Part46:「戦端、開く」

 発電所施設と広大な構築陣地は、全体を通して騒がしく慌ただしい様相に包まれ始めた。

 各方向へ、自分の配置に付くべく目指しかける隊員、作業員などなど。


 その内を同じように、ヴォートと二等士の彼も潜り抜け駆け進んでいた。


 ヴォートの指揮する大隊戦闘群は、発電所施設を中心に見て南西側の陣地ブロックへの配置を担当する。

 これは、Partyの本拠地と主たる活動エリアを向こう見る形であり。そして今に放送にあったように敵襲来の正面方向。

 そう、ヴォート等はこれより敵との真正面のぶつかり合いを担うのだ。


 なお、ヨロズについては発電所施設内で見つけた都合の良い高所スポットに配置し。狙撃支援にて大隊戦闘群を援護、及びヴォートを守る算段だ。


 程なくしてヴォート等は、自分等配置する塹壕陣地区画へとたどり着いた。


「俺は自分の小隊に合流しますッ」

「健闘をッ」


 そこで言葉を、健闘を祈る旨を交わし。ヴォートと二等士の彼はそれぞれの詳細の配置へ向かうべく分かれる。

 そしてヴォートはそのまま駆け、すぐ前を通る交通用塹壕へと飛び込んだ。

 狭い塹壕内に足を着き、そこからさらに総員配置で混雑する塹壕通路を、少し苦労しつつも潜り抜けて行き。

 ヴォートは大隊戦闘群の指揮所が置かれる、指揮所壕へと辿り着いた。


「!、大隊長、入られましたッ」


 すぐに指揮所要員の隊員の一人がそれに気づき、大隊長たるヴォートが到着した旨を張り上げ知らせる。


「大隊長」

「敵は視認域かッ?」


 そして急ぎ歩み寄って来たのは、一名のスーパー・ヒューマンの大尉。一個中隊の中隊長であり、同時にヴォートに同伴しての補佐を兼任する。

 その大尉に、ヴォートが一番に尋ねたのは、敵がすでに目視できる位置にあるかの確認だ。


「たった今、南西上空に機影が視認できた所です」


 それに端的に回答を返す大尉。

 ヴォートはそれを聞きつつ塹壕正面側に動き、そこに設置された塹壕鏡(塹壕用の潜望鏡)に取り付いてそれを覗き込んだ。


「――」


 まず見えたのは、遠くまで広がる殺風景な荒野。そしてそれを覆う、本日は快晴に恵まれ青くカラッと晴れた大空。

 そしてその大空の中、向こうに見えたのは多数の黒点。しかしそれが何かは状況から最早歴然。

 そしてそれは一秒一秒経過するごとに、大きく明確になっていく。


 それは――「敵機」の群れ。


 Partyが保有する無数のティルト・ローター機。ヴァーティ・ホークの大群であった。

 それも、機単体であるものに限らない。

 中にはPartyが同じく保有運用する歩行戦闘機械。彼らの装甲戦闘戦力、AMSシリーズを吊り下げ運ぶ機体がいくつも見えた。


 おそらく、星宇宙等があちらの役目を完遂させ、彼らの本拠地はすでに壊滅。

 そしての知らせを受け、この施設と土地を新たな拠点として狙い縋り占拠するべく。各地域兵の派遣部隊や、本拠地より脱出した残戦力が合流終結したのだろう。

 遠目に見るだけでもその光景は、圧巻すら与えるものだ。


「ッー」


 それを見てしかし、ヴォートは口を苦く鳴らす。それは「よくもあそこまで集めたものだな」と、少しの呆れを零すものであった。


「――ウチ(大隊戦闘群)の配置状況は?」

「完了が上がって来ている部署部隊は八割強、動きに少し混乱があります」

「無理もない。統合指揮所から別途指示は?」

「今のところなし。所定通り、各戦闘群判断で攻撃開始せよとの事です」


 一度塹壕鏡より視線を外し、ヴォートは傍らの大尉に訪ね、大尉からはそれぞれに回答が返る。


「了解――あちらさんは待ってはくれない、こちらも計画通りだ。準備完了した隊・配置だけでいい、敵が有効射程に入り次第投射開始する」

「分かりました」


 大尉より各回答をうけ、合わせて確認できた各現状を鑑み。それ等をもってヴォートは判断の言葉を返す。

 そして再び塹壕鏡に目を着け、それを越して向こうの上空に大挙して迫るPartyの軍勢を見る。


 同時にヴォートは背後に感じていた喧騒が、鳴りを潜めるのを聞き、同時に気配を感じる。


 陣地各所に配置した大隊戦闘群の各隊は、そのいずれもが最初の一射目を行う際には、ヴォートの統制指示を待つ。

 それを待ち、聞き逃さぬための静寂が訪れ、広い陣地を包んだ。


「観測壕より、敵編隊指標線突破ッ。レーダー群よりも範囲進入の報ッ――」


 指揮所壕内に響く、通信手の各所からの知らせを取り次ぐ報。

 それは。レンズ越しに見え迫る敵の大群の距離感、見え方と合わせて。ヴォートに確かな報として届き、指示を決断させた――



「――――撃ェァッ!!」



 ――ヴォートの発した命ずる号声。

 その直後、構築陣地の各所より。無数の銃声砲声、噴射音、爆音が、轟き響き渡った――


 大~中クラスの防空高射砲・機関砲、両用使用可能な砲、中距離クラスのミサイル等々。

 飛行する航空機への攻撃を可能とする火砲火器が、一斉に咆哮を上げたのだ。


 数多の、無数の劈くまでの轟音が構築陣地を広く包み巻き起こり。

 そして直後にはその砲口群の向けられた先。向こうの上空広くの範囲で、無数の爆発炸裂が巻き起こり。それで大空に苛烈な光景を描き覆った。


 そして同時に起こったのは、それに諸に晒され受けた、PartyのVH機たちの悲劇の乱舞だ。

 特に位置と運の悪かった機は、防空高射砲の砲撃、あるいは中距離ミサイルの直撃を食らい。中空でボロ切れのように成り果てて砕けて散る。

 あるいは高射砲撃の炸裂の近弾を受けた機がその衝撃で弾かれ、近くを飛んでいた僚機と中空で激突。もつれ絡み合って墜落していく。

 そして最悪の事態を免れた機体も、しかし膨大な火力投射と炸裂に晒され。まともな飛行の力を削がれ、そうでなくとも少なからずその身を傷つけた。


「効力射、多数確認ッ」

「各砲座、以降は各個任意に射撃ッ」


 側方近くの観測スポットから、防空高射攻撃の有効を伝える声が届く。

 それを聞き直後に、ヴォートは以降は各所各個攻撃を認める指示を張り上げる。

 それを反映するように、陣地中の各配置・砲座からはそれぞれの判断による砲撃・攻撃の音が乱れる域で上がり始めた。


「敵編隊、降着し兵員の降下を開始ッ。AMS他装甲戦力の降着も視認ッ」


 それに混じり、立て続けて観測スポットより報告の声が届く。

 ヴォートにもそれは見えていた。


 こちらの防空高射攻撃を受けて不時着したVH機。もしくは無事ないし損害警備ではあるが、それ以上の飛行での接近を断念したVH機が。

 載せていたParty兵部隊や、吊り下げ運んでいた各AMS機を地上へ降下させはじめたのだ。

 それはすなわち地上戦への移行、開始を意味した。


「各小隊、各班及び各配置にも各判断で投射開始を認めるッ。遠慮はするなッ!」


 その光景を見たヴォートは、指示を張り上げながら塹壕鏡より離れる。


「大尉はすでに上がったかッ?」

「はいッ、第3中隊の指揮に上がられましたッ」

「了、自分も戦闘壕に上がる。ここの指揮は本部付き隊隊長にッ」


 近場に居た本部要員隊員に訪ね、合わせて調整指示の言葉を交わすヴォート。

 そんな様子を見せつつ、ヴォートは直後には指揮所壕内を出る階段通路を踏み。隣接して構築される小隊戦闘壕へと駆け上がり出た。



 階段通路を駆けあがり、小隊戦闘壕に踏み入ったヴォート。

瞬間、その向こう傍から轟音が聞こえ届いた。

 音源は、小隊戦闘壕にさらに隣接して構築されていた戦車退避壕。そこにダックインしていた戦車駆逐車(駆逐戦車)の107mm砲の上げた咆哮であった。

 その砲撃は空気を切り裂き向こうへと跳び、降着し進撃を始めたばかりのPartyのAMSS(小型戦闘歩行機)を叩き殴るそれで撃ち仕留めた。


「ッー」


 それを見、さらに視線を流すヴォート。

 小隊戦闘壕は、深く掘り下げられた指揮所壕より視界が開けて光景が広く視認でき。戦況、動きがよくわかる。

 開けている分危険が伴うが、指揮官は後方で籠ってばかりもいられない。


 降着し地上で戦線を整え始めたParty部隊、いやParty軍だが。その頭上からは重々しい死の雨が注ぎ始めていた。

 この地帯より後方に配置展開した、RP AFの野戦砲射撃大隊からの阻止支援砲撃が始まっていた。


 さらに近く各所の壕陣地、スポットからは。砲火を潜り抜け接近して来たParty軍に向けて、配置している軽砲や小型対戦車ミサイルの直射が叩き込まれている。


 容赦無いまでのそれ。

 しかし、Party軍は待ち伏せを受けて初動を大きく崩されながらも。その態勢を徐々に整え直しながら。

 その装備の強力さに物を言わせて、攻勢に勢いを宿しつつあった。


「小手先だけではいかないか――容赦するなッ、徹底的にたたき込めッ!!」


 それを見て、一言零した後に。

 ヴォートは銃砲声を退ける勢いの声で、周りに向けて張り上げた。

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