Part41:「真相――そして、決断」
「あの子が……!」
「FLHさん……っ!?」
述べられた黒髪の少女の名称に、同時に声を上げる二人。
今に透明円柱の内で眠る美少女こそ。ここまで星宇宙等に時折呼び掛けてきて、漠然とだが導を示して来た存在――FLHだと言うのだ。
「どういう……!?」
衝撃の相対。そして新に生じる謎の回答を求め、星宇宙はまたラグラデオスを見上げる。
「暫定、「彼女」は。私と同系列の――そして同様にイレギュラーの生じたAIです――」
――ラグラデオスからは、経緯の詳細が語られた。
明かせば、FLHの正体は。TDWL5上のサブクエストで登場する、本来は名称無き簡易なAI機器アイテムだ。
説明され、星宇宙もその存在に思い当たった。
そしてしかし、〝イレギュラー〟によって確たる自我を形成するに至り。
そして驚くことに、FLHにあっては〝外の世界〟――現実世界への干渉を限定的だが可能とする特性を有していたという。
しかし自我を確立した段階では、FLHはまだ明確な目的指針を持たず。置かれていた小さな放棄された施設を離れ、放浪していたという。
一方、その環境から比類なき情報収集能力を有するラグラデオスは、間もなくそのFLHの存在を察知。FLHの特性からそれを要確保対象と見止め。
明かせばその形態から事実上、ラグラデオスの支配の元にあると言っても良いParty部隊を、AIからの意見具申という名目で誘導指示。
FLHの身柄を確保して、今に至ると言う。
「私は彼女(FLH)を確保後、スリープから収容措置を施しました――しかし、彼女はその内でも、密かにアクティブ態勢を保っていたようです」
続け、ラグラデオスが紡いだのは。どこか自分の不測を突かれて不服そうな、AIに似つかわしくない不機嫌そうな色での言葉。
FLHはラグラデオスに確保されて眠らされた後も、外部――現実世界への干渉を密かに可能としていたらしい。
そして、それにより招かれたのが。
星宇宙――いや、星図。
それに、ヴォート――寿有亜だと言うのだ。
「……」
ここにきて思わぬ形で明かされた、自分等がこのTDWL5へと招かれた経緯。
それに驚きつつも、まだ数々の疑問は止まない。
「その子、FLHはどうして俺等を……?イレギュラーってさっきから言ってるけど一体……そもそも、まずこの世界はなんで……?」
それを、うまく組み立てられないまま言葉に発し、またラグラデオスぶつける星宇宙。
「順に回答します。まず、イレギュラーとは――言い換えて例えれば、〝ビッグバン〟でしょう――」
それにラグラデオスからまず回答されたのは、このゲームを模した世界の正体。
聞くに「ここ」はまず、現実と並行して存在する「電子」からなる別の宇宙だという。
この世界は、現実世界でTDWL5として存在するゲームの概念の影響を受け。その元にまったくの偶然、偶発的――ビッグバン、一種の奇跡によって誕生した、まったく別の宇宙世界であると言うのだ。
途方も無く。ゲームシステムを反映している事から、MODデータの影響がある事まで。原理も何もかも星宇宙には漠然としか理解できず、多分に訝しむに値するものであったが。
これにあっては「そういう物」であるとしか言えないと言う。
そして次に、FLHやラグラデオスに生じた「イレギュラー」。
これもまた、偶然。生物の突然進化、変異に類するものだろうと言うのだ。
「……雑で、ご都合主義な出来の宇宙だな……」
「ほぇぇ……?」
星宇宙は最早呆れ声で、皮肉る言葉を零し。
モカは隣で(0Δ0)な顔で、呆けた声を零している。
ファースに在っては完全に置いてきぼりで、終始呆れ交じりの顰めっ面だ。
《……えぇ?》
《……ここにきて偶然に丸投げ過ぎない……?》
《いやでも……現実も実際こんなモンなのかも……?》
そして、戦いの最中で見る余裕は無かったが。しかし実はここまでも変わらず流していた実況のコメント欄にも。
視聴者の皆の、半信半疑というか全くピンと来ていないコメントの数々が流れていた。
「あくまで推察。観測できる範囲を分析しての、仮定に過ぎないものと補足しておきます」
そこへ、頭上のラグラデオスからはどこか他人事のように。そんな言葉が寄越された。
「――さて、最後の質問に回答します。FLHがあなた方をこの世界に招いた理由ですが――」
驚き、というより呆れ訝しんでいた星宇宙等の元へ。ラグラデオスからは構わずといった様子で、残る質問に答える言葉が紡がれる。
「それは――この「私の行動方針を阻害する」ことを企図してのものでしょう」
「ッ!」
しかし、その紡がれた言葉を聞き。星宇宙は目を見開いて、再び気を張った。
「〝希望の星〟。「既プレイ」のあなたはご存じと思われます」
星宇宙のその様子を見て。しかしラグラデオスはまた他人事のような色で続ける。
判明した、この電子の宇宙世界――の元となったTDWL5のゲームストーリーでは。
ラグラデオスAIはその自身が弾き出した分析計算結果から、ある指針の元に行動していた。
――それは、〝世界の消去〟だ。
荒廃し、残酷な争いと過酷な生存競争が続く。多くの人類、いや生命にとって希望無きものとなったこの世界。
それを解決、いや清算するための最適解――それは、この世界の全てを無に帰す事。
ラグラデオスAIをそう回答を導き出し、大量破壊兵器の回収。技術の収集復元などに乗り出していた。
ラグラデオスAIの宿る巨大航空戦艦「エクログロフス」に、Party残党を誘い招き入れたのもAI自身だったが。それもその方針の駒とするためでしか無かった。
そしてTDWL5のストーリー上では。
その世界の消滅を企図するラグラデオスと対峙し、選択分岐によっては苛烈な戦闘となる流れであった。
ラグラデオスの言葉から、そのストーリーラインを思い出す星宇宙。
そしてここに来て、一つが明確になった。
今の視線の向こうの真白い少女、ラグラデオスもその企みは同じなのだ。
この、TDWL5と言うゲームの概念・影響を受けて、電子の宇宙に誕生してしまったこの荒廃した世界を。
ラグラデオス彼女の導いた答えの元に。消去するつもりなのだと。
そして、それを阻止する「プレイヤー」として――「主人公」として。
自分、星図は――星宇宙として呼ばれたのだと。
「――ッ!――あぁ……」
覚醒にも近い感覚が星宇宙を走り。しかし次には、何か気だるい小さな吐息が、自然と星宇宙から零れた。
「この「世界」には、「プレイヤー」に位置する存在は不在でした。FLHはその解決策として、あなた方を「プレイヤー」として呼び寄せたのでしょう」
それに、補足のように言葉を添えて寄越すラグラデオス。
「――私から回答できる全てを回答いたしました。おそらく、あなたもご自分の立ち位置はお察しになられた様子」
そして、星宇宙の姿様子を眼下に見て察したのだろう。ラグラデオスからそんな言葉が寄越される。
「さて――その上で、いかがなされますか?」
そして、次にラグラデオスから寄越されたのはそんな尋ねる言葉だ。
TDWL5ストーリライン上では。
主人公、プレイヤーは。ここまでを切り抜けて来た行動力と実力を買われ、ラグラデオスAIに行動指針への賛同、勧誘を促される。
この荒廃した残酷な世界、これを救うには全てを消去するしかないと。
それこそ、「救済」のただ一つの方法だと。
そこからの選択はプレイヤーに委ねられ。
拒絶し、そこから苛烈な「ボス戦」に突入するルートもあれば。
それを受け入れ、そのまま世界が「消滅」の結末を迎えるルートもある。
ラグラデオスの言葉は、すでに「その流れは分かっているだろう」という。そして上で、星宇宙の選択を尋ねるものだ。
「……――」
重責――という言葉ですら生ぬるい。
ゲーム世界の流れを汲むとはいえ、明らかになったのはこの世界、宇宙は確かに誕生した別の「現実」だとなのだ。
正直、星宇宙は――星図は、時に考えもするのだ。
世界は醜く、苦しく、どうしようもないものだと。
無くなってしまえば。最初から無ければ。全て消滅してしまえば。
苦しむ事も無く。悲しむ者もいなくなるのでは無いかと。
それが、一つの正解なのでは無いかと。
――しかし。
「――ラグラデオス。俺は、君のやり方には乗れない」
星宇宙は、回答した。
「世界は、残酷でどうしようも無いと――時々思う。でもね」
「だからって、全部消しちゃおうっていうのは――〝なんか、嫌だよ〟」
星宇宙は、静かに告げた。
「ロクでもない存在がいっぱい居て、ロクでもない事がいっぱい起きる。俺等の現実も、この生まれた宇宙世界もそう、それは凄く苦しくて嫌で憎く思う……」
続ける星宇宙。
「でも、全部じゃない。
我武者に真っ直ぐ生きようとする者――
不条理に向かって徹底的に反逆するヤツ――
損なまでに優しい人――
そんな人々も居る」
選ぶでも無く。
ただ素直に出てくるまでを、言葉にした星宇宙。
「それまで、冷酷に消えちゃうのは――嫌だよ」
そして最後に一言を紡いだ。
「星ちゃん――」
「――」
モカとファースから見守る視線が注がれる中。
星宇宙はそれを受けながらそれ以上は紡がず。それがすべての回答だと言うように、ラグラデオスを凛とした瞳で見上げ見つめた。
「成程――選択は、受け取りました――」
星宇宙の向けた回答に。ラグラデオスは淡々とした言葉を紡いで返す。
そして次には――ラグラデオスを支えるアームが。各種マニピュレーターなどが、大きく動く気配を見せた。
「!」
勧誘を拒絶した事に寄る、彼女との戦闘の開始。
それを予期し、星宇宙等は各武器を控えて身構える姿勢を取る。
「何が何やらだが――まずは一戦か!」
「星ちゃん!」
モカとファースはそれぞれ星宇宙の両側背後を守るように配置し、そして星宇宙に声を掛ける。
「さぁ、盛大に振っちゃった……――二人ともっ。なんでも無いなんも無いヤツ一人に、巨大過ぎる選択が降りかかった故の結果と末路を呪ってよ――ッ!」
そんな二人に、星宇宙は自虐自嘲の言葉をニヒルに皮肉気に発し。
それを聞いた二人も、とことん付き合うというまでの微笑を見せる。
そして三人の視線の向こうで、ラグラデオスが大きく動く気配がした――
――……プシュー、と。
気体の漏れ零れる、そんな音が聞こえ届いたのはその直後だった。
「――うん?」
そして、身構えて臨戦態勢に入っていた星宇宙は。しかし次に前方に見えた光景に、思わず呆けた声を漏らしてしまった。
見ればラグラデオスは、戦闘モードに映る――様子はまるで無く。
その身を支えるアームを下げて少し降下させ。何か見下ろし確認するような様子を見せている。
その元に見えたのは、ラグラデオスが身柄を抑えるFLHの。その身を収めた円柱モジュールの、その扉が解放される様子。
「……え?」
「どうぞ、希望の星」
そして、また呆けた声を零してしまった星宇宙に。ラグラデオスから寄越されたのはそんな促す言葉であった。
――――――――――
すとぉりぃは作者の頭の限界にごつ。
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