Part44:「大きく飛べ!そして……」

 行く手を阻む者はすでに無く、後甲板の端までへの距離を駆け切るのに、さほど時間は掛からなかった。

 そこへ視線の向こう、飛行甲板後ろの端に別のSV機が滑り込むように飛来。ギリギリの距離高度で滞空して、カーゴドアを開け放った胴体横を、星宇宙等を迎え入れるように見せる。


「モカ、ラグラデオス!まず行ってッ!」


 星宇宙はまずモカとラグラデオスに訴え促す。

 その意図をそれぞれはすぐに理解。


 まずモカが最初にSV機へと思いっきり飛んで、兵員輸送スペースへ飛び込み乗り込む。

 そして次にFLHを抱きかかえるラグラデオスが飛び、先行したモカに支え迎えられ、無事に気へと乗り込んだ。


「よし行こう!」

「承知!」


 そして背後を一時的に守っていた星宇宙とファースも飛び乗るべく身を翻す。

 位置関係的に先にファースが飛んで機へと飛び込む。


 そして続き最後に、星宇宙が甲板を踏み切り機へと飛び移ろうとした。


 ――背後で大きな爆発が巻き起こり、振動衝撃が襲い来たのは瞬間だ。


「ぉァ!?」


 おそらく、艦の動力がいよいよ安定を怪しくしての予兆爆発。しかし予兆と思えどもそれは艦の飛行甲板に大穴を開ける程の大きな爆発だ。

 それに伴い艦は振動し、艦尾は僅かに傾斜沈下。


「ッぁ……!?」


 そしてまず事に、それがまさに踏み切ろうとしていた瞬間の星宇宙を阻害。

 爆風振動で動きに横やりを入れられた星宇宙の身は、十分な踏み切り跳躍を損じた。


(まずッ――)


 SV機が遠く、届かない。

 星宇宙はそれに無意識にそんな思いを浮かべ。そして、また無意識に伸ばした腕は、儚く、、空を切って墜ち行くかに見えた――


 ――ガシッ、と。


 その伸ばした星宇宙の腕が、強い力で確かに掴まれたのは直後瞬間だ。


「うぉッ!?」


 体重が掛かり、微かな痛覚を伴う思いっきり引っ張られる感覚が伝わり。思わず声を上げる星宇宙。


「――むぉぉ……!」


 そして見上げれば。

 SV機の兵員輸送室からほとんど身を放り出し、星宇宙を捕まえ支えるモカの姿があった。

 もう片方の手でSV機のガードを掴んで自分を支え、そして伸ばした方の手で星宇宙を使構え、懸命に引っ張り上げようとしていた。


「モカ……!」


 相棒の差し伸べられた腕。それに救われた事を理解し、星宇宙はその相棒の名を零す。


「ほ、星ちゃん……ゴメンはやく上がってぇ……っ!」


 しかし感慨にふけっていた星宇宙に、次にモカから寄越されたのはそんないっぱいいっぱいの声。

 タクティカルで頼もしい相棒であっても。流石に片手で人一人を吊り下げ支え続けるのは少ししんどいようだ。


「っとぁ!ご、ゴメン!」


 それにハッとして慌て答える星宇宙。


「頑張れ、堪えろ!今引き上げる!」

「回収サポートを実施します」


 さらにそこへファースとラグラデオスも乗り出して来て、手を貸して星宇宙の回収に掛かり。

 程なくして星宇宙は、皆の手によって機外へと引き上げられた。



「全員回収だ!離脱してくれ!」


 全員が搭乗、機への回収が完了され。ファースがコックピットに向けて指示の言葉を張り上げる。

 それに伴いSV機は機体を傾け揺らし急上昇、「エクログロフス」より少しでも離れるべく離脱を開始。


「ふぁ……最後にヒヤっとしたぁ……!」


 そんな揺れる機内で、星宇宙は最後にあった思わぬ危機一髪に。今になって冷や汗を掻きつつ零す。


「こっちもゾッとしたよぉ……っ!ギリギリ捕まえられてよかった……っ」


 それにモカも、同じ様子で今になって恐怖を感じた色で、言葉を返す。


「ゴメンゴメン……でも――捕まえてくれてありがとうっ」


 それに謝罪しつつ。合わせて自分を救ってくれたモカに、まっすぐに感謝の言葉を述べる星宇宙。


「!――当たり前だよ。言ったじゃん、大事な相棒だもんっ!絶対離さないよっ!」


 それを受け、モカは今更な様に目を見開き。そして次には彼女らしく、元気溌剌の言葉が似あうニカっとした笑顔を浮かべ。

 そんな言葉を返す。


「そうだったな」


 それに星宇宙も笑みで返し。

 そして次には片腕の拳をモカの前に突き出し翳し、モカも同じく自身の拳を翳す。


「ミッション――」

「――コンプリートだねっ!」


 そして星宇宙とモカの二人は、言葉をシンクロさせて上げながら。

 お互いの拳をコツンと子気味よくぶつけあった。




「〝希望の星〟を選び、〝絆の相棒〟を共にする者とさせた事は。選択として正解だったようだ」


 そんな姿様子を見せていた星宇宙とモカを。

 FLHの正体であった黒髪の美少女は、少し感慨深い気な色で見ながら。分析するように言葉を零している。


「これは、「尊い」と表現できます」


 そしてエクログロフスにあっては。一体どこでそんなワードを学習したのか、星宇宙とモカの関係性をそんなように表現していた。


「――ぅおっ?」

「ほぁっ!」


 そんな様子でミッション完了を確信し、ようやく一息が着いた所で。

 星宇宙等の乗るSV機の下方向こうより、遠くに感じる形で大きなものである爆発振動が伝わり来た。


「……あぁ」


 それぞれが機のカーゴドアや窓より眼下を見れば。

 「エクログロフス」の真ん中から巨大な爆発が発生。それが大きな爆炎へと拡大し、艦を完全に飲み込む光景が見えた。

 すでにToBのSV機の編隊は安全距離まで退避していたが、それでも微かにビリビリとした振動影響が伝わって来る。

 そして上空周辺には、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。かろうじて脱出したPartyのHV機がいくつも見えた。その様子から、そのほとんどはすでに戦闘意志を失っているようであった。


「……ファースさん、いいかな?」


 その各方の光景に少しの同情の感情を覚えつつ。

 星宇宙は次には目を機内へと戻し。コックピットのパイロットと調整を行っていたファースに呼び掛ける。


「あぁ、分かってる。我々としては一任務完了だが、君たちにはまだ役割があるのだろう」


 それにファースは、承知している旨を返して寄越す。


 星宇宙はこれより、入手に成功したユートピア・デバイスをこれよりの目的地。アルスタライル太陽光発電所へと運び届ける必要があるのだ。


 そしてだ。

 明かせばPartyとの戦いはまだ終わってはいない。

 本所地である巨大航空戦艦「エクログロフス」こそ破壊無力化したが。このプライマリー・ダウンワールド地方の各所には、まだ多くのPartyの派遣部隊が残存している。


 そしてTDWL5ゲーム上の流れでは、本拠地を失ったPartyはしかし各派遣戦力を結集して軍を再編成し。

 報復のためと。

 同時に、ユートピア・デバイスの起動によって浄化された土地を取り戻すことが可能となる、アルスタライル太陽光発電所とその周辺地帯を。新たな本拠地として狙い占拠すべく。

 最後の攻勢を仕掛けて来るのだ。


 これは現状から鑑みるに、この世界のPartyも同様に企み攻勢を仕掛けてくる事は。非常に高い確率で起こり得る、最早決定事項とも言って良い。

 おまけに。Party部隊は「エクログロフス」に籠っている部隊こそ錬殿怪しい二線級であったが。各地域に派遣され行動している実働部隊は、戦闘慣れしており手練れだ。

 それが結集し、大挙して迫る。


 そう。

 これよりは最終決戦が。最終局面が待ち受けているのだ。


「うん、そうなる。これからが最大の局面だ」


 ファースの言葉を、そんな背景を思い浮かべつつ。そんな言葉で肯定する星宇宙。


「君はRPとも協力関係にあるんだったな、その活動点がアルスタライル発電所だったね。いいだろう、送り届けよう」

「ありがとう、すまない」


 ファースはさらに確認の言葉をつづけ、そして自分等のSV機で星宇宙等を送ろ届けてくれる旨を回答。

 星宇宙はそれに少し申し訳ない様子で礼を言ったが。

 ファースは「任務の最大の功労者への礼としては、安すぎる代金さ」、と自嘲気味に揶揄う言葉で返してくれた。


「それと、ファースさんにも説明しないとね――この世界の事、そして〝俺等の正体〟――」


 そして、ここまで共に戦い良くしてくれたファースに。

 ここまでで明らかになったこの世界の事。そして自分等の正体を明かすべく。そう言葉にする星宇宙。


 すでに夜は明け、太陽が海の向こうからその姿を現し始めている。

 その内で、機内で腰を据え。ファースに長く複雑な話をなんとか紐解いて伝え説明しながら。


 星宇宙等は、最終決戦の地へと向かった――



――――――――――



次からチャプター代わり、最終局面に突入です。

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