Chapter7:「オペレーション エイジ・パルセイション」

Part45:「準備」

最終局面に突入です。



――――――――――



 ――日付は一旦前日に戻り、場所は移る。


 ――アルスタライル太陽光発電所。

 元は世界が荒廃する前に建造された――というゲーム設定の反映された発電所施設であり。

 現在はRPにより確保され、運用・稼働可能状態へと復元すべく、修復作業が進められていた。

 そして先日からその作業はピッチを上げ、発電所施設は騒がしく賑やかな様相光景に包まれていた。


 そしてだ。

 それと合わせて、それまでは何もない荒野が広がるだけの殺風景な地であった発電所周辺は。

 しかし今にあっては、とてつもないまでに物々しい光景へと成り代わっていた。



 発電所施設を中心に、各方向に広がっていたのは――巨大な軍用・戦闘、作戦用の陣地だ。


 発電所を囲い守る様に、各方面方向にいくつかのブロックに分けて陣地は構築されている。

 塹壕が狭く細い物から深く大きいものまでが、縦横無尽に、無数に張り巡らされ。

 各所には、


 指揮司令用、生活待機隊舎用、小銃分隊・小隊用、迫撃砲用、軽中火砲用、防空火器用。

 通信、補給休養給仕、武器弾薬備蓄、病院衛生。

 戦車・装甲車のダックイン用、機関銃・火砲用銃眼ないしトーチカ。

 などなどなど、etsets……


 あらゆる役割を担う無数の壕、施設が構築設置されていた。

 さらに各陣地の向こうには、鉄条網にバリケードが張り巡らされ。対戦車壕(落とし穴)までもが構築されている。


 そしてこれ等はもちろん、RP AFのものであった。



 そんな太陽光発電所を囲い守る形で作られた、巨大な構築陣地の上空を。

 一機のヘリコプターが飛行旋回していた。


 ずんぐりぼってりしたシルエットの、旧式の観測連絡輸送用ヘリコプター。

 元はこの世界が荒廃する前のいくらか過去に。軍や各組織によって運用されていたもので。

 今に飛行している機に在っては、RP AFがレストアして運用しているものであった。


 また。この発電所施設地帯より離れた後方には、野戦飛行場までもが設営され。

 そこではRP AFの戦闘飛行隊が出動待機状態にあった。



「――体裁は整ったか」


 そのヘリコプターの内、搭乗員スペースには機上の人となっているヴォートの姿があった。

 激しいローターの回転音を聞きつつ、開け放たれた機の側面カーゴドアから地上を見下ろし。一望できる発電所施設とそれを囲う陣地を眺めつつ、そんな言葉を零した。


「構築状況は90%程、到着した部隊より順次配置を割り当てています」


 そのヴォートに説明の言葉を紡ぐは、同伴しているヴォートの指揮下の中隊長。

 現在ヴォート等は、上空よりの陣地の構築進行の状況、状態の確認を行うために機上に身を置いていた。



 発動した、アルスタライル太陽光発電所の復旧再運行と。そのエネルギーを用いてのユートピア・デバイスの起動による、この地の汚染された土地の土壌浄化計画。

 そしてそれに伴っての予想される、敵性勢力の妨害攻撃を防ぐための防衛作戦計画。


 これらは総称を、

「オペレーション エイジ・パルセイション」――「時代の鼓動作戦」と名称され。


 現在、このプライマリー・ダウンワールドに展開するRPの多くの戦力、組織力を投入しての、大々的な作戦計画進行の最中にあった。



 そして。先日の星宇宙との邂逅からの相談の上で、この発電所復旧と防衛のための「クエスト」を担当する事になったヴォートは。

 同時に彼の「RP AF少佐・大隊長」としてのキャラクター立ち位置・背景から。RP上層部より、現場に先発して入って先任指揮官となっての陣頭指揮を命じられ。

 ここ数日、その役割に奔走していた身なのであった。



「準備にあっては、素直に順調だったな」


 引き続き、眼下地上の光景を眺めつつ。そんな言葉を零すヴォート。

 ここまでの、太陽光発電所の復旧のための各種動き、「クエスト」にあっては。

 煩雑で面倒なものではあったが、キャラクターの立場から組織力の恩恵に預かれるヴォートにとっては厳しいものでは無く。妨害も無く順調なものと言っても良かった。


 しかし、ここからだ。


 もう一人のプレイヤー〝星宇宙〟が向こうの担う「クエスト」を。Partyの拠点を壊滅させて、ユートピア・デバイスの入手を目指す作戦に身を投じる頃合いが近いはずだ。

 そしてそれの成功完遂はすなわち、Partyの残党が結集し。この太陽光発電所施設を新たな拠点として狙い、死に物狂いで殺到するクエストの流れを確定するものでもある。


「彼女――彼の、健闘を祈ろう」


 その。苛烈なものとなるが、しかしそうなってくれなくてはならない筋書きを思い浮かべつつ。

 ヴォートはこの遠く未知の世界で邂逅した、自分と立場を同じくする、少女の体を授けられた「彼」の事を同時に思い浮かべ。

 あちらの「クエスト」の成功を、彼らの無事を願いつつの言葉を零した。




 翌日。

 太陽光発電所施設とそれを囲う構築陣地は、朝早めの時間からまた活動を始め賑わい始めた。

 ヴォートもその立場からの現場指揮、各種調整、確認。かと思えば用意された簡易の事務室での書類業務に追われたりもして。

 ここが完全なゲーム世界では無いらしき事を、改めて身をもって知りつつ。忙しくも、しかし持ち前の小器用さから着実に業務役割をこなしていった。



 業務、他が一区切りし。

 ヴォートは、少し時間の食い込んだ遅めの午前中休憩としていた。


 太陽光発電所施設内には放棄された売店施設などがあり。現在はRP AFの厚生隊がそこを利用して、RP AF隊員や現場入りした技術者向けに、簡易な売店を開いていた。


「――はっ」


 ヴォートはそこで瓶入りのコーラなどを所望し、それを相方に一時の休憩時間を過ごしている。

 一角でヴォート始め休憩する者がいる一方で。それぞれの作業に従事する隊員に作業員に技術者の人々が、今も騒がしく行きかっている様子が見える。


「Party連中の襲来が、いつかいつかともどかしいですね」

「だな。だが確実に来る、備えるしかない」


 その光景を傍目に見つつ。

 ヴォートは丁度居合せた、自分の指揮下であり親しくもある二等士の隊員にもコーラを驕り。

 その彼と状況に関わる雑談を交わしている。


 ちなみにその二等士は階級こそ若いが、この荒廃した過ごして来たこの世界の人々の御多分に漏れず。尖る顔立ちで、戦いに関して素人では無い様相だ。

 おそらく、この世界にポッと出で現れた自分よりも、よほど戦いにも残酷な場面にも慣れている。

 そんな事を心の内で密かに考えながら。ヴォートは言葉を交わしながらコーラをまた一口口に付けた。



「――寿有亜。あぁ休憩中みたいだね、良かった」


 引き続きコーラを煽りつつ屯していた所へ、傍からボートの現実世界での本名が声が掛かった。

 その名でヴォートを呼ぶ人物は、この世界では一人しかいない。

 声を辿り見れば、その向こうより歩んで来るのは他でもない。「武装アイドルJK」的姿の金髪美少女、ヴォートの相棒のヨロズであった。


「ヨロズか。良かったって言うのは?」


 歩み寄って来る相棒を見止め返しつつ。ヴォートは合わせて寄越されたその言葉を意図を何気なく尋ねる。


「ずっと仕事に噛り付いてるんじゃないかと思ってね。そしたら引っ張ってでも休憩に連れ出すつもりだったけど」


 それにヨロズは揶揄い半分、心配半分の色で。そんな言葉の意図を返して見せる。


「おっと、正妻に浮気現場を目撃されちまったな」


 そんな所へ割って飛ばされたのは、二等士の彼からの言葉。それは今のヨロズの台詞にも見えたように、ヴォートとヨロズの密な関係を少なからず知っておりそれを揶揄うもの。

 ちなみにヨロズはRP AF他では、ヴォートが事情から私的に雇っている傭兵的な人物という事になっている。というかヴォート等がこの世界で目覚めた時には、すでにそうなっていた。


「変なコト言わないでよ」


 それに向けてヨロズは渋い笑みで返す。このやり取りはよくある事であった。


「そっちは?」

「あんた程やることは無いから、施設内をうろつき漁ってた――おかげでよさげなスポットが見つかったよ」


 ヴォートもまたいつもの事と気にせず。続けてヨロズに彼女の側の動向を尋ねる。

 それに返されたのはそんな回答。


 これよりの防衛迎撃作戦では、ヴォートは陣地の指揮所に入って指揮下の大隊を。正確には大隊を基幹に増強した大隊戦闘群を指揮する事となる。

 その際にヨロズにあっては重スナイパーとして。適切な高所に配置して、遠方よりヴォートを狙撃支援によって護る手はずとなっていた。

 今の回答はそれに関わるものだ。


「それはいい――それと、飲むだろ?」


 それにヴォートはまた端的に返すと。合わせてそんな聞く言葉を返す。

 そして聞くが早いか一度売店の方へと立ち、新たにコーラを一本所望。すぐに戻ってきて、そのコーラをヨロズにも与えた。


「ありがと」


 それを遠慮なく受け取り、栓を器用に開けて「カシュッ」と子気味の良い音を響かせるヨロズ。


 ――ウゥゥゥゥゥゥッ――と。


 鈍くしかし大きな、少し不気味なまでのサイレン音が響き轟いたのはその瞬間であった。

 太陽光発電所施設内を余裕で包み、外部の各方にまで届く域のそれ。


「!」


 それにヴォート等に限らず。その場、近くにいたほとんどの者が視線を上げて、顔を険しくする。


《――統合指揮所より全部隊、及び全部署へ。レーダー群が南西方向より多数の機影の接近を探知した。これを敵性勢力の襲撃の可能性と高確度で判断する。繰り返す、敵の襲撃の可能性第が大であるッ――》


 続け響き届いたのは、放送越しの鈍くも大きな音声。この発電所施設内に置かれる作戦計画の統合指揮所からの、伝える言葉。


「ッ!」

「――おいでなすったかッ」


 その内容は、聞いての通り敵の襲来を知らせる者。

 待ちかねていたまでのそれの、その時の訪れに。ヴォートやヨロズは目を見張り、声を零す。


《総員、配置に付け。繰り返す、総員戦闘配置――ッ》


 そして続けて響く放送音声は、戦闘配置を指示するもの。

 それが聞こえるかそれよりも早く、周囲に居合せた多くの人々は、しかし一斉にそれぞれの配置、役割につくべく動き始めていた。


「少佐ッ」


 二等士の彼からも、ヴォートに促す一言が掛けられる。


「あぁ――ったく、休憩の時に」

「だね」


 それに答えつつ。しかしよりによっての休憩の一時での襲来に、ぼやく一言を合わせて零すヴォート。それにヨロズからは相槌の言葉が来る。


 そして次には、ヴォートはまだ残っていたコーラを。

 続くようにヨロズも、開けたばかりのコーラを。

 気合を入れるように、一口煽り炭酸の心地よい刺激を喉で感じる。


「――行くぞッ」

「あぁッ」


 そしてヴォートが発しヨロズが返し。

 ヴォートとヨロズは自然な、当然のような動きで。互いの拳を翳してコツンとぶつけ合う。


 互いの健闘を祈る儀式的なそれを追えると。

 それぞれは自身の配置に付いて役割を成すべく、それぞれの方向へと駆け出していた――

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