹壕を利用して一応の遮蔽をしながら、ヴォートは苦く口を鳴らす。

 想像は十分にしていたが、それでもParty軍のその強力な装備に物を言わせた力押しは、やはり非常に厄介であった。


「――ッォ!?」


 その瞬間にも、Party部隊のAMSL(大型戦闘歩行機)の高威力レーザー砲からの攻撃が着弾。

 側方奥に見える、ダックインしていたこちらの中戦車が大破炎上した。


「6-6被弾、大破ァッ!」


 近くにいた小隊の隊員が、張り上げる声でその詳細を寄越す。

 その直後には間髪入れずに、後方奥の陣地の高射砲がお返しとばかりに水平射撃を撃ち放つ。

 近く横では機関銃班の中機関銃が、絶え間なく射撃音を上げている。


「ッゥ――113大隊に要請した、戦車班から返答はッ!?」

「至急向かうも、所要10分との返答ッ!」


 それぞれの知らせの声や銃砲声を聞き、また顔を顰めつつ。ヴォートは少し前に別部隊へ要請していた増援の状況を張り上げ訪ねる、

 それに小隊曹からは、またその詳細を張り上げる声が返る。


「10分後には消えてるかもしれんぞッ――ッゥ」


 それに皮肉気にぼやきつつ、塹壕から最低限視線を覗かせて前方向こうを見るヴォート。

 その向こうに見えるは、RP AF側の激しい攻撃を受けながらも、その中で態勢を整え向かってくるParty軍部隊の隊形戦線。

 こちらの構築した対戦車壕(落とし穴)や妨害構築地を利用して、向こう側の防御線を築き、粘り。

 おまけにその後方からは、どこから沸いて来るのかまだまだParty軍のVH機が度々飛来。歩兵部隊やAMSを増援として降下降着させて来る。


 現在状況は膠着しつつあり、このまま消耗すればここを突破される危険も生じ始めていた。

 おまけに――


「ッぅ――あぁ、煩わしいッ」


 直後にはヴォートの、構築陣地の上空を。劈く音を立てて何かの飛行物体が飛び抜けた。

 それは、ジェット機。

 少し独特な形状の、近未来的な造形をもつジェット戦闘機――〝EM-9 クイン・ビー〟という名称で呼ばれる。

 それは世界が荒廃する直前に開発された、文明最後の最新鋭機であり。Party軍のわずかに保有するなけなしの戦闘機部隊。


 おそらくPartyの本拠地たる航空戦艦からかろうじて脱出して来たもの。

 それが現在、戦場上空を飛び交い航空優勢をParty側に傾け。たびたび火砲や搭載火器を地上へ撃ち放ち、こちら側に出血を強いていたのだ。

 こちらの防空攻撃ももちろん懸命な防空攻撃を行っているが、相手はジェット戦闘機だけでなく多数のVH機や。さらに時には地上への応援攻撃も求められ、はっきり言って現状のこちらの手数は足りているとは言い難かった。


「横やりに気取られるなッ!優先を見誤るな、直近の脅威を優先して撃破しろッ!」


 そのParty軍戦闘機の存在を煩わしく、厄介に思いつつ。周囲の隊、隊員に訴え指示する声を張り上げるヴォート。


《――寿有亜ッ、真上ェッ!!》


 しかし。

 そこへヴォートの装着する通信機に、悲鳴に近い声が届いた。

 声は相棒のヨロズの、呼ぶその名はヴォートの本当の名。そして伝えるはヴォートに迫る危機を伝えるそれ。


「――!」


 同時に、ヴォートはその「危機」をすぐそこに見た。

 ヴォートの居る小隊戦闘壕の、側方ほぼ真ん前。地面スレスレの低空でホバリングするParty軍のVH機がそこにあった。

 火力手勢に低下を見せた防空網の隙を突き、一機が陣地の懐に潜り込んだらしい。

 その機種に備わる40mm機関砲が、その砲口がこちらを見ている。


 ヴォートの全身が警告を発する――退避を、逃げろ――

 しかし、それを認める事無く嘲るように。VH機の機関砲は次には咆哮を上げる……


 ――ガンッ、と。


 鋼鉄をしかし横殴りで強烈に叩くような、鈍くしかし大きな音が響き聞こえた。


「――ッ!?」


 自らの身が千切れ飛ぶ事を刹那に覚悟したヴォートは、しかしその辿る運命が塗り替えられ。

 そして、巻き起こった光景に目を剥いた。


 ヴォートを襲い打ち弾こうと企んだVH機が、しかし逆に側方の離れた向こうへ弾かれるように吹っ飛び。

 それを視認した直後には、地上に叩きつけられ爆発炎上したのだ。


「――!」


 そしてその直後には、またも劈く轟音が響き。そしてヴォートの上空を何かの飛行体が飛び抜けた。

 それはまたもジェットの音。しかし、今に上空を脅かすParty側のジェット戦闘機とは異なる、鈍くもどこか果敢な轟音。

 そして飛び抜けたシルエットは、また先鋭なParty機と比べれば、若干の鈍く武骨さを感じさせるもの。


「ハハッ!〝Fu-70〟だッ、こっちの航空隊の参上だァッ!」


 小隊戦闘壕の内から一人の隊員が、サービスバトルライフルを撃ち放ちながらも囃し立てる声を上げた。

 それを聞きつつヴォートが向こう上空に見るは、大空を背に旋回行動に入る戦闘機の姿。


 それこそ今に声に上がった通り、RP AFの航空隊の保有する飛行隊の戦闘機。

 〝Fu-70 ストレングスアーム〟。

 荒廃前の世界ですでに旧式の兆候が見えたが、それをアップグレードで補い時代を戦い抜いてきた傑作機。

 それが飛来し駆け付け、ヴォート等の窮地を救ったのであった。


「芝居じみたタイミングで現れる」


 上空を続け、二機、三機と現れ飛び抜けて行くFu-70戦闘飛行隊。

 その狙ったまでの登場に、少しの皮肉を零しつつ。しかしヴォートは口角を微かに上げる。


「少佐、航空隊の戦闘爆撃連合ですッ」

「あぁ」


 背後近くより知らせる小隊曹の言葉に、ヴォートも端的に返す。

 さらに上空高くを見上げれば、別方向の少し高い高度には。流れるような編隊を汲む、いくつかの飛行隊の姿が見える。

 ‶V-4L〟と呼称される、レシプロ式の艦上戦闘機の編隊。今にあってはRP AFの航空隊によって戦闘爆撃機として転用運用されているそれ。

 また現れたそれが、次には順次降下飛行に入る動きを見せ。そして搭載した航空爆弾やロケット弾を、Party軍の頭上より落とし浴びせ始めた。


 Fu-70の飛行隊が、クイン・ビーやVH機などの敵機を相手取っての空中戦、航空優勢確保の戦闘行動に入り。

 それの合間を縫ってV-4Lの各飛行隊は対地攻撃を敢行する。


 ここまでを見ての通り、RP AF側の航空支援の到着であった。


「ヒューッ」


 上空で繰り広げられ始めた空中戦と、航空攻撃により上がる炸裂爆炎の模様に。壕の内より、また隊員の誰かの囃し立てて鳴らす口音が響く。


「戦車班、到着ですッ!」


 さらに立て続けに、近くで小隊曹が上げた知らせの声が届く。

 ヴォートの大隊戦闘群の担当する構築陣地の、後方や側方より。要請していた戦車班、複数輛のA107重戦車が重々しいキャタピラを響かせて出現。

 各車は塹壕陣地まで到着、各所にその巨体を乗り付け配置すると同時に。備える凶悪な120mm砲を、敵Partyに向けて撃ち放った。


 空からの、地上からの。

 増援が現れたことにより増したRP AF側の容赦の無い砲火、火力投射が。Party軍の部隊や装甲戦力を、

 次に、

 また次にと、

 撃破、巻き上げ弾いて行く。


「――向こうさんの攻勢が収まった。いや、向こうの構築線に籠り始めている」


 その味方の各攻撃の咆哮、衝撃をすぐ傍に感じながらも。ヴォートは前方向こうの敵の構築線の様子を観測しながら声を零す。

 ヴォートが言葉に零した通り、Party軍はその攻勢に明らかな減退を見せ。向こうが築いた構築線へ退避し籠っての、防御態勢への移行を始めていた。


「大隊長」


 そこへ傍よりまた言葉が飛ぶ。声の主はこの小隊戦闘壕に配置する小隊の指揮を担う、ユーダイドの少尉の、敵方を示し具申する色の言葉。


「皆まで言うな、向こうが篭り切る前に崩す必要がある――前進だ」


 それに理解しているという様子で答え――次にヴォートが発したのはそんな一言。


「敵は今、崩れて脆さを晒しているッ。これを突き、敵軍に止めを刺すぞ――大隊、前進準備ィッ!」


 そして続けてヴォートは大隊各員に向けて行動指針を示し。命令の言葉を張り上げた。


「聞いたな、前進準備ィ!」

「前進だァ、各隊再編成しろォ!」


 ヴォートの命令は各隊長クラスや士官、代表者によって復唱され。大隊各員へと伝わっていく。

 そしてそれを聞くが早いか、各隊各隊員等はこれよりの全身突撃に備え。準備、終結再編成の姿を見せる。


 その動きを周囲に感じながら、ヴォートが身に下げる装備ケースより取り出したのは。何か薬剤の入ったカートリッジ型の注射器。

 それを取り出すや否や。ヴォートはそれを何の躊躇も無しに、自身の左腕に押し付け針先を突き刺し注射。薬剤を一気に注ぎ込んだ。

 ヴォートの左腕が、筋肉のいくらかの膨張効果と血管の浮かび上がりを見せたのは直後だ。



 これは薬剤による強化行為、処置。

 投与により体の一部を、一時的にスーパー・ヒューマン化する肉体強化だ。


 ヴォートは先日にも、廃墟街での戦いでPA兵を片手で捕まえ弄ぶまでの姿を見せたが。

 今明かせば、その際にそれを可能としたのは。この薬剤投与からの肉体強化の恩恵であった。



 まるで気合の闘魂注入かのようにそれを終えたヴォートは。

 装備するホルスターより愛用の大口径リボルバーを抜き。そして視線を壕より出して、これより踏み込む向こう敵中を見据える。


 そして、激しい銃砲撃や上空での戦闘音が響き中で。同時に構築陣地の内には静寂の気配が伝わる。

 確認するまでも無い。各隊各員が前進突撃準備を完了し。ヴォートの命令を待つそれだ。

 それを感じつつ、ヴォートは片手を控え翳し――


「――大隊ッ、前ェエッ!!」


 ――命令の声を、ここまでで一番の号声で張り上げ。


 瞬間に、ヴォートは飛び出し踏み出し。

 そして続け、大隊各員各隊はヴォートのそれに呼応して飛び出し進出。

 怒涛の如き前進突撃を開始した――

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